ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS動詞物語「歌う」

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フォレストシンガーズ

「歌う」

 音楽の授業で「作曲」の宿題が出た。一週間後に提出せよと教師に命令されて、生徒たちは大ブーイング。作曲なんてできないよーっ!! との声が大半だったが、俺としては余裕だった。

「……ヒデは得意なんだからいいよな。作曲のできる奴なんて、他にもいるんだろうか」
「小学生の宿題なんだから、なんとなくメロディになってたらいいんだよ」
「それでも俺にはできないよ。ああ、どうしよう、どうしよう、一週間悩み続けて、悩みに悩んでもできないよ。先生は無茶だ」
「言えてるな」

 たしかにシゲの言う通りで、作詞だったらまだしも、作曲のできる小学生は特別な才能の持ち主に限られるだろう。大人だって作詞だったらどうにかでっちあげられても、作曲はお手上げの者が大部分のはずだ。

 学校からの帰り道、苦悩のきわみになっているシゲを見やって考える。
 算数や理科のむずかしい宿題を、シゲに助けてもらったことはあった。書き取りなんかもシゲのほうが得意だし、社会科、特に歴史関係はシゲが強いので教えてもらった。計算問題の宿題を忘れていて、登校してから大慌てでシゲのノートを写させてもらったこともあった。

 要領は俺のほうがいいのだが、シゲはじっくり努力型だから、不得意分野もがんばって時間をかけてこなす。しかし、作曲は無理かもしれない。
 友達は助け合うものだ。よし、こうしよう。

「俺、一週間あったら二曲くらいは作れるよ。もうイメージは湧いてきてるんだ」
「作曲って楽器を使うんだろ」
「俺はハモニカでやろうかな。隣の姉ちゃんのピアノも弾かせてもらえて、ちょっとぐらいだったら演奏できるんだ。ピアノでもいいかな」
「本格的だな。ヒデはいいなぁ。俺、どうしよう」

 だからさ、と、誰も聞いてもいないのに声を低めた。

「俺が二曲、作ってやるよ」
「そんで、どうするんだ?」
「一曲はおまえにやるよ」
「……それって……」

 一瞬、意味が分からなかったらしいが、悟った顔になってからシゲは頭を振った。

「ズルは駄目だよ」
「ズルだって言うんだったら、おまえのイメージを喋ってみろよ。なにを曲にしたい?」
「えーと……川とか……」

 あれ? 俺んちの近くにこんな川、あったか? 四万十川じゃないのか? 清らかな水をたたえた川が流れている。川面に照り返す陽光に、シゲは目を細めていた。

「あの川の流れか……うん、シゲの分はそのイメージで作るよ。俺のは全然ちがった感じ。たとえば、可愛い女の子が体操服を着てテニスでもしてる感じ? まるでちがったタイプの曲をふたつ作ったら、先生にもわからないだろうから大丈夫だ」
「そうかなぁ」
「大丈夫だよ。小学生に作曲しろってのがどだい無茶なんだから」
「そうだけどさ……」

 他のみんなはどうするんだろ、などと呟きつつ、シゲは悩み続けている。俺の頭の中にはすでにメロディが浮かんでいて、川の流れに合わせて踊りはじめていた。

「先生はわからなくても、本橋さんや乾さんや章にはわかるよ。幸生にだってわかるんじゃないかな」
「……かもしれない」
「特に乾さんだよ。乾さんはヒデの曲を高評価している。昔、おまえが書いた曲をそらで歌える。ヒデはまた曲を書かないかなぁ、なんて言ってもいたよ。だから、おまえが書いた曲だったら乾さんにはわかる。俺がヒデにもらった曲を自分で作ったと言うなんて、恥だ。いやだ」
「うーん、そう言われてみれば……シゲ、おまえ、小学生のくせにむずかしいことを言うんだな」

 ん? 小学生? シゲと俺が知り合ったのは東京の大学生になってからで、小学生のときにふたりで四万十川のそばを歩いたことなんかない。俺は小学生で四万十川を見ていたが、シゲは三重県の酒屋の息子で、四国へはガキのころには行ったことがなかったと聞いた。

「なんにしたって、俺はズルはいやだ。ヒデの書いた曲を俺が書いたって提出するなんて、絶対にいやだよ」
「……シゲだったらそうだろうな」

 これって……ええ? 第一、小学生の俺たちは乾さんや本橋さんなんか知らないじゃないか。第一、小学生に作曲の宿題なんか……ああ、そうか。

 納得したら目が覚めた。
 夢だったんだ。俺は布団に起き上がり、夢で見たシゲの顔と、きらきらしていた四万十川を思い出す。
 あのシゲの顔は、小学生というよりは大学生だったかな。会話も小学生のものじゃなかったけど、リアルな夢だった。布団の上で噛みしめると細部まで思い出せる。

 大学生でフォレストシンガーズに加えてもらい、恋人が妊娠したからとだまされて脱退した。妊娠はしていなかったが結婚して、離婚して家を出て、それからは故郷には足を向けていない。プロになったフォレストシンガーズにも故意に背を向けていた。

 後輩のお節介でシゲと再会し、本橋さん、乾さん、章、幸生とも会った。俺の気持ちの中にはわだかまりがなくもないが、彼らのほうは昔通りに接してくれる。本橋さんやシゲの奥さんに、もうどこにも行かないでね、と叱られたりもして。

「ヒデ、作曲はしないのか」
「おまえの曲は乾の好みだって知ってるだろ」
「俺たちはソングライター集団でもあるけど、仲間うちで書いた曲ばかりだとひとりよがりになる傾向もあるんだよ。固まってしまうってところもある。新しい風がほしいな」
「ヒデの曲ってのはこの際、うってつけなんだけどな」

 本橋さんと乾さんに言われ、俺の曲作りは完璧に枯渇してますよ、と答えた。
 けれど、そうだろうか。あんな夢を見たのは天啓の一種なのでは? 歌も楽器も作曲も捨てたから、ラジカセひとつ、CD一枚、ハモニカひとつも持っていなかったが、つい先日、ギターを衝動買いしたばかりだ。

「それにしても、シゲらしいな。絶対にいやだって。だよな。だからおまえはヒデとして曲を書けってか? ああ、なつかしいな」

 ギターを抱えて布団にすわり直し、目を閉じると川面のきらめきが俺を誘っている。ヒデ、おまえの中のそのイメージを曲にしろよ、ほら、こんなメロディだ、と川が教えてくれている。そのメロディに乗せて、俺のギターも歌い出した。

END









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