ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS動詞物語「とける」

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フォレストシンガーズ

「とける」


 自覚があってもどうなるものでもないみたいだが、俺は短気である。世の中には気の長い奴もいるもので、俺はそういう人間の存在にこそ驚いてしまう。

「本橋って彼女はいないんだっけ?」
「……別れたよ」
「あ、そうだったか」

 乾隆也や山田美江子は俺を鈍感だと言う。俺には短気な自覚はあるが、鈍感のつもりはない。鈍感というんだったらこいつ、高城のほうがよほど鈍いはずだ。

 大学に入学して合唱部に入り、サークル活動のほうでは山田と乾がもっとも親しいといっていい。学部は宇宙科学で、専門課程三年生になった今も、一年生のときから友達だった高城と親しくしている。乾や山田は俺が黙っていても喋りまくるので放っておいてもいいのだが、高城はこっちから水を向けてやらないと喋らない。

 無口な男はかっこいいという説がある。無口ってのは話題がないだけでしょ? とほざく山田みたいな女もいる。俺は乾や山田、二年生の小笠原や実松、一年生の三沢あたりと較べれば非常に寡黙なほうだが、高城と較べたらよく喋るので、どっちの説も支持しないことにしていた。

 ともあれ、高城が珍しく自分から話題を振ってきたと思ったらこれだ。
 一年生のときにだって俺には彼女はいた。今となってみればなんであんな女とつきあってたんだろ、と思うが、山田が、ゆかりって本橋くんを好きなんだって、と言い、俺も別にゆかりが嫌いだったわけでもなく、中学生以来彼女がいなかったので、なりゆきでつきあったにすぎない。

 けれど、ゆかりが先輩と親しくしていたりすると胸がざわめていたから、俺も彼女を好きではあったのだろう。それって独占欲じゃないの? と言われもしたが、女を好きになるということには、独占欲はつきまとうのだ。

 ゆかりと別れて、二年生になってから乃理子とつきあった。高城のほうも女の子となにやらあったようだが、基本的にぼーっとしている奴なので、いいように振り回されたあげく、ふられたのであるらしい。いや、ふられたというのか、ぐずついているというのか。

 だから、俺は高城の女の子関係を知っている。なのに、こいつは俺に彼女がいて、別れたのも知らない。二度ともに知らないというのか。苛々してきた。

「合唱部の子か?」
「そうだけど、別れたんだからどうだっていいだろ。おまえは佐里ちゃんとはどうなったんだよ?」
「彼女のほうから離れていったんだけど……」
「だけど……?」
「気が向くと俺んちに来たり、デートじゃないよって言いながら、飲みにいったり……」

 山田は俺の友達、高城も俺の友達、山田と佐里は友達で、佐里のほうから高城にアプローチした。山田はもう佐里とは離れてしまっているようだが、高城は完全に切れてはいない。
 そうして一時的につきあっても、別れてしまえばおしまいなのが普通だ。

 口の重い奴の言葉を総合してつなげてみると。
 自分からアプローチして自分からふったくせに、あの気まぐれ女は暇になると高城にちょっかいをかけてくる。俺だったらたとえばゆかりがそんな誘いをかけてきても断るが、高城には毅然とした態度が取れない。もっとも、ゆかりとは完全に離れてしまっているので、彼女と俺とは会う機会すらもないのだが。

 恋人同士にだったら許されること、どちらかの部屋でくつろいだり、ふたりっきりで飲みにいったり、酔って帰ってきて帰るのが面倒になって泊まったり。別れたあとにも高城と佐里はぐだぐだとそんなつきあいを続けていると言うのだった。

「けじめがないってか、だらしないだろ」
「本橋って意外と四角四面なんだな。田舎のじいさんみたいだ」
「……なんだよ、その言いぐさは」

 意外にも反撃してきやがったので、俺もむっとした。

「本橋だって山田さんとふたりで飲みにいったりするだろ」
「行ったことはあるよ」
「山田さんの部屋に行ったり、彼女がおまえの部屋に来たりは?」
「俺は親の家にいるから、山田が来るってことはないけど、俺は行くよ」

 一昨年の夏休みに、山田の弟たちを我が家に泊めてやったこともあった。そのせいで母は山田を俺の彼女だと思いたがり、否定するのに苦労したから、家には山田は呼ばない。

「そういうだらしないこと、やってんじゃないか」
「山田と俺は友達同士だよ」
「俺と佐里ちゃんだって、恋人じゃなくなったら友達同士に戻ったんだよ」
「……一度は寝たこともある女と……」

 どうしても俺はそこにひっかかる。山田とは最初から最後まで友達だが、佐里と高城はベッドを共にした関係だ。俺だったらそんな女と別れたら、個人的にはつきあいたくない。

「おまえに迷惑かけてないだろ。ほっとけ」
「そうかよ。ほっとくよ」

 虫の居所でも悪かったのか、今日はやけに挑戦的な高城との口論は決裂した。
 彼女とだって喧嘩ばかりして、ゆかりとはしんねりむっつり黙りこくりになる彼女に嫌気がさした。ゆかりは俺を優しくないと言って、喧嘩しすぎて別れたようなものだ。

 その反省もあったし、ゆかりとの仲よりは乃理子との仲のほうが進んでいたから、喧嘩をするとキスしたり抱きしめたり、ホテルに行って乃理子の好きなお姫さま抱っこをしてやったり、そのあとはベッドに入ったりもして仲直りができた。

 なのだから、彼女と喧嘩をしても修復すれば楽しいことだってある。男友達と喧嘩をしたらどうやって修復するんだろ。
 ガキのころには男友達とだったら殴り合いや取っ組み合いをして、言いたい放題言い合ってあとには残らなかった。仲直りできなくてくよくよしていたら、兄貴が取り持ってくれたこともある。

 小学生のときに大喧嘩をした男友達と、俺の頭を兄貴がごっつんこさせて、いてぇなぁ、なにすんだよっ!! と兄貴に食ってかかり、ふたりともに投げ飛ばされて笑って仲直り。なんて単純なこともあった。あの兄貴、どっちだったかな? 兄貴たちは双生児なので、栄太郎だか敬一郎だか永遠に不明な場合もよくある。

 兄貴たちなんてどっちでもいい。あいつらはふたりでひとりなのだからどうでもいいが、友達と単純に仲直りできないのは、大人になったってことなのかもしれない。

 もうじき俺の誕生日、もうじき俺たちは大学四年生になる。いよいよ来年は卒業で、社会に出たらどうするのか本気で決めなくてはならない。
 就職活動してるの? と聞きたがる母をごまかすにも限度があるだろう。友達なんかかまってられるか、とばかりに高城はほったらかしていた。

「高城? こっちに来いよ」
「あ、ああ、乾くん、久しぶり」

 なのに、学校近くの喫茶店「ペニーレイン」にいると、入ってきた高城を乾が呼んだ。断ればいいものを、高城ものこのこやってきて乾の隣にすわった。

「雪? 肩が濡れてるよ」
「ああ、ちらちら降ってた」
「ほんとだ……降りが激しくなってきたな」
「乾は慣れてるだろ」
「金沢出身だからね。今ごろは故郷は雪景色だよ。高城も東北じゃなかった?」
「うん、うちのほうもまだ真っ白だな」

 東北生まれの高城と、北陸生まれの乾は雪の話題で盛り上がっている。俺は黙ってAランチの大盛りを食っていた。
 生まれも育ちも東京の俺は、雪には慣れていない。一年生の三沢幸生はユキちゃんでーす、などと自称しているが、あいつの性格にも慣れてはいない。

 たまの大雪で交通マヒが起きる東京を、高城も乾も脆弱だと笑っていた。俺はそんなことなども考えながら黙っていたので、食事を終えた高城が先に出ていってから乾に質問された。

「仲たがいしてるのか?」
「意見の相違ってやつだな」
「そんなんで話をしないのか? 意見の相違なんて当たり前だろ」
「……いいんだ、ほっとけ」
「ほっとくよ」

 思い出してみれば、乾とだって意見や見解や価値観の相違は限りなくあった。俺が声を荒げたり、殴ってやろうとしてかわされたり、乾のほうが語気を強めて怒ったり、議論が白熱しすぎて後輩がおろおろしていたり。
 だが、乾と俺は決定的な仲たがいはしない。それすなわち、乾の言う、俺たちは宿命の仲だ、ってやつなのか。気持ち悪い。

 気持ちは悪いが、まあ、そうなのかもしれない。だから俺は、乾を含めた仲間たちと歌っていたい、歌ってメシを食っていきたい。その悲願をかなえるために卒業後は……それを両親に告白するのが大変なんだよな。

 その日は雪が降り続いて積もった。積雪はたいした量ではなく、乾や高城に言わせれば、こんなものでは雪だるまも作れやしない、ではあろうが。

「雪合戦やりたいな。今日は早く学校に行くよ」
「子どもみたいに……」
「早く行かないととけちまうだろ」

 あきれ顔の母に言い置いて、早めに家を出た。誰かしらこんな時間にも来ているだろう、と思っていたのは当たっていたが、その誰かしらとは高城だった。

「……おはよう、本橋くん、高城くん。早いのね」

 もうひとり、来ていたひとがいる。理学部の村瀬教授だ。彼女には孫もいるという年頃なのだが、スキーウェアみたいのを着て張り切っていた。

「もうひとり、誰か来たらいいのにね。雪なんか珍しいから楽しくて。ねえ、雪合戦できそう?」
「雪合戦くらいだったらできると思いますが、教授、無理しないで下さいよ」
「走ったら駄目ですよ」
「……馬鹿にしないで。これでもウィンタースポーツは大好きなのよ」
 
 ったって、そりゃ若いころの話だろ。あんた、いくつだよ? とも言えなくて、教授のあとから高城も俺もキャンパスに出ていった。

「ちっちゃな雪だるまだったら作れそうね。三人で作りましょ」
「はい」
「高城くんって青森だった? 雪だるま、作ったことあるんでしょ」
「ありますよ。本橋だってあるよな」
「ガキのころにたまぁに、雪が積もりましたからね。兄貴が高いところにある雪を集めてくれたりもして……」

 三人で作業をしていると、自然に高城とも言葉をかわしていた。喋っていると、なにを小さいことにこだわって口もきかなくなっていたんだろ、と思う。太陽が照ると雪が解けていくように、俺の気持ちの中のわだかまりも溶けていく。子どもじみた遊びにはそんな効用もあるのだと知った。


SHIN/20歳/END







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