ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS動詞物語「寿ぐ」

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フォレストシンガーズ

「寿ぐ(ことほぐ)」


 六人からひとりになり、ひとりからふたりになった私の家族。結婚してはじめてのお正月を迎えるにあたって、さて、なにをしようかと考えていた。

 母は専業主婦だった時期も、パートをしていた時期も正社員だった時期もある。時によっては父よりも仕事が忙しくてきーきー言っていて、大掃除は子どもたちとお父さんでやっておきなさいっ!! と命令された年の暮れもあった。
 料理は好きなので、私が主になっておせち料理を作ったこともある。大勢のお客を迎えたお正月も、親戚の家に出かけたお正月もあった。

「旦那さまとうちに来たら?」
「うーん、どうしようかな」
「それとも、旦那さまのおうちにご挨拶に行くの?」
「元旦からは行かなくてもいいと思うよ」

 ヒステリック傾向のあった母も、四人の子どものうちの三人が結婚し、次女の佳代子もパリで暮らしはじめてからは穏やかになった。弟たちも結婚してお正月には旅行に行くとか、奥さんのほうに里帰りするのよ、とか言って、と寂しそうでもあった。

 宇都宮の実家に言ったら楽できるけどなぁ、婚家というものに先に行くべきなんだろうか。結婚したらしがらみも増えるんだよね、と考えていたときに、本橋くんが言った。

「正月早々、仕事だってよ」
「あら……社長から聞いた?」
「ああ。おまえは聞いてないのか」
「聞いてないよ」
「さては社長、おまえに言うと怒ると思ったかな」
「本橋くんは怒らないの?」
「年のはじめから仕事だなんて、ありがたいじゃないか」

 いまだに夫を本橋くんって呼んでるの? と呆れられることもあるが、知り合った当初からそうとしか呼んだことがないのだから、今さらなんと呼べと? 彼も私を人前では山田と呼ぶ。人前ではなかったらおまえ、である。

 デビューしてからの数年は不遇で、仕事よりも歌の練習のほうが多かったり、歌えない仕事しか入らなかったり、無料ライヴやキャンペーンのための挨拶回りやらと、ギャラにならない仕事ばかりだったりしたフォレストシンガーズだ。であるから、お正月早々仕事があってありがたいと言う、彼の気持ちもわかるが。

「おまえは主婦なんだから、年末年始は忙しいだろ。暇な独身にマネージャーについてもらうから、山田は休んでもいいって社長が言ってたぜ」
「私ばっかり……」
「ほらほら、どんどん顔がふくらんでいく……」
「なによっ。結婚したらなんで私だけが忙しいのよ」
「しようがないだろ。主婦なんだから」

 主婦の対義語は主人か。不公平だ。主夫っていうのはちょっとちがうし、本橋くんの仕事では兼業主夫にもなれっこないし……私は兼業主婦? 噛みしめてみるとなんだかとても腹立たしかった。

「怒るんだったらおまえも休まなくてもいいよ。仕事をしてりゃいいんだろ」
「大掃除もしないのね」
「したかったらしたらいいだろ。家事がおろそかになるのがいやだったら、仕事を減らしたらいいんだよ。俺の稼ぎで食っていけないわけでもあるまいに」
「あなたも普通の男だね」
「普通だよ。普通で当然だろ」

 よそのカップルの場合、女性が仕事を続けるか否かは問題視されることもある。ふたりで相談して、彼女が退職するのかどうかを決めるという話はよく聞く。
 遠距離恋愛だったりすると、退職して彼のいる土地で新居を構えるという女性もよくいる。現代は女性が仕事を続けるのが前提だから、そんなことは話し合いもしなかったという場合もある。

 私たちもその口で、私が仕事を辞めるとは考えもしなかった。幸生くんが無邪気な顔をして、美江子さんはいつまでだって俺たちのマネージャーだよね? と訊いたので、もちろんよ、と答えたものだ。

 なのに、こういう話になると家事はすべて私の責任みたいに言うのが、男という生き物なのか。いや、本橋真次郎という男がそうなのか。なまじ彼は収入がよくて、私が専業主婦になっても、子どもが五人くらいできても十分に生活できるのがよくない。

 あんたが安月給だったら、私も働かなくちゃやっていけないでしょっ、と言い返してやれるのに。だなんて、ある意味罰当たりな考えが浮かんでいた。

「新築のマンションなんだから、大掃除なんかしなくても大丈夫だろ」
「おせちは?」
「格好だけつけるためだったら買えばいいし、どうせ正月はうちでは食わないんだから、なくてもいいじゃないか」
「初詣とか……いいよ。もういい。私も仕事をするから」
「だったら最初から怒るなよ」

 秋に結婚してからわずか三ヶ月、その間に何度喧嘩をしたか。雨の夜に彼が出ていってしまったり、仕事の帰りがけに喧嘩をして、私がまっすぐ自宅に帰らなかったり。

「いつまでそんなことばかりやってるんですか、あなたたちは」
「本橋くんが悪いのっ!!」
「そうだねぇ。あいつが悪いんだな。俺がぶん殴ってやろうか」
「やめてよ。乾くんには関係ないでしょ」

「昨日、恭子が電話をしたら美江子さんの機嫌が悪かったって言ってましたけど……なにかありました?」
「恭子さんはシゲくんとちがって敏感よね。あ、ごめん、八つ当たり的発言だったね」
「……本橋さんと喧嘩でも?」
「そうなんだけど、毎度のことよ。気にしないで」

「これで意外と、美江子さんもガキっぽいんだよな。リーダーも苦労しますね」
「彼は子どもっぽくないって言うの?」
「リーダーの稚気については熟知してますから。美江子さんも大変だね。俺は当分、結婚なんかしないでおこうっと。あ、目が言ってる。章くんは結婚したくてもできないくせに、って。その通りですよっだ」
「言ってないじゃないの」
「思ってるでしょ」
「……まあね」

「美江子さん、シンちゃんからの伝言ですよ。今日は早く帰れるから、うまいものでも食いにいこうかって」
「あなたたちのスケジュールは私も知ってるから、伝言はけっこうです」
「シンちゃんの男心も察してやって下さいよ。ここは美江子さんのふところの大きさを見せてやって」
「……そうね、ま、許してあげましょうか」
「やっぱりね」
「やっぱりねって。幸生くん、知ってて言ってたくせに……」

 そんなふうに、四人ともが各々のやり方で私たちに気遣ってくれた。こんなじゃリーダー失格だね、マネージャー失格だな、なんて、仲直りすると笑って言い合った。
 そしてまた喧嘩をする。お正月前にちょっと険悪になった空気は、仕事の慌ただしさにごまかされてしまう。大掃除じゃなくても日常的な掃除くらいしたいな、と思っていてもままならず、年末の数日は大忙しだった。

「あのぉ、今日、訪ねてもよろしいでしょうか」
「……夫がお願いしたんですか」
「はい。よろしいですか?」
「ええ、お願いします」

 サプライズプレゼントのつもり? 十二月三十日の朝、彼が先に出かけてから、ハウスクリーニング会社から電話がかかってきた。年末大掃除サービスパックなのだそうだ。
 掃除もできない主婦なんて、失格だよね、とは考えないでおこう。こんなときにはお金には余裕があるのだからありがたいと考えておこう。本橋くんもけっこう気が効くんだね、と笑っておこう。

「山田、ちょっと来いよ」
「なによ?」
「なんかまた怒ってるか?」
「怒ってないよ。ばたばたしてて気が立ってるだけ」
「気が立ってるってのはおまえの常態だけどな。行こう」

 どこへ? とも質問させてくれず、本橋くんが私の手を引っ張った。
 十二月三十日から一月二日までは仕事が忙しすぎて、本橋くんとは個人的な会話もできなかった。私は二、三度は自宅に帰って、プロがやると最高に綺麗になるもんだと、大掃除の出来栄えに感動を覚えたりもしたが、夫は帰宅すらできずにいた。

 一月三日の今日、夜も遅くなってから本橋くんが、事務所にやってきたのだ。私はこっちで事務的な仕事をしていると誰かに聞いたらしい。事務所から出てタクシーに乗り、連れていかれたのは小さな神社だった。

「有名な神社はまだ人がいっぱいみたいだけど、ここだと三日の夜にはもう空くって、ほんとだったな」
「初詣?」
「そのつもりだよ。来たかったんだろ?」
「どうせだったら晴れ着で来たかったけどね」
「おまえは働く女なんだから、仕事着のほうが美江子らしいぜ」
「そっかな」

 上手に私のプライドをくすぐるんだね。言いたいことはいくつもあるけど、三が日最後の日にふたりっきりで初詣に来られたんだもの、文句は言わないでおこう。

 神社の本殿に歩み寄り、お賽銭を投げて手を合わせる。喧嘩はしようがない、私たちなんだからこれからだって喧嘩はするだろうけど、幸せに暮らしていかれますように……心の中で祈りを唱えてから、ちらっと彼を見る。彼も横目で私を見ていたようで、目と目がばちっと合った。

MIEKO/32/END

2017年、あけましておめでとうございます。
今年も何卒よろしくお願い致します。














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明けましておめでとうございます。
去年はお世話になりました。
こちらでは初コメントになります。
本年もよろしくお願いします。
_(._.)_


去年は・・・後半なかなかコメントできずもうしわけありませんでした。。。
今年は毎週コメントできるように頑張りたいですね。
あかねさんの小説は読んでいてとても勉強になりますからね!!

しかし、正月から正月にちなんだ小説とは
あかねさんのプロフェッショナル意識を感じるじぇ。。
私は正月もくそもない仕事していますけど、
季節を感じるために無理やりおせちとか正月ものは買いますね。
・・・というか買いたいですね。

LandMさんへ

今年もコメントありがとうございます。
こちらこそ、去年もたいへんお世話になりました。

勉強になると言っていただけると嬉しいです。
私は去年からひきずっていて、まだ全然書けずにいるのですが、ストックはありますので、尽きるまでには書けるようになりたいです。

このお話もだいぶ前に書きまして、お正月ごろにアップしようと置いてありました。

お正月って一度なにかを恒例にすると、ずーっと同じようにしないといけない傾向がありますよね。
子どものころもそうでしたし、大人になってからもそう。
まあ、お正月なんだからいいんでしょうけど。
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