ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS雨の物語「相合傘」

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フォレストシンガーズ

雨の物語

「相合傘」

 渋い色合いのチェックの傘はかなり大きい。これならばふたりでも濡れない。小さな肩を抱いてあなたを俺の胸に包むようにして、町を歩こう。

「いつも通り雨にゃ いつも通り雨にゃ
 あの町この町
 どの路地もひっそり閑」

 真冬の冷たい雨……みぞれ混じりの雨、春は近い。
 けぶる春雨。雨に散る桜。
 長く続く梅雨どき雨。
 ざぁっと激しく降る夏の雨と落雷。乾いた喉を潤す恵みの雨。
 枯葉を濡らす秋の雨。稲を成長させる雨。
 そしてまたNovember Rain……師走の雨、一年が終わる。

「あなたはどの季節の雨が好き?」
「隆也さんは?」
「俺は……あなたとこうして相合傘ができるんだったら、春でも夏でも秋でも冬でも雨は大好きだよ」
「……うふっ」

 はにかんで笑って俺を見上げるあなたを抱き寄せて、傘に隠れてキスをする。高校生に戻ったみたいな気分だ。

 誰かの背中で雨のリズムを聞いているうちに、眠ってしまった記憶がある。あれは母だったのか父だったのか、祖母だったのか。それとも、我が家に住み込んで行儀見習いをしていたお姉さんだったのか。雨、というと思い出される、おんぶ。子どものころの記憶の背景は必ず金沢だ。
 
 幼い身体には大きすぎる傘をさして、やっぱり大きめの長靴を履いて、一生懸命祖母のあとを追いかけた。幼稚園に入園してからはじめての雨の日。春の雨はつめたくはなくて、水たまりにわざと入っていって怒られたっけ。

 和服に和傘の綺麗な女性に、ぽけっと見とれていたのは小学生のころ。八つか九つくらいだったか。見知らぬあのひとは俺の初恋の女性。

 突然の雨に、傘を持ってきていなかった俺は校舎から走り出る。家路をたどる途中で出会った同級生の女の子が、黙って傘をさしかけてくれた。俺はかぶりを振り、ありがとう、と目だけで言って傘には入らず再び駆け出す。中学生のころの無言劇のB.G.Mは雨の音。

 それからね、高校生になってはじめて、好きな女の子と相合傘をしたんだよ。今、ここにいる相合傘のお相手のあなたには、そんな話はできないね。

「そのひと、どうしたの?」
「高校を卒業して俺は東京に出たから、自然消滅ってやつかな。でも、ごく最近、あのとき以来に再会したんだ」
「それで?」
「彼女の結婚式に出席させてもらったよ」
「未練はあるんでしょ?」
「あなたがいるんだから、未練なんてないよ」

 立ち止まってもう一度、あなたを抱き寄せてキス。

大学生になってからも、大人になってフォレストシンガーズの一員として、シンガーとして生きていくようになってからも、恋は何度も何度も訪れて去っていった。相合傘だってしたことはあるよ。雨の中を俺の部屋にやってきた彼女を抱き上げて、バスルームに運んでいったことだってあるよ。

 ふたりで歩く雨の中。あたたかな部屋にたどりついたら、バスルームからベッドまで愛する彼女を運んでいく。

 少年時代のコイバナだったら語れるけど、大人になってからのそういうのは生々しいね。俺はあなたとふたりきりになれる場所にいって、あなたとそうしたいんだけどな。

「相合傘道行
 すっかり晴れたら 離れなくちゃ
 もっと降れふれ
 相合傘道行」

 晴れたら傘をたたまなくてはならないから、そうしたら、幻のあなたも消えてしまうから、離れていってしまう。だから、雨降れ、もっと降れ。

END








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