ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSさくら物語「夜桜お七」

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フォレストシンガーズ

さくら物語

「夜桜お七」

 笑顔がいちばん、とよく言われるが、女に限って、なのだろうか。「男は度胸、女は愛嬌」という慣用句もある。我々フォレストシンガーズが写真撮影に臨む場合、笑えと命じられることもあるが、おおむねはクールビューティ……って、誰がビューティだ。

 ビューティかどうかは主観の問題なのでいいとしても、男はむやみに笑うものではない、とうちの祖母も言っていた。であるから、笑顔がいちばんなのは女性の場合か。

「あなたはあまり笑わないね」
「どうして笑わないといけないんですか?」
「いや、笑えって言ってるわけじゃないよ」
「面白いことを言ってもらえたら笑いますよ」

 大学の先輩たちの口コミで、常連になった店は何軒かある。この「向日葵」もそのひとつで、ワオンちゃんと俺は大学の同窓生なので、ここではしばしば会う。

 十年以上前、三沢幸生と古久保和音はゼミ仲間として友人になった。男は女に恋をし、肉欲を抱いたが、女は男をそんな目では見なかった。ありふれた話だろう。
 卒業後、自然に疎遠になっていっていたのだが、幸生がシンガーになったと知り、和音も一念発起、声優を目指して歩き始める。

 三十歳になったときにはともに夢をかなえていて、フォレストシンガーズの三沢幸生と声優、古久保ワオンとして再会した。傍観者である俺が知っているのはその程度だ。

「乾さんは煙草を吸うんですよね?」
「最近は外ではあまり吸わなくなったかな。ああ、ワオンちゃんも吸うんだね」

 どうぞ、と彼女のくわえた煙草に火をつけてさしあげる。どうも、と彼女は小さく呟く。面白くも可笑しくもないのに笑えるか、って気持ちもわかるが、ワオンちゃんは笑顔のほうが似合うんじゃないだろうか。

 若くはない大物女優だとか、本当にクールビューティで売っているミュージシャンやモデルだとか、笑わないほうがサマになる女性もいる。章が恋してふられ、それからなんだかんだとあって、どうしたわけだか彼女の敵対心が俺に向いているシンガーのミルキーウェイなどは、顔にも歌にも感情をこめないのがかっこいいと言われて売れている。

 声優であるワオンちゃんは、仕事上では顔はあまり関係ないのかもしれない。ケーブルテレビでリポーターをしたりはすると聞いているから、そんなときには笑顔も見せるのだろうが。

 仕事ではなくプライベートで、彼女の個性には笑顔が映る。小柄で華奢な可愛いタイプなのだから、クールや無感情は似合わない。とはいえ、ワオンちゃんは俺のなにでもないのだから、説教じみた台詞はやめておこう。店内には他に客はいないので、ふたりで煙草を吸っていた。

「……もうじき桜が咲くね」
「そうですね」
「花見したいな」
「花見ねぇ……私は嫌いだな」
「ああ、そう」

 日本人だからといって、誰もが桜好きとは決まったものではない。花見というと飲めや歌えのどんちゃん騒ぎを想像して、それが嫌いだと言う人間は大勢いる。花見したいな、私は嫌い、との反応には苦笑いするしかないが、ワオンちゃんを誘っているわけではないからいいのだ。

 誰かを誘っての花見も俺は決して嫌いではない。大騒ぎするのだって気心の知れた仲間たちとだったら楽しい。けれど、ひとりで花見をするのはもっと好きだ。

 だから、ワオンちゃんと別れてひとりになって、桜を見にきた。

「ああ……」

 フォレストシンガーズがデビューして、オフィス・ヤマザキの事務所と練習用スタジオに日々、通うようになっていた秋。その周辺を散策していて小さな広場を見つけた。一画に桜の樹がかなりたくさん植えられている。わりに年を経た樹だから、これは見事な花を咲かせるだろう。

 若いということの価値を実感していなかった、本当に若いころ。桜は若いのなんて駄目だ。老木に近いほうがいい。俺たちだって桜のごとく、歳を取って見事な花が咲き実を結ぶ樹になれたら。
 
 そんなふうにも思いながら、桜の開花を待っていた。
 やがて蕾がほころび、花が咲く。満開になって風が吹き、雨が降ると潔くぱーっと散る。その過程をこの目でつぶさに見、翌年には仲間たちにも教えた。

 その桜は、あれから十年がすぎていっそう円熟した見事な花を咲かせている。スタジオからだと近いので、うちのメンバーたちも年に一度は見ているのではないだろうか。ミエちゃんが見繕ってくれたり、時には彼女が作ってくれたりした弁当と酒を持って、みんなで花見をしたこともあった。

 毎年毎年、俺はできる限りこの桜を見ている。仕事で桜の時期に丸々、ここに来られなかった年には寂しかったものだ。今年は来られた。満開に間に合った。

「……こんばんは」

 一輪の桜花に代表して挨拶し、樹の下に立って見上げる。ささやかにライトアップされた夜桜は、夜空の濃紺と花のほのかな薄紅と、あたたかな灯りのいろ。

 頭を空白にして桜を見上げる。ただただ見上げていると、鼻先に煙が漂ってきた。

 誰かいるのか? 煙草っていうと幸生か? それとも、近所の住人でもあらわれたかな? 今日はスタジオに立ち寄る用事もなかったので、うちのメンバーたちは各々自由に帰った。どこかで飲んでいてふとその気になって、誰かがこの桜を見にきたってこともあり得るが。

「……章?」

 別の樹のそばに立って、煙草を吸っているのは章だ。彼は俺には気づいていなくて、ぶつぶつとひとりごとを言っていた。

「煙草なんかやめろって言ってるのに……だけど、俺、なんでその煙草を吸ってるんだろ。煙草の煙がきみの煙草を呼んで……なんて、ないないない。あるわけねえだろ。会いたい……のかなぁ。こんなところに来ないかな。きみは言ってたもんな。今度、ロック友達と桜を見にいくんだ、って言ったら、私、花見って嫌い、ってさ。そうかよそうかよ。好きにしろ」

 はあ、つまり、そういうことね。

 煙草にも火はつきものだからか、こんな歌を思い出す。章がお七? うん、変装してステージでやったら受けるかもしれない。振袖の江戸娘だったら俺がやりたい、と幸生は言うかもしれないが、それには深い意味があるんだよ。章じゃないと無意味なんだ。

「赤い鼻緒がぷつりと切れた すげてくれる手ありゃしない
 置いてけ堀をけとばして 駆け出す指に血がにじむ
 
 さくら さくら いつまで待っても来ぬ人と
 死んだひととは おなじこと さくら さくら はな吹雪

 燃えて燃やした肌より白い花 浴びてわたしは 夜 桜お七
 さくら さくら 弥生の空に さくら さくら はな吹雪」

END






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~ Comment ~

NoTitle

サクラ、桜、の季節だなあ。。。
昔は行楽とかしていたんですけど。
今は行き付けの酒場や家で引きこもっていますね。
やる気がなくなっていくな。。。
なんて、あかねさんに言っても仕方ないですね。
桜を見て頑張る!(*ノ▽ノ)

LandMさんへ

コメントありがとうございます。

今度、お花見行くの。
私、お花見嫌い!!

実際にあった会話です。友人のこの反応はなかなかインパクトがありました。
飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ花見は私も好きではありませんが、綺麗な桜は見たいですね。
今年はどこに行こうかな。

LandMさんもがんばって下さい。
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