ショートストーリィ(花物語)

花物語2017/3「歩く姿はアマリリス」

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あまりりす
2017花物語

3月「歩く姿はアマリリス」

 立てば芍薬、すわれば牡丹、歩く姿は百合の花。

「美人のことをそういうんだけど、リュートだったらさしずめ、歩く姿はアマリリスかしらね。リュートは和風ではないし、美女っていうんでもないし」

 うっとりと流斗に見とれながら言ったのは、誰だっただろうか。誰でもいい。リュートは来るものを拒む気はないのだから。しかし、人間の感情というものが厄介なのは本能的に知っていた。

「公演に行くの? リュートにも役がついたんだね。あ、役がつくのは当たり前か。ごめんね、失礼なことを言っちゃって。どこに行くの? 北海道? 東北? 中部地方? ちがうか。だったら関西? そうね、関西だね。京都にも行く? 行くんだ。わぁ、いいな。紅葉の京都……私も行きたいな。行きたいけど私は仕事だし、リュートも仕事だもんね。留守番してるわ。がんばってね」

 ひとりで喋ってひとりで納得してくれたので、そういうことにしておいた。

 気が向くと顔を出す業界のパーティで、リュートは何人もの人と出会う。この女、メイクもそうだったはずだ。この顔でこの年齢でメイクって名前? 印象としてはそれだけだったが、この女の名前はメイク、とだけは記憶に残った。どんな字を書くのかは覚えていないが。

「昨夜の女とは寝たのか?」

 他人と他人が寝ようがどうしようが、あんたには関係ないじゃん。なんだってそんなに他人を気にする? リュートとしてはそう思うのだが、いちいち言うのも面倒なので曖昧に微笑む。曖昧な態度を取っていれば、人は自分に都合のいいように解釈してくれるのだった。

「おまえって誰とでも寝るんだろ。俺とも寝る? いいのか? 男も好きか? 実は男のほうが好きだとか? 昨夜のあの、メイクだっけ? 下半身デブのおばさん。あのおばさんと較べたら俺のほうが綺麗だよな。おまえは誰だっていいわけ? ま、いいや。俺もおまえだったらなんだっていい。男でもいいさ」

 はじめてメイクと出会った夜に、リュートのかわりにリュートの紹介をしてくれた男だ。リュートは来るものは拒まないのだから、彼とも寝た。

「噂になってるよ。リュートったらついに男とまで……って。ジョーさんとは寝たの? ん、もう、そうやってミステリアスな笑みなんか浮かべちゃってさ。憎たらしいんだから。リュート、あたしとも寝ようよ」
「あなたがそうしたいんだったらいいよ」
「……小面憎い言い方だな。リュート、あたしが誰だかわかってる?」
「さあ?」
「今度、客演するケーコだよっ」
「そっか」
「お近づきのしるしに寝ようか。それでいいよ」
「それでいいなら」

 ジョーとか言う男がメイクに言った通り、リュートが劇団に所属しているのは事実だ。アルルカンだとか大根だとか言われているが、その顔と姿だけでも値打はあるな、と劇団の首脳陣は言い、置いてくれている。劇団の主催者とも寝たのだったか。主催者って誰だったか。リュートの記憶も曖昧だった。

 世間でも名の通ったスターであるらしい、今回の公演のゲスト、ケーコ。ケーコだって望んでいるのだから、拒まずに寝てあげた。

 この世に好きなものはあまりないが、嫌いなものはリュートにはいくつかある。もめ事なんてものは大嫌いなので、今はあなただけだよ、と誰にでも言っているほうが無難だとはリュートも知っている。メイクには同棲を望まれ、断るのもめんどくさくて承諾したのだから、それ以上の面倒ごとなんぞはごめんだった。

 同棲するということは特別な相手? そうなのか、そんなもんか、とリュートは思う程度だが、同棲相手のメイクも世間も、ふたりは特別な仲だと認識しているらしい。そうなのならばそういうことにしておいたほうが面倒がないので、リュートが仕事で留守にするとメイクが思っているのを否定はしないでおいた。

「リュート、休暇が取れたんだ。京都に行かないか?」
「ジョーさんったら、リュートには同棲してる女がいるんだよ。そんな奴を誘惑すんなよ」
「あれぇ? ケーコ、妬いてる? だったらおまえも連れてってやろうか」
「本気にするよ。していいのね? うん、行く」
「そんなら三人で行こう。リュート、おばさんをうまくごまかしてこいよ」

 うまくごまかすまでもなく、メイクは勝手に納得してくれた。
 京都に行くのだけは本当だ。仕事ではないにせよ、複数で京都に行く。根本的事実だけは押さえているわけだ。

「リュートはどうしてあんなおばさんと同棲してるの?」
「金を出してくれるからだろ」
「そうなんだ? ほんとにそう? やだ、ヒモ」
「ジゴロって言えよ」
「ジョーさん、古い」
「ヒモだともっと古いだろ」

 名も知らぬ……というか、名前になんかリュートはまったく興味も持てない京都の神社を三人で歩きながら、ケーコとジョーがリュートの同棲を話題にして盛り上がっている。メイクが同棲したいと言うから、お金は全部出すと言うから、そうしたいんだったら僕はかまわないよ、とリュートは応じた。

「綺麗な葉っぱ……」
「ああ、綺麗だな」
「リュート、たまにはメイクおばちゃんにサービスしてあげれば? この葉っぱ、プレゼントしてあげたら喜ぶよ」
「京都からのプレゼントだって送ってやったら、おばちゃん、感動するんじゃないか?」
「そうだよ、そうだそうだ。送ってあげな。ね?」

 地面に落ちていた真っ赤な落葉を拾ったケーコが、リュートの鼻先で葉っぱをくるくる回してみせる。リュートが知らん顔をしているうちに、ケーコとジョーが勝手にそうすると決めてしまった。

「リュート、住所教えろ」
「あたしが送っておいてあげるよ。リュートを借りてるお礼だね」
「安いお礼だな」
「なんかメイクさんがかわいそうになってくるんだもん。同じ女としては、こんなことでもしてあげたくなるのよ」
「よく言うぜ」

 やりたいならやれば? とリュートとしてはそうとしか言えない。ケーコは翌日、ホテルの封筒に入れて送っておいたよ、と得意げに報告してくれた。

「封筒に葉っぱだけ入れて、メッセージはなし。そのほうがリュートらしいでしょ」
「メイクさんってセンチって感じだから、それを見たら感動のあまり泣くんじゃないのか?」
「そうかも……うわ、あの顔のおばちゃんの泣き顔、キモ……」
「キモってか、ホラーだね。けど、ケーコもメイクと歳は変わらないだろ?」
「あたしのほうが若いよ」
「ちょっとだけ? そんなに歳は変わらなくても、見た目は大違いだな」
「当たり前のことを言うな」

 そうやっていちゃいちゃして、ケーコとジョーがカップルになりそうにも思えたが、リュートとしてはそれはそれでかまわない。どうせ暇なのだから、京都でも東京でも香港でもパリでも、リュートにはどこだって同じだった。

「リュート、楽しかったわ」
「これ、メイクさんにお土産」
「迷惑そうな顔すんなよ。重いからいや? わがままだねぇ。そしたらこれは? これ、メイクさんにあげなよ」

 ジョーが差し出した京都土産を受け取らなかったら、ケーコが白い花をくれた。これならば重くないので持って帰ってもいい。ふたりと別れてメイクの家に帰り、いささかしおれかけた白い花を髪に飾ってやった。

「私のために摘んできてくれたの? 嬉しい。リュート、疲れた?」
「それほどでもないけど、腹減った」
「そっか。おいしいものを作るね」
「宅配のピザがいいなぁ」
「それもたまにはいいね。電話するわ」

 お喋りなケーコとジョーに囲まれていると、リュートはほとんど口をきかなかった気がする。メイクといるときだけは、ほんのすこしリュートの口数が多くなるのだった。

「リュート、これだよ」

 季節はめぐり、今年ももうじき新年度になるから忙しいとメイクは張り切っている。メイクは楽器会社に勤めるキャリアウーマンだから、年度末は相当に多忙なのだそうだ。かまってあげられなくてごめんね、とメイクは申し訳ながるが、放っておいてくれるのはありがたい。同棲暮らしにはリュートは倦んできていた。

「あなたの歩く姿はアマリリスって言ったでしょ。リュートはアマリリスなんてどんな花なのかも知らないだろうから、買ってきたの。似てるでしょ」
「そうかな」

 百合よりは洋風なのだろうか。白くてすんなりした美しい花は、たしかに僕に似ているとリュートは思う。だけどめんどくさいな。いつだってそばにメイクがいるのは疲れてきた。けれど、こっちから別れを切り出すなんて面倒のきわみだ。メイクのほうから僕を捨ててくれないだろうか。

「……あら、嫌い? もしかしてアマリリスって花粉がきついかな? ごめんね。そこまで考えてなかったよ」
「うん」

 花だったらこうやって簡単に捨てられるのに。人間ってめんどくさい。メイクのプレゼントをゴミ箱に入れて、リュートは白い花を見下ろす。僕のこともこうやって捨ててほしいな。

END







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