ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSさくら物語「桜めぐり」

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フォレストシンガーズ

さくら物語

「さくらめぐり」

1・高知 

ソメイヨシノの開花宣言は、高知城の樹が基本なのだと聞いた。この樹の花がいくつか開いたら、日本中にサクラサクの報告がなされる。

「ああ、咲いてるよ」
「ほんまやきに……もうじきやな」

 その樹をヒデに教えてもらって、俺が見つけた一輪。もうすこし遅く来たら桜満開の高知城が見られたのだろうが、こうしてここにヒデとふたりでいるだけでもいい。俺としては恥ずかしくてそんな台詞は口にできないが、言わなくてもいいのだ。

「シゲ、たこ焼き食おうか」
「高知のたこ焼きってうまいのか?」
「土佐の食いもんはなんでもうまいんじゃきに」
「……うん、食おう」

 花よりも言葉よりもたこ焼き。大人になっても俺たちはちっとも変わっちゃいないのである。


2・和歌山

 この花の下に貴志駅のたまをすわらせたら、猫雑誌や旅雑誌の表紙にできそうだ。俺がたまを抱いていたら、フォレストシンガーズファンクラブ会報の表紙にもぴったり。一度でいいからそうしたかったな。

 昨年、天国の駅長に就任して逝ってしまった猫のたま。俺は彼女とCMに出るのが夢だった。雑誌の表紙もいい。うちの会報にゲスト出演してくれるのでもいい。俺が和歌山県観光大使に選ばれたりしたら最高。たまと共演したいなぁ。そんな夢はかなえてくれず、たまは遠くに行ってしまった。

 日本でもっとも早く咲く部類の、和歌山の桜。たまはきっと和歌山県の桜のもとで、写真を撮ったことはあるよね。ユキとたまの共演は、俺の空想の中でやるよ。猫ってけっこう植物を食べたがるけど、たまももしかしたら、桜の花びらを食べた? おいしかった?

  
3・東京 

 少女だったら知らないが、大半の少年、はっきり言ってしまえば「男のガキ」って奴は、桜になど興味はない。家族で花見をしても、早く弁当にしようよ、としか思っていない。俺ももちろんそんなガキだった。

 そんな俺が東京の桜を見ている。ああ、桜って本当に綺麗だな、なんて思うようになったのは、なんのせいだろう? 歳のせい? 俺はまだそんな年じゃないぞ。もののあわれって奴がわかるようになってきたからか? そういうのを教えてくれた乾のおかげもあるのかな。

「桜舞う……本橋、どう続ける?」
「突然振るな……えっと、俳句だよな。ええーっとぉ……そうだ!!」

 金さんのせな、鮮やかに、と頭に浮かんだフレーズを口にすると、乾は笑い出した。
 いやぁ、実に本橋真次郎らしい。いやいや、グレイト!! などと言って大笑いしている。どうせそうだよ。桜吹雪っていったら遠山金四郎だろうが。江戸っ子はそう思うんだよ。

 うん、時代劇を連想するんだから、歳のせいってのも認めるしかないかな。


4・富山

 北国なのだから当然だが、北陸地方では桜はゆっくりと咲く。北陸以南では花吹雪が舞いはじめるころに、俺の故郷、金沢では桜が見ごろを迎える。年々、積雪が少なくなるのにともなって、桜の開花も早めになっているかもしれない。

「乾くんは石川県出身? 金沢? そっか、俺は富山出身だから、金沢って憧れたもんだよ。妬ましくて嫌いだったりしてな。うん、乾くんって金沢出身って感じだよ。俺は富山のカントリーボーイって感じだろ」
「……とんでもない。そんなふうに言われたら恥ずかしいですよ」

 初対面の際だったか、すこしは話もできるようになってからだったか、桜田忠弘さんにそんなことを言われた。
 富山出身の男性がカントリーボーイなのかどうかは知らないが、桜田さんにはカントリーの匂いなどしない。ただ、富山や福井の人間は金沢に憧れるとは聞いた。金沢以外の石川県出身者でさえも、金沢は別格視するようで。

「そらそうですよ。俺ら、大阪の人間でも金沢は特別って気がします。大阪のもんには京都は近すぎて特別でもないんで、むしろ金沢のほうが特別かな」
「大阪の人って京都に憧れないのか?」
「うーん、富山と大阪はちがいますからね」
「ふむふむ、そういう意味で……」

 これは大阪出身の大学の後輩、実松との会話だ。

 そういう意味とはどういう意味かは、推して知るべし。大阪人は東京にも憧れはしないと実松は言っていたので、大阪人のほうがある意味、特別な日本人かもしれない。

 富山にはなんの思い入れもなかった金沢人の俺が意識するようになったのは、桜田さんと親しくなったからだ。今日は金沢に仕事でやってきて、ふと思い立って富山まで足を延ばした。富山の人間は金沢に観光にも訪れるのだろうが、逆はあまりないかな。なので、俺も富山はよくは知らない。フォレストシンガーズの乾隆也になってから、仕事で幾度か来た程度だ。

「お……」

 思いがけなくも目の保養ができたのは、ここははじめての高岡城址、古城公園になっている高岡城址へと駅から続く道には、八重桜が満開の姿を見せてくれていた。

「金沢では桜は散ってたのに……」

 誰ひとり行きかう人もない桜の道にたたずんで、満開の八重桜を堪能させてもらったのも、ある意味、桜田さんのおかげだったともいえる。

 
5・札幌

 北海道の桜はいきなり咲き、ばっと開いて短期間で散ってしまう。桜なんか見ているようで見ていなかった、俺が北海道にいた十八までのガキのころには、そんなもんだった。

「稚内はまだだけど、札幌は昨日、急に咲いたんだって。綺麗だねぇ」
「瑳絢も桜には負けてないな」
「え?」

 ぽかっと口を開けてから、いとこの瑳絢は俺の腕のあたりをぼかぼか叩いて笑いころげた。

「章さんったらやだっ!! お世辞っ!!」
「いやいや、まあ、これはリップサービスともいうんだけどな」
「それ、綺麗って意味? そんなの言われたの生まれてはじめてだぁっ!!」
「幸生や乾さんには言われただろ?」
「そうだっけ?」

 笑いやんで首をひねっているサアヤには、天然ボケ傾向がある。十八になったいとこのサアヤはフォレストシンガーズのファンなのだそうで、行ける限りはライヴを聴きたいと言う。俺の親の家とサアヤの住まいは近く、彼女も稚内在住だが、札幌でのライヴにも来てくれた。

 いとことはいえ、十八歳のサアヤは瑞々しくも綺麗だ。さすがに章の血縁だよな、と乾さんは言い、俺がもっと若かったらなぁ、と幸生も言っていた。

 恋愛感情など持つはずもない相手のほうが、気楽でいいのかもしれない。それでもやっぱり綺麗な女の子と、日本ではほぼ今年最後になるはずの札幌の桜を見る。故郷は近いとはいってもそれほどでもないのだから、こうしているのはなかなかにいい気分だった。

END








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~ Comment ~

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桜は確かに感じますけど。
そういえば北海道や東北地方の桜は分かりませんね。
ずっと岡山ですからね。
確かに考えてみれば、
北海道とかは遅く咲いて、あっという間に散る・・・のかもしれないですね。
雪の時期が圧倒的に長いですからね。

LandMさんへ

いつもコメント、ありがとうございます。

桜を見にいきたくて旅行を予定していたとしても、桜は希望通りの時期には咲いてくれませんものね。
私もあまりよその地方の桜を見たことはありません。

北海道だと松前の八重桜くらいかな。
あと、北陸の名残の桜とか。
岐阜あたりの桜くらいしか見たことはないですね。

桜に包まれた五稜郭に行くのが夢のひとつです。
雪の五稜郭だったら見ましたが。
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