ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS動詞物語「咲き誇る」

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フォレストシンガーズ

春「咲き誇る」


 舞い込んだのは招待状。
 しかも事務所にやってきた、フォレストシンガーズ、木村章さま宛の結婚式の招待状は、基勝利&山田妙子の連名で届いていた。

「山田って……美江子さんのなにか?」
「私には妙子ちゃんって知り合いも、親戚もいないけどね」
「たとえばいとこの娘とか?」
「私のいとこには、結婚するような娘のいる年齢のひとはいないよ」
「そしたら、もっと遠い親戚とか」
「なんでそんな人が、章くんを招待するわけ?」
「ですよね」

 日本には山田姓は多いのだから、山田美江子さんとは無関係でもおかしくはない。基勝利なんて名前の男だったら知っていたら記憶にあるだろうが、山田妙子……こんな平凡な名前は忘れてしまうかもしれない。

「友達を招待するんだったら、基さんのほうからの招待状じゃないの?」
「結婚式って異性の友達は呼ばないほうがいいって言うんですよね。基は記憶にないなぁ。俺の個人的な知り合いか。親戚にはこんな名前はいないはずだし、いたとしても俺を招待するとは解せないし」

 美江子さんとふたりして悩み、調べてみるか、面倒だったら無視すれば? と言われて調べてみることにした。基だか山田だか、どちらかがブログをやっているようで、URLが小さく記してあったのを見つけたからもあった。

「モトイとローザの結婚式カウントダウン日記」

 ブログタイトルはそうなっている。恥ずかしいタイトルだな、と思いながらも、ピンとくるものがあった、ローザ? もしかしてあのローザか。

 内容をざっと読んでみたところでは、モトイって奴は音楽スタジオを経営していて、ミュージシャンの知り合いも大勢いるようだ。カップルはかわりばんこのように日記を書いていて、Rの署名のある分がローザであるらしい。

「あたしが昔、ロックバンドをやってたのは前にも書いたよね。あたしの腕が今でもけっこう太いのは、ドラマーだったからだね。
 んでね、ロックバンドのメンバーのひとりがけっこう有名になってるんだ。彼に結婚式の招待状を送ったの。モトくんが彼の事務所のアドレス、知ってたから出してみた。
 来てくれるかなぁ、どきどき」

 やはりそうだ。辻褄は合う。このローザはあのローザだ。
 彼女の書いているロックバンドとは、ジギー。俺が大学を中退してその世界に飛び込んだのは、ジギーのギタリストでもあり、リーダーのようでもあったミミに誘われたからだった。

 ジギーのヴォーカル、アキラとしてスーパースターになるんだと夢見て、夢破れ、解散してうらぶれて、ベースのスーと再会して恋人になり、スーに捨てられてフォレストシンガーズの章としてプロになった。振り返ればあの数年間が俺の青春だった。

 ドラムのローザ、あいつの本名は山田妙子というのか。俺はメンバーの本名は知らないままで、スーが末子というのだと聞いたときにも笑ってしまってべそをかかれたが、妙子と末子だったら似たようなものだ。ミミもマリも本名ではなかったのだろうか。

 ハーフだかクォーターだか、ヨーロッパの血が入っていると聞いていたローザが、十年分ほど年を取った姿で写っている写真もあった。まちがいない。あのローザだ。日付を確認して、俺は招待状に出席の返事を出した。

「アキラが来てくれるなんて。嬉しいよ。ありがとう」
「いやぁ、これで僕らの結婚式にも箔がつきますよ。木村さん、ありがとうございます」
「シークレットゲストってことでさ、じゃじゃーんって登場してサプライズをやってくれない?」
「ぜひぜひ、お願いします」

 俺は客寄せパンダか、と言いたくなくもなかったのだが、okしてしまったのは、アキラというなつかしい呼び名のせいだったのかもしれない。
 他人には説明してもわかりにくいらしいが、「章」と「アキラ」にはニュアンスに差がある。俺はロッカーだったころには「アキラ」で、今は「章」だから、最近ではカタカナで呼ばれることははなはだ少ない。ローザと基と三人でチャットをやって、ローザが「アキラ」と表記したことにじんとしてしまったからもあった。

「有名人って誰だよ、って反応もあるんだよ」
「まだ内緒にしてあるんですけど、木村さんが登場してくれたら盛り上がりますよ」
「俺なんか知らないって人も多くない?」

 そんなことはない!! とふたりして断言してくれたので、引き受けた。

「他のみんなは?」
「ジギーの? 知らないんだよね。アキラは有名になってるし、モトちゃんが音楽の仕事をしてるから連絡できたけど、それだって、返事ももらえないかと覚悟してたんだもの」
「山田妙子って誰だ、だったよ」
「えへへ、ごめんね」

 字面でも照れているのが伝わってくる。大柄で気が強くて愛想のない女だったローザは変わったのか。俺が有名になったからだとしたら切なくもあるが。

「ローザって言っても覚えてないかと思ってたからもあったんだけど、嬉しかったよ」
「うん。俺もなつかしいからさ。そっか、他の奴らとは連絡取れないか」
「アキラだったら取れるんじゃないの?」
「ローザ、木村さんにそんなこと言っちゃ……」
「そんなことは言ってないけどね」

 つまり、俺に他のみんなの消息を調べて結婚式に呼んでほしいと? 俺はそこまで暇じゃないよ、と言うまでもなく、むこうはカップルで一緒にいるのだろうから、リアルに話もしているはずで、そんなお願いはされなかった。

 スーは結婚したと聞いた。ミミは俺が臨時ロックバンドをやったときに、ギターのチカの楽屋を訪ねてきたと聞いた。チカは女だから、俺は彼女の楽屋には入れなかったし、俺にはあとからしか教えてくれなかったのは、ミミが俺に会いたくなかったからか。

 あとはマリ、どうでもいいといえばどうでもいい女なのだから、ただなつかしいだけなのだから、会えなくてもいい。ミミにもマリにも会えなくていい。スーには……会わないほうがいいはずだ。

 時間があると三人でチャットをして打ち合わせをすませ、結婚式当日には俺はこっそり、会場のライヴハウスに行った。
 新郎新婦ともに音楽関係者なのだから、一般的な結婚式ではない。基がスタジオの経営者ってことは金持ちか。ローザもいい男をつかまえたってわけだ。音楽にあふれた結婚式になりそうで、俺も楽しみになってきた。

「アキラ、来てくれてありがとう!!」
「……お、ローザ、綺麗じゃん」
「きゃあ、アキラに綺麗だなんて言われるの、はじめてだ」
「はじめまして、木村さん、いらして下さって感激です」
「おめでとうございます」

 式は一般的ではなくても、基と俺の挨拶は常識的だ。ロッカーだって大人にならないと生きていけない。基はローザよりも小さくて、そこもまた微笑ましい。
 デザイナーの友達が作ってくれたというローザのドレスは、ニックネームと言うか、彼女の母親の国の名前としての「ローザ」、薔薇にちなんだデザインになっていた。

 純白のドレスに小さな薔薇の飾りが無数についている。昔からたくましいほうだった彼女がほっそりたおやかに見えて、お世辞ではなく綺麗だった。

「ギターを弾いて歌ってくれるんだよね。アキラ、よろしくね」
「本日のメインイベントですよね。僕も楽しみで感激で……」
「モトくんったら泣かないで」
「泣いてないけどね」

 結婚式というよりもパーティといった感じではじまって、一時間ほど経過。俺の出番だ。俺は銀のジャケットに白い革のパンツ、ロンドンブーツといういでたちでロックギターを弾き、歌った。春爛漫の今日、咲き誇る花は花嫁のローザ、そして、俺の青春だ。

「あー君をただ見つめてる
 咲きほこる花のように
 あー君に寄り添いながら
 咲きほこる花のように

 あの日見ていた 空は続いてる
 雨も風も嵐の日も

 あの日あの時 あの瞬間が
 もしもなかったらどうだろう

 君と逢えたから 僕はここにいて
 こうして生きてる アリガトウ アリガトウ!!

 あー君をただ見つめてる
 咲きほこる花のように
 あー君に寄り添いながら
 咲きほこる花のように」

 ほんのわずかに皮肉も混じっていなくもない。俺がこんな歌を選ぶなんて、それだけでも皮肉? とロック仲間にだったらわかるかもしれない。けど、わずか以外はマジに、俺はローザを祝福していた。

END









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