ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS雨の物語「雨の慕情」

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フォレストシンガーズ

雨の物語

「雨の慕情」

 三つ年上なだけだからおばさんではないけれど、おばさんっぽいというか、ボクなんて自称していたけれど少年っぽくはなくて、むしろおじさんっぽいっていうか。

「幸生、なにがあったんだよ」

 肘で章につつかれて、なんにもないよとごまかした。
 言いたくないのはなぜだろう? 俺の彼女だって堂々と紹介するような……いや、彼女は彼女ではあるが、恋人という意味の「彼女」ではないのだから、紹介する必要もないわけで。

 昔から章はみんなに好きな女の話をしていたけれど、そんな章をガキっぽいと感じるようになったから、俺はコイバナはしなくなった。そのせいだから、そのせいで彼女の話はしないんだ。

 でも、俺、彼女に恋したんだろうか。

 好みのタイプは章ほどには確固とはしていないけれど、三十六歳のおばさんっぽい女性はストライクゾーンではない。キャットシッターの朝緒さん。がっしりした体格のおばさんっぽくもおじさんっぽくもある年上のひと。彼女が猫好き仲間だからこそ、話がはずんで楽しかった。恋とは別ものなのかもしれない。

 若いころには若い女の子に恋をした。恋だかどうかなんて確認もせず、好きになったら突き進んだ。

 十六歳の初メイクラヴのお相手には、むこうから誘惑されたようなもので。
 十八歳で恋した相手は、恋人にもなれないままに天に召されてしまった。

 それからだって何人もに恋をして告白して、つきあったりふられたり、断られたり捨てられたり、捨てられたり捨てられたり……そりゃそうだ。三十三歳にして独身なのは、つきあった女性もつきあえなかった女性も、抱かれてくれたひとも断られたひとも、すべてと別れたから。

 夫ある女性に恋したこともある。彼女も年上だったが、抱き合うことはかなわなかったので不倫すれすれ。彼女は夫のもとに戻り、俺は捨てられた。

 捨て猫みたいな女の子を拾い、清らかな関係のままで同居していたこともある。彼女は俺をどう誤解しているのか、彼氏ができた、あいつはどうこう、などと相談してくる。ぐっと年下の女の子だって大好きだけど、十歳以上も年下と恋人同士になる気はないのだからいいんだけど。

 本気で恋したつもりで、本気で焦がれたつもりのあのひとは、章とどうにかなりそうな? あれは遠い日の遠い感情だから、今になれば寝なくてよかったなと思っている。

 そんなことばかり重ねて、俺は年齢だけ大人になった。

「ユキちゃんはいい加減な男やねんから、ずーっとそうやってふらふらしとったらええんよ。結婚なんかせんとき。ユキちゃんの奥さんになる女性は不幸やわ」
「そうですねぇ。だったら弥生さん、生涯独身の俺とずっと遊んで下さいね」
「うんうん、遊びましょ」

 春日弥生さんにはまちがいなく、恋はしていない。五十代か六十代であろう女性は俺の恋愛対象ではないが、大好きなひとなのもまちがいなかった。

「そうだよ。こんな言い方って恥ずかしいかもしれないけど、弥生さんは俺の親友だな」
「……そんなの、変」
「変かなぁ」
「じゃあ、幸生くんは私にお父さんみたいな年頃の親友がいて、その男性のことを大好きだって言ってても平気?」
「一度、俺もその男に会ってみたいな。俺が見極めてあげるよ」
「どういう意味で?」
「きみにとっては友達でも、その男はきみに下心を抱いている場合もあるからね」
「弥生さんだって……」
「ないない、それはないよ」
「でも……そんなの汚らしいし」
「汚いって弥生さんが?」

 いつか、弥生さんのことを汚らしいと言う女がいた。俺はその言葉を受け入れられなくて、彼女のほうから告白してくれたのに断った。そんなことだって俺にはあるが、これは恋なのかな、と悩むのは久しぶりだ。

 結婚はしない。
 けれどそれは俺の一方的な考えで、女性は俺とつきあったら結婚したいのかもしれない。二十代のころにだって、幸生くんはお気楽すぎる、と言われてふられたことがある。三十代はなおさらだよなぁ。

 ああ、歳をとるってやだやだ。現実がのしかかってきて、永遠の少年でなんかいられやしない。
 ねえ、シゲさん、俺もあなたみたいな男だったらよかったと思うよ。章は論外、乾さんは異人種だけど、本橋さんとシゲさんはある意味、俺の理想のまっとうな男像なんじゃないかな。

 愛した女性にプロポーズして、ごく尋常に結婚へと進む。疑いなんかみじんも抱いていないでしょう? 本橋さんは置いておくとしても、シゲさんは純粋に女性と愛し合い、家庭を作って子どもを持ち、私生活では夫として父として生きている。それっていいものだなぁ。

 単純に、いいないいな、俺もそうしたいな、でもないだけに、シゲさんがうらやましい。俺にだってやろうと思えばできなくもない暮らしのはずだけど、どこかが、なにかが、ほんの半歩ほどちがうから、シゲさんみたいには生きられない。

 ミュージシャンなんだもの。俺は平凡な幸せなんかいらないのさ。
 ロッカーは結婚しちゃいけない、という主義の男もいるが、俺のは主義というほどでもない。俺はロッカーじゃなくて、半端なシンガー。かっこつけて決まるかっこよさも持っていない。

 だから、こんな歌を流してしみじみしてみたりするんだよ。

「心が忘れたあのひとも
 膝が重さを憶えてる
 長い月日の膝枕 煙草ぷかりとふかしてた

 憎い恋しい 憎い恋しい
 めぐりめぐって今は恋しい……」

 煙草に火をつけて小さく吐息をつく。外は小雨。耳を澄ませば雨音に混じって、誰かの足音が聞こえてくるような、そんな夜。

 雨々ふれふれもっと降れ。私のいいひと連れてこい。
 ……いいひとって誰だよ? 朝緒さん? こんな雨の夜に女性が訪ねてきてくれる妄想よりは、俺が行きたい。でも、彼女と俺はそんな関係にはなっていないから、一歩を踏み出すべきなのか。

 でもでも、これって恋?
 いつものように気軽には動けない、だからこそ、これは恋?

END









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