ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSさくら物語「花しぐれ」

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フォレストシンガーズ

さくら物語

「花しぐれ」

 はらはら、ひらひら、ちらちら、俺にはそんな言葉でしか表現できないような花びらの中で、乾さんが歌っている。俺は素早くICレコーダーをセットした。

「散る花に 華やいで
 降る雨に 涙して
 自分さえ あざむいて
 舞う花に 想い託して」

 俳句みたいな歌詞は即興なのだろう。ただただ散る花と乾さんの声と、もの哀しいメロディ……いいなぁ、情緒のない俺でさえも涙ぐんでしまいそうに、はかなくて切ない歌になっていた。

「早く行かないと桜が終わっちゃうよ」
「さくらさん、どこに行っちゃうの?」
「来年の春になったらまた会おうねって、準備に行くんだよ」
「どこに?」
「桜さんの国」

 息子の素朴な疑問に、妻が精いっぱいロマンティックに答えている。長男の広大は桜ってものにも意識を向けるようになってきて、近所の公園で拾った花びらをノートにいっぱい貼っていた。
 次男の壮介は桜に関心があるのかないのか、まだまともな言葉は発しないのでわからないが、ばぶばぶ、まままんま、などど言っていた。

「シゲちゃん、明日はお花見ね」
「うん。花見弁当作ってくれよ」

 花より弁当の夫に応じて、妻が張り切って作ってくれた。花も弁当も両方大好きな広大ははしゃいでいて、壮介も嬉しそう。俺が休みで遊んでやると息子たちがたいそう楽しそうにしているのは、親父としても嬉しいものだ。

 盛りをすぎつつある桜の花びらが、盛大に舞い散る。これはこれで豪勢な景色なのではないだろうか。家族四人、車ですこしだけ遠出して、人は少なくて桜の花はたくさんある場所で弁当を広げた。

「こんなところ、はじめて来たかも」
「だろ? ここは前に乾さんが教えてくれた穴場なんだよ。うちからだと近くないけど、フォレストシンガーズのスタジオからだと歩いて来られるんだ。事務所のみんなで花見をしたり、ふらっと五人で来て、買ってきた弁当を食ったりしたな」

 あのころは恭子とは知り合ってもいなくて、俺には一生彼女なんかできないかも、とひがんでいた。それでも花は美しく、弁当はうまかった。

 壮介は恭子の膝で離乳食を食べさせてもらっている。広大はおとなしくおにぎりを食べていたのだが、遊びたくてそわそわしてきたのだろう。食べ終えると花びらの舞う中に駆け出していく。花びらが地面に積もっているところまで走っていって、両手ですくってまき散らし、きゃはははっ、と幸生みたいな声で笑っていた。

「広大の声って三沢さんに似てるよね」
「そうなんだ。俺もそう思ってた。ってか、幸生の声が三歳児みたいなんだよな」

 で、趣味は本橋さんに似ている。広大ってほんとは誰の子? などと章が口走って、乾さんにごつんとやられていたっけ。外見は俺に似ていて、最近いくらかほっそりしてきたものの、それでもお父さんそっくりと言われるのだから、俺の子に決まっているではないか。

 ぶわぁーーっ!! と花の洪水みたいなのが、恭子と俺の上に降り注ぐ。やった広大はきゃあきゃあ笑っていて、壮介もきゃっきゃっ喜んでいる。こらこら、やめなさい、と言いつつも恭子も笑っている。俺は広大に言った。

「今は他の人がいないからいいけど、よその人にやったら駄目だぞ」
「はあい」

 走り回って楽しそうな広大を、夫婦で目を細めて見守る。見渡す限り桜の風景の中、至福のひとときだ。
 やがて、思い切り遊んで走って疲れたのか、広大が戻ってきた。壮介は恭子に抱かれてうつらうつらしていて、広大は俺の膝に乗っかってきた。

「この間、岡山の有名な桜がよく見えるところで、野外ライヴがあっただろ」
「夕方にやったやつでしょ。動画サイトでだったら見たよ」
「そうそう、それだよ。ライヴの前にリハーサルやってて、ハプニングってのかな。共演者たちも聴き惚れてた。最高の瞬間だったんだよ」
「なあに?」

 ICレコーダーを取り出して、乾さんの歌を再生した。
 
 音もなく花びらは降り続き、息子たちは眠っていて、ここには気分的には恭子とふたりきり。低いトーンで乾さんの歌う花時雨の歌……素敵、と恭子が呟くと、広大が目を開いた。

「……パパじゃない」
「この歌?」
「パパの声じゃないもん。ぼく、パパのお歌がいいな」

 言われてちょっと恥ずかしくなった。

 これでも俺だってシンガーなのに、自分では桜の歌なんか作れない。桜、咲いたな、綺麗だな、花見がしたいな。恭子が作ってくれた弁当を持って家族で出かけたいな。ドライブだと酒が飲めないのが寂しいけどな、としか考えられない。

 だからって乾さんの歌を使うなんて、シンガー失格だ。広大にそこを指摘されたようで恥じ入ってしまったのだ。歌は作れないけど歌える。乾さんの歌じゃなくて本庄繁之の歌がいい、なんて言ってくれるのは現時点では広大だけだ。恭子は両方いいと言ってくれそうだが。

「花ぬらす 春の雨降り
 桜の散る切なさ
 花いろの傘に隠れて
 あなたに恋をした」

 即興で作るなんて無理だから、パパは既成の曲を歌うよ。
 桜が散るって切ないな。パパはもう二度と恋なんかしないはず。おまえのママに恋して結ばれたのが最初で最後でいい。でも、広大はいつかこんなふうに……そして、パパとママのそばから離れていってしまうんだね。

 あと二十年くらいかな。それまではこうして四人で、もしかしたらもっと増えるかもしれない家族で、毎年桜を見て、桜の花びらに包まれていたい。パパの願いはそれが一番だよ。

END







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