ショートストーリィ(花物語)

花物語2017/4「花の宴」

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2017花物語

四月「花の宴」

 親戚の大部分は近所に住んでいるので、何組もの家族がそろってお花見に出かける。
 年に一度の楽しみなイベントの日が近づいていた。

 同じアパートに住む母の妹が、近所中の近所だ。母と叔母はどこそこの川べりがいいとか、あっちの公園もいいんじゃない? とか、お弁当にはなにを入れる? との相談ばかりしている。おばさんたちの会話を聞いていると、小学生の花絵も楽しみがふくらんでいくのだった。

「千鶴ちゃんちはお花見はどこに行くの?」
「お花見?」
「そうだよ。うちは今年はちょっと遠出をするんだって。いつもは近くの公園とか河原とかなんだけど、今年は城跡公園まで行くの」
「いつもって、花絵ちゃんちでは毎年お花見するの?」
「そうだよ」
「お花見って桜の花を見るんだよね?」
「うん」

 なにを当たり前のことを言っているんだ、この子は? 花絵は若干の苛立ちを込めて千鶴を見つめる。千鶴のほうは怪訝そうに花絵を見返した。

 五年生になって同じクラスになったから、花絵と千鶴は友達になった。仲良くなったころにはお花見の時期はすぎていたので、千鶴と花絵がこんな話をするのははじめて。口にしてしまってから、花絵は母と叔母の会話を思い出した。

「そんなことにお金を使うってもったいなくない? って、ノリママに言われたんだ。これから子どもたちにお金がかかるんだから、親戚づきあいでお金を使うなんてばかばかしいよって」
「ノリママんちってたしか、親戚づきあいしない家なんだったよね」
「そうみたい。噂だけど、ノリママんちの旦那は結婚してたらしくて、ノリちゃんができたから結婚したらしいのね」
「略奪?」
「そうなのよ。それで親戚からも縁を切られたらしいんだよ」
「……あんた、そんな女とつきあわないほうがいいよ」
「そう、かなぁ?」
「そうだよ、なんにしたってね」

 ノリママに限らず、 あんまり言い触らすとやきもちを妬かれるから、家族レジャーの話なんかはしないほうがいいんじゃない? 母が叔母にそう言っていたのを、花絵は思い出した。
 でも、私たちはまだ子どもだし、いいんだよね、いいんだいいんだ、言いたいんだもん。

 だって、他の子たちはお花見なんかじゃなくて、お正月にはハワイに行ったとか、親戚がロンドンにいるから遊びにいくとか、伯母さんがパリに旅行してお土産をくれたとか、うちもアメリカのディズニーランドに行くの、だとか、スケールのちがう自慢をするんだもん。そんな話をしない千鶴くらいしかうらやましがってくれないもん。

「千鶴ちゃんちはお花見ってしないの?」
「お花見のためにどこかに行くなんて、したことないな」
「ええ? ほんとにぃ?」

 略奪という意味は花絵だって知っている。結婚しているおじさんが奥さんではない女のひとを好きになり、そのひともおじさんを好きになり、おじさんは奥さんと離婚してそのひとと結婚する。
 そうなると親戚から縁を切られるらしいから、千鶴の家もそうなのだろうか。仲良しグループの一員のつもりではいるが、花絵は千鶴の家庭の事情などは知らない。はじめてふたりで一緒に帰るのだから、知りたくなった。

「千鶴ちゃんち、親戚から縁を切られたとか?」
「縁を切られたっていうよりも、親戚なんかいないから」
「お父さんやお母さんには兄弟いないの? おじいちゃんやおばあちゃんとかいないの?」
「お父さんには弟がいて、その叔父さんに奥さんがいるから、親戚ってそれだけかな」
「おじいちゃんやおばあちゃんは?」
「いないな」
「……かわいそぉぉぉ」

 けれど、叔父さんとその奥さんとやらとは縁を切っていないらしいから、千鶴の両親は略奪婚ではないのだろう。なんだ、つまんないの、どこがどうつまらないのか定かではないまま、花絵はがっかりした。

「お母さんの兄弟は?」
「お母さん、いないから」
「え? いないの?」

 俄然面白くなってきて、どうして? 離婚したの? と尋ねたかった。千鶴ちゃんのお父さんも不倫してお母さんと離婚したの? でも、それって変だよね。お父さんが不倫したんだったら、千鶴ちゃんはお母さんと一緒に暮らしているはず。母や叔母や伯母の口から出るよそさまの不倫、離婚話の顛末は、母が子を引き取った、で終わるのが常なのだから。

「お母さん、死んだの?」
「そうみたいよ」
「そか……じゃあ、だけど、叔母さんはいるんでしょ? 叔父さんと叔母さんとお父さんと千鶴ちゃんとでお花見すれば? 叔母さんにお弁当作ってもらってさ、いとこはいないの?」
「いない。麦ちゃんは料理も子どもも嫌いだって」
「……変!!」
「そう?」

 変だよ変だよ、そういう女って……なんて言うんだっけ? 女失格? そうだそうだ、これも母と叔母が言っていた。

「タケママはずーっと働いてるんだよね」
「そうよ。さすがに産休は取ったけど、育休は旦那が取ったんだって。それからタケパパがパートになって、タケママが大黒柱なの。大変だねって言ったら、私は育児も家事も嫌いだから、かわりに稼ぐの、だって。なんだかなぁ」
「へぇぇ……うーん……ねぇぇ」
「女失格? 言い過ぎ?」
「言い過ぎじゃないよ。失格だよ」

 そばで子どもたちが聞いていても、母も叔母も頓着はしていない。妹や弟たちは意味もわかっていないのだろうが、花絵はしっかり理解して、母と叔母の価値観を心に吸い込ませていっていた。

「子どもが嫌いとかお弁当作るのが嫌いとか、変だよ。千鶴ちゃんって叔母ちゃんを麦ちゃんって呼ぶの?」
「うん、麦って名前だから。麦ちゃんは千鶴の本当の叔母でもないんだし、おばちゃん扱いされたくないから、麦ちゃんって呼んでねって」
「……変!!」

 失格だとまで言っては失礼かと、変!! にとどめておいたのは、花絵の配慮である。

「お花見って楽しいのに。みんなで行けばいいのに」
「お酒飲んだりごちそう食べたりして、大人は楽しいかもしれないけど、子どもも楽しい? 退屈じゃない?」
「退屈じゃないよ。楽しいよ」
「そっかぁ……」

 想像でもしているのか、千鶴は視線を宙にさまよわせ、それから軽くかぶりを振った。

「私はいいや」
「千鶴ちゃんも変!!」

 なんてかわいそうな子なのだろうか。花絵は去年のお花見風景を想い起こしてみる。

 叔母や伯母や祖母や母がこしらえた豪華なお弁当を広げ、祖父、伯父、叔父、父はお酒も広げる。花絵はいとこたちと追っかけっ子をしたり、ちゃんと食べなさいよ、と母たちに言われてごちそうを食べたりもする。カラオケをしたりお喋りをしたり、最高に楽しいひとときだった。

 他のなんだって、親戚づきあいはたいそう楽しい。母だって親戚の女性たちが近くにいるから、いつだって楽しそうだ。そんな楽しみを知らない千鶴が、花絵にはかわいそうでならなかった。

「桜ってあんまり人のいないところで見たほうが綺麗じゃない?」
「千鶴ちゃんってひねくれてるよね。そんなことないよ。みんなで見る桜は……」

 あれ? その光景の中の桜を思い出そうとしてみても、花絵にはうまく像が結べない。一生懸命記憶を探っても、出てくるのは、テレビニュースで見たどこやらの観光名所の桜ばかり。

END




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~ Comment ~

NoTitle

ま、確かに桜は。
花見はヒトが集まってこその楽しみでもありますからね。
一人で愛でるものでもないですからねえ。。。
どこの家が変で、どこの家が普通とかは。
家によりますからね。
私の家族もあまり花見はしなかったからなあ。。。
私もあまり花見はしないですね。
・・・というか、しないですね。
(ーー;)

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

ひとりでもふたりでも数人でも、何人で見ても桜は美しいですよね~。
どんちゃん騒ぎのお花見は、美しい桜ではなく飲み食いに重点が置かれてるんですけど。

このストーリィで書きたかったのは、「おばちゃん少女」です。
「少女おばちゃん」もいますが、年頃が少女であっても、「おばちゃん」だったりする場合もある(^o^)とね。

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