ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSのクリスマス「もろびとこぞりて」

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フォレストシンガーズ

2016クリスマス

「もろびとこぞりて」

 浅草でシゲとデートして……デートってのは悪い冗談だが、浅草をシゲと歩いてから俺が神戸に帰る前に誘ってもらった。彼女とすごすほうがいいな、とは思ったが、俺にはそこまで深い仲の彼女はいない。家族のパーティに俺が混ざっていいのか? そんな懸念もあったけれど。

「恭子も来てほしいって言ってるよ」
「うん、そんなら……」

 シゲと俺との仲で社交辞令は不要だが、彼には奥さんがいる。奥さんに気を使いつつ、あつかましくも訪ねてきた。

「おじちゃーん、いらっしゃい」
「おう、広大、元気だったか?」
「げんきー!!」

 生まれたばかりのころはシゲに瓜二つで、男なんだからそれでもいいさ、とみんなで笑っていたものだが、徐々に恭子さんにも似てきた。三歳の子なんてのは相当に不細工でも可愛いけれど、広大は本当に可愛い。飛びついてきた広大を抱き上げ、ベビーベッドにいる壮介にも挨拶をした。

 よその子どもを見るたび、俺の娘を思い出す。
 勤務先のヒノデ電気の息子、創始は小学生で、俺の娘は彼と同い年だ。創始は可愛いばかりの年齢でもないが、広大だって壮介だってこんなにも可愛いのに。

 我が子を可愛がらなかった悪い親父だったよな、俺は。瑞穂が可愛くないわけではなかったのだが、おまえのお母さんと不仲になってたせいかな。うるさいだとか邪魔だとか思ってた俺は、ほんとに悪い親父だったよ。

 後悔先に立たず。おまえにはしっかりした母と、金持ちの祖父母がついているんだから、親父なんかいないほうがいいよな。……いや、せっかくのクリスマスパーティなのに、招いてもらった俺が暗くなっていては失礼だ。コートを脱いで別室に置き、広大と壮介へのプレゼントもその部屋に隠した。

 家族水入らずのパーティに、広大は親戚のおっちゃんだと思っているような男をひとり、加えてもらう。広大が三歳、壮介はゼロ歳、壮介は離乳食の夕飯もすんで、形だけパーティに参加する。広大はパーティパーティとはしゃいでいた。

 注意深く抱いた壮介にシゲがグラスを持たせる格好をさせて、五人で乾杯した。恭子さんが作ってくれたごちそうがテーブルに豪勢に並ぶ。部屋はクリスマスの飾りで華やかにきらきらだ。こんな雰囲気、味わうのは何年振りだろうか。

 ガキのころには両親と妹と弟と、庶民のクリスマスを祝った。
 新婚のころにも妻がクリスマスパーティをやりたがって、プレゼント交換だってした。
 娘が生まれて妻がそっちにかかりきりになったころからか、パーティどころじゃなくなったのは。

 離婚して放浪していた時代には、クリスマスも正月も忘れていた。

 ヒノデ電気の家庭でもクリスマスパーティはやっているらしいが、俺は仲間入りはしない。誘われても断っていたのは照れ臭いからもあった。この雰囲気も多少は照れ臭いが、広大は嬉しくて楽しくてたまらないみたいだし、そんな広大を見るパパとママの表情も輝いている。まっこと、この夫婦は幸せそうでうらやましいのぅ、である。

 今夜はダイエットも忘れて、飲むほうはほどほどにしてごちそうをいただこう。アメリカンドッグにかぶりついた広大が口のまわりをケチャップだらけにして、おいしいね、と笑った。

「おまえのママ、料理が上手だよな」
「うんっ。おじちゃんのママもじょうず?」
「俺のママかぁ。うん、俺のママの作ったメシもうまかったぞ。カツオのたたきなんか絶品だった」
「カツオのたたき、食べた」
「そっか。広大のママも作ってくれるか」

 実の母はまあまあ料理はうまかったが、瑞穂の母は上手じゃなかったんだよな、なんて苦笑する。カツオのたたきは作ったんじゃなくて、買ってきたんだけどね、と恭子さんが笑っている。シゲがテレビを操作すると、フォレストシンガーズが歌い出した。

「Joy to the world, the Lord is come!
Let earth receive her King;
Let every heart prepare Him room,
And heaven and nature sing,
And heaven and nature sing,
And heaven, and heaven, and nature sing.

Joy to the earth, the Savior reigns!
Let men their songs employ;
While fields and floods, rocks, hills and plains
Repeat the sounding joy,
Repeat the sounding joy,
Repeat, repeat, the sounding joy. 」

 テレビ番組の録画だろうか。この歌を聴きながらのごちそうって、最高の上にも最高だ。英語? と広大がママに尋ね、そうだよぉ、とママが応じる。シゲは眠くなったらしい壮介をベッドに入れにいき、テレビ画面が切り替わった。

「ヒデさん、いいねぇ。シゲさんちでパーティなんでしょ?
 飲み過ぎないようにね」
「……幸生……わかっとるちゃ」

 これはシゲがわざわざ作った動画なのだろうか。シゲ以外の四人が俺に向かって語りかけていた。

「よっ、ヒデ、メリークリスマス」
「ヒデ、元気か? 正月にはみんなで飲もうぜ」
「シゲさんちでパーティって、ひとり者にはむしろつらくありません?」

 乾さん、メリークリスマス。
 はい、本橋さん、ぜひ誘って下さい。
 うんうん、章、それはなくもないよ。

 心で返事していると、再び幸生が出てきた。

「俺もそこに行きたいな。広大、いい子にしてるか?」

 名前を呼ばれた広大が、俺に言った。

「ユキおじちゃん、にんじんも食べろって」
「幸生にそう言われたのか? そうだな、ニンジンも食べなくちゃ」
「うん、食べる」

 つけあわせのニンジンをぱくっと食べて、おいしくないけどおいしい、と広大が苦い顔をする。その顔を見て大人たちが笑う。テレビの中では歌が続いていた。

「He rules the world with truth and grace,
And makes the nations prove
The glories of His righteousness,
And wonders of His love,
And wonders of His love,
And wonders, wonders, of His love. 」

 歌っているのは五人だが、シゲはここにいるから、俺に挨拶はしないわけだ。おまえも粋な真似をするんだよな、と俺が見つめると、シゲはわざとらしく知らん顔をした。

END


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~ Comment ~

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メリークリスマス!
広大くん久しぶりだー(^ ^)おうおう、可愛く育ってるー♪絵を描かせてもらったこともあって広大くんの成長がとても嬉しいです(*´ェ`*)
独り身で他所の家庭の幸せに触れる寂しさありますよね…でも広大くんのおかげで救われてる感!
血の繋がりがあると子供は可愛く見えるとか聞いたことがありますが、ヒデちゃんはシゲちゃんの子も可愛く見えて良かったです。
そしてシゲちゃん(笑)なんと粋なことを(笑)知らん顔してるシゲちゃんの顔が目に浮かぶようです(笑)

たおるさんへ

メリークリスマス!! の日も終わってしまいましたが、コメントありがとうございます。

広大のこと、気にかけていただいて嬉しいです。
フォレストシンガーズの世界は時間が止まっていますが、広大はちょっとずつゆっくり、成長しています。

ヒデは自分にも子どもがいますし、シゲの子には特別感を抱いていますし、こう見えて意外と、複雑なところもあるんですよね。

たおるさんのクリスマスはいかがでしたか?
私は特になにもありませんでしたが、たおるさんからコメントをいただけてとてもとても嬉しかったです。
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