ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSさくら物語「さくらガール」

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フォレストシンガーズ

さくら物語

「さくらガール」

 冬には雪の積もった北国へと旅に出る、傷心の日本人。
 北には別れたひととの思い出や、ふるさとの想い出があちこちにころがっている。

 日本人は北が好きで「北……」とタイトルにつく歌はヒットするのだそうだ。そして冬が終わると春。春には日本人がもっとも好むものがある。「さくら」関連のヒットソングはたくさんありすぎて、俺なんかはどれがどれだかわからない。

「パール、チェリーブロッサム関係の海外ロックって知ってるか?」
「桜だよね。外国人は桜になんか興味ないんじゃないの?」
「ワシントンポトマック河畔に桜並木があるだろ」
「あるらしいけどね」

 フォレストシンガーズの木村章さんに質問されたが、俺も海外の桜の歌ってのは記憶にない。ロックにかけては俺なんかよりも数倍詳しい木村さんが知らないんだったら、俺が知るわけないじゃん。

 小学生のころに叔父の影響で、俺はロック好きになった。俺の母と俺の叔父は当然姉と弟で、ヤンキー姉弟らしく早く結婚した。母と俺の年齢差は十七歳で、叔父はさらに年下なのだから、俺の兄貴に近かった。
 叔父に教えられてボン・ジョヴィの大ファンになり、彼らの歌をピアノで弾きたくて練習を熱心にやった。

 ロックキッズがたどる道としてはありふれたことに、俺もバンドを組んでロックスターを夢見ていた。
 高校生のころにロック雑誌で、ファイとエミーがバンドのメンバーを募集しているのを読んだ。ファイがヴォーカル、エミーがギターだったから、キーボードの俺は彼女のミキちゃんの勧めで応募してみた。

 それからはなかなかのとんとん拍子で、ファイ、エミー、トピー、ルビー、パールの五人組ヴィジュアル系ロックバンド「燦劇」は人気者になっていった。フォレストシンガーズは燦劇をデビューさせてくれた音楽事務所、オフィス・ヤマザキの先輩ヴォーカルグループだ。

 とんとんとスターになった燦劇が分裂するのも早く、一時休止の形を取った俺たちは離れ離れになった。

 ロスアンジェルスでギター修行中のエミー。グラブダブドリブの沢崎司にベースの弟子にしてもらうんだと張り切って、ツアーローディをやっているトピー。アイドルのバックバンドでドラマーをやっているルビー。みんな、したいことがあるのだから、燦劇はもう解散同然だろう。

 ただひとり、ファイだけはふらふらして、神戸でよそのバンドとセッションしたりしているらしい。燦劇は収入もよかったのですぐに金に困ることもなく、充電中ってわけなのだ。ルビーとトピーは結婚して、ルビーには子どもも産まれた。

 そして俺は、メインの仕事としてはDJをやっている。誰かに頼まれてレコーディングを手伝ったりもしているし、歌も書き溜めている。燦劇ではファイが作詞、エミーが作曲をしていたのだが、俺だって歌は作れなくもないのだから、本名磯畑耕史郎のオリジナルソングを書いているのだ。

「パールは作詞も作曲もするんだね。CD発売予定はあるの?」
「特にはないけど、詞も曲もだいぶ溜まったよ」
「私にひとつ、提供して」
「あ、そう? どういう曲がいいの?」
「桜もので起死回生を狙いたいから、桜がいい」

 過去にはヒット曲もあるが、近頃はひっそりしている。それでも昔の固定ファンがついてくれているベテランシンガーの、長渕都。彼女とラジオの仕事を一緒にして頼まれ、木村さんの言っていた桜ロックを思い出した。

 夢よもう一度とでもいうのか。都さんだって新曲をヒットさせたいんだ。気持ちはわかるよ。磯畑耕史郎の名前でCDを出すなり、もと燦劇のパールの名で出すなりするよりも、都さんが歌ってくれたほうがいいかなぁ。なんて、打算もあって引き受けた。

 北は演歌になりがちだが、桜だったらロックにもなりそうだ。長渕都はパワフルなロックお姉さんなんだから、しっとりはしていない桜ソングがいい。

「前に木村さん、言ってたでしょ。海外の桜ロックってないんだよね」
「思いつかないから俺が作ろうと思ってたんだ」
「木村さんだったら男の歌だよね。俺は女の桜ロックを書くから。これ、聴いてみて」

 このメロディに若くはない女性の想いと桜をからめたらどうだろう、そう思って、俺が作って保存してあった曲を木村さんに聴いてもらった。

 正式に解散したわけではないので、燦劇はオフィス・ヤマザキに所属したままだ。俺のDJとしてやその他諸々の仕事もマネジメントしてもらっている。なのだから事務所にも出入りしている。春が近くて桜だよりももうすぐ聴こえてきそうな今日、木村さんと事務所の中庭で話をしていた。

「うーん、弱い」
「どこがどう弱いの?」
「どこもかしこも弱い。こんなのロックじゃない」
「アレンジ次第でロックになるでしょ」
「ならねえよ」

 駄目出しされて言い返していると、おどおどした視線を感じた。

「クリちゃん、これ、聴いてみてよ」
「あいつにロックなんかわからないんじゃないのか」
「クリちゃんだってシンガーでしょ。どうした? 元気ないね」
「あいつは元気ないってか、生まれつき覇気がないんだよ」

 フルーツパフェの栗原準。我々燦劇の後釜みたいにして、オフィス・ヤマザキに入ったフルーツパフェの片割れだ。見た目でいえば三大弱虫男は、酒巻國友、パール、栗原準だ、と木村さんは言うが、クリちゃんと並べないでほしい。
 中身はパールがいちばん強いかな、とあとで訂正してくれたので許すが。

 弱虫きわめつけのくせして、クリちゃんは結婚している。俺だってその気になればミキちゃんと明日にでも結婚できるのでうらやましくはないが、こうおどおどされると嗜虐心をそそられるのだ。

 そのせいで、苛めっ子ファイにクリちゃんはしょっちゅうなぶられている。俺はファイほどの苛めっ子ではないのだが、クリちゃんから見ればもと燦劇はみな同じ。そんな目で見られると意地悪をしたくなる。木村さんはクリちゃんに俺の曲を聴かせ、うーんうーん、と唸っているクリちゃんに、どうなんだ、はっきりしろ、と責めていた。

「日本でいちばん桜の早いのはどこ?」
「遅いのは旭川あたりだな」
「遅いのは聞いてないんだよ。今、どこかで咲いてる?」
「えーと、高知じゃないですかね。和歌山でもぽつぽつ咲いてきているらしいですよ」
「そっか、クリちゃん、サンキュー」

 ワシントンDCポトマック河畔に桜を見にいって、アメリカン美女ふうに元気な曲を書きたいところだが、ワシントンは遠い。それに、アメリカ東部はまだ寒いんじゃないだろうか。そしたら高知だ。

「……急に桜って、パール、どうしたの? こんなのって一部咲きくらいじゃない?」
「目を閉じてこうすると……」

 善は急げ、でミキちゃんとふたり、高知空港へと飛行機に乗った。開花宣言は出ていたものの、さすがに高知でもまだ早い。けれど、そよ吹く風に桜の香りを感じるような気がする。高知城の見えるあたりでミキちゃんの肩を抱き、目を閉じて想像してみた。

 桜の花びらが舞い踊る。桜の花みたいな女の子も踊ってる。きみは誰? ミキちゃん……じゃなくて、あれ? モモちゃんじゃん。クリちゃんの奥さんのモモちゃんだ。

 モモって名前の桜ガール。いいなぁ。
 よしよし、この曲をつかまえて料理して、先にモモクリにプレゼントしよう。モモちゃんのイメージなんだよ、と言ったらミキちゃんが妬くだろうから彼女には内緒だけど、クリちゃんには言ってやろうっと。

 ええ……そんな……モモちゃんは僕の奥さんなのに。
 だったらおまえが桃の花の曲でも書いて捧げろよ。できないんだろ? できないんだったら感謝して、俺の書いた曲を歌え。おまえはモモちゃんのうしろでハーモニーをつけてりゃいいんだからさ。

 頭の中で曲が形をなしてくる。この曲を聴かせてやったときのクリのいじいじっぷりを想像するとぞくぞくして、嗜虐心のまじったいい曲ができそうだった。

END








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NoTitle

桜のロックですか。。。なかなか発想がありませんでしたよね。桜の曲は多くありますけど、どれも渋い印象がありますね。荘厳というか古典的というか。こうした小説を読むと桜の音楽をたくさん聴きたくなるなあ。( `ー´)ノ

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
桜の歌はいーっぱいありますが、これは日本独特の現象なのでしょうね。外国の歌には有名どころはないみたいです。

エレファントカシマシの「風に桜の舞い上がる道を」がなんとか、ロックかなぁ? って感じですね。

今年も早、西では桜の季節はおしまい。
私は兵庫県の武庫川や柏原川、加古川の桜を堪能しました。
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