ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS動詞物語「枯れる」

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フォレストシンガーズ

冬「枯れる」

 
 ませているのかいないのか、身体は小さいけれど、俺は早熟なほうなのかもしれない。十六歳で初体験って早くもないと思っていたが、周囲の男どもの平均よりは早いような。大学生になっても、恥ずかしながら未経験だって奴も数名、いるようだ。

 けれど、あれはもしかしたら、麗子さんにもてあそばれただけなのかも……いや、そんなふうには考えまい。高校生のときに知り合った、妹の家庭教師だった女子大生。ポルノ映画みたいなシチュエィションかもしれないけど、楽しかったからいいんだ。

 北海道出身の麗子さんは俺を捨てて故郷に帰ってしまい、あれから俺は恋をしなかった。中学生のときには彼女はいたが、高校生の間はまっとうな男女交際をしてこなかったのだ。これはやはり、五つも六つも年上の女性に遊ばれたから……ユキ、そんなふうに考えたら駄目だってば。

 そして、十八歳になった俺はめでたく恋をした。
 枯れ木に新たなつぼみが芽吹くように、同い年の可愛い女の子に恋をして告白して、敢えなく撃沈。合唱部のアイちゃんは俺の告白には、女の子の常套句、友達でいましょ、との答えしかくれなかった。

 友達なんかいやだよ、俺はきみを抱きたい、恋人になりたい、彼氏にして、俺をアイちゃんの男にして、駄々をこねてみても、他人の心を強引にわがものにするなんて不可能だとは知っている。友達なんかいやだけど、仕方なく友達づきあいをしていた。

 お互いにその他大勢の異性の友達。合唱部仲間ではあるから、女子部と男子部の合同練習や合同飲み会で顔を合わせたり、合宿でみんなで海に行き、朝、すれちがって、やっぱり可愛いな、キスしたいな、と見とれていたり。

 まだ十八なんだから、それだけで満足できる男もいるんだろうか。そこはそれ、俺が早熟だからなのだろうか。俺の想いは恋心プラス欲望? 肉欲があるって男としては当たり前だろ。肉欲かぁ……生々しくもいかがわしくも、いい言葉だな。女体と口にして麗子さんにいやがられたのも思い出した。

 ガキのころから俺は、あまり寝なくてもいい体質だ。未成年だから合宿では酒を飲んではいけないのだが、同室の一年生たちはこそっとビールを飲んだりして、馬鹿話をして馬鹿笑いをして、部屋のあちこちでごろごろころがって寝てしまった。

 眠くはならない俺は、そっと起き上がって外に出た。
 真夏の夜の海辺には、カップルの姿も見える。俺もアイちゃんを誘い出して散歩したいな。呼びにいったって出てきてくれないだろうし、部屋を覗いたりして先輩に見つかったら殴られるか、最悪、退部させられるかもしれないし。

「ん?」
 身を低くして通り過ぎた男たちがいる。俺と同室ではない一年生と、二年生の男たちが五、六人、俺には気づかずに浜に出ていった。俺もあとからついていってみると、二年生の一色さんの声が聞こえた。

「だからさ、そこでおまえが女の子を脅かすんだよ。女の子は悲鳴を上げるだろ。そしたらうまくいけば抱きしめてなだめてやることだったらできそうじゃないか。駄目モトでやってみようぜ」
「がおっとか?」
「うらめしやぁ、とか?」

 聞き覚えのある一年生の声もする。肝試しか? そうではなくて悪さか? 幼稚な奴らだな、と呆れはしたものの、二年生も混じっているし、一年生だけだとしても正義の味方ぶっているように思われそうで、止められなかった。

 こんなときには小さな身体は有利で、気取られずに見ていられた。女の子ばかりで散歩している可愛い子を発見すると、男子たちが奇声を上げて脅かす。女の子たちは大半が怖がってきゃあきゃあ言う。きゃあきゃあを楽しんでいそうな女の子もいれば、なにすんのよっ!! と怒って男を突き飛ばす女の子もいる。中には先輩に告げ口した子もいたようで、本橋さんがやってきた。

「おまえら、なにをしてたんだ? 大学生にもなって女の子相手にガキみたいないたずらか? 首謀者は……って、どうでもいいな。四年生を呼ぶ必要もないよ。広いところへ……全員、こっちへ来い」

 ただでさえ怖い顔の本橋さんが不機嫌な表情でいると、迫力満点だ。彼の気迫に押された一年、二年たちが広い砂浜に出ていく。あっちからもこっちからも視線を感じる。あそこにアイちゃんとサエちゃんがいる、と気づいてはいたのだが、まずは本橋さんたちを見ていた。

「おまえら、まとめてかかってこい。そんないたずらをするってのはエネルギーが余ってるんだろ。俺が相手してやるからかかってこいよ。来られないのか? 怖いのか?」

 挑発された男たちは顔を見合わせる。本橋さんは余裕の態度で身構える。誰かが合図して、彼らは一斉に本橋さんに飛びかかり、ものの見事に全員、浜辺に投げ飛ばされた。

「さすが……本橋さん、強い。つぇぇぇ……かっこいい。俺はあん中に入ってなくてよかったな。アイちゃんも見てた? 怖そうな顔しちゃって……そんな顔も可愛いね」

 アイちゃんはサエちゃんとひそひそ話をして、手をつないで小走りで行ってしまった。サエちゃん、アイちゃんと手をつなげていいなぁ。俺もアイちゃんの可愛い手を取りたい。だけど、夜中にアイちゃんの顔を見られたのだから、それだけでもよかったことにしよう。

 そんなふうにちっちゃな想い出だったら残してくれたアイちゃんが、お空の上に旅立っていった。
 教えてくれたのはサエちゃんだ。俺はアイちゃんが学校に出てこないのを疑問に感じてサエちゃんに質問し、病気だと知った。知ってはいてもなんの行動も起こせないでいるうちに、アイちゃんの命のともしびは消えてしまった。

 春から夏へ、秋へとうつろった季節はもう冬。芽生えた恋のつぼみは花開くこともなく、枯れてしまった。俺の青春ってやつもこれで枯れてしまうのかな。
 おまけに、合唱部では一の親友だった木村章も退学してしまった。アイちゃんも章も、俺にひとことの相談もなしに消えてしまった。

「だけど……ね」

 逝ってしまったアイちゃんを想って落ち込んでいたくせに、いつしか俺は立ち直ってきている。サエちゃんとつきあうようになって、本橋さんや乾さんに励ましてもらって、元気を取り戻しつつある俺に罪悪感もなくはないのだが。

「だけど、俺は若いんだもん。枯れた樹だって春になればまた花をつけるんだ。二年生になるまでには絶対にもとの幸生に戻るからね。俺と恋人同士にならなかったことを、アイちゃんだって後悔してるんだろ? アイちゃん……好きだったよ」

YUKI/19歳/END










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~ Comment ~

NoTitle

ちょっとこの年齢になると枯れることを考えるかな。
性欲がね、若いころより少なくなった気がします。
あまり今回の小説とは関係ないですけど。
枯れてもまた花が咲く。
その通りですね。
私も頑張ろう、、、という気になりました!
(* ̄∇ ̄)ノ

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

すこしずつすこしずつ、すべてに於いて、人間って衰えていくものみたいですね。
何年か経つとまた、あのころは若かったな、なんて。

私も頑張ろう、と思っていただけたとのこと、嬉しいです。
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