ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「み」part2

 ←FS「切手のない贈り物」 →FSのクリスマス「もろびとこぞりて」
フォレストシンガーズいろは物語2

いろはの「み」

「みゃーお」

 リポーターとして取材に出かけるようになったのは、猫番組のためだ。早朝枠の番組だから視聴率はまったく望めないが、早起きのお年寄りや子ども、主婦、早朝出勤の会社員、夜勤明けの看護師さんなど、私のファン、番組のファンだと言ってくれるみなさんから、ファンレターや番組BBSへの書き込みもあるようになった。

「ワオンちゃん、朝の早くからお仕事お疲れさま、眠いでしょ?」

 八十歳のおばあさまからのお葉書。放映は早朝だけど、録画だから早い時間からは仕事はしてないんですよ、と葉書に声で返事をした。

「ワオンちゃんって声優さんなんですってね。孫に聞きました。
 おばあさんは声優というと、映画の吹き替えを想像してしまうのだけど、ワオンちゃんはアニメの声優さん。
 孫の持ってるDVDでアニメを見ましたよ。孫は高校生の男の子で、ふたりでファンになりました。

 孫は「THE・猫」を見てないんです。あんな時間に起きるような子じゃないものね。
 それで、ワオンちゃんのことをずいぶん若いと思っていたみたい。ほんとにワオンちゃんって声は少女みたいですもの。

 私から見ればワオンちゃんは若いですよ。三十代でしょ?
 だけども、孫から見たらおばさんだろうから、失望したらいけないから、「THE・猫」を録画して孫にあげるのはやめました」

 けっこう失礼な文面ではあるが、孫から見て云々……事実でもある。

「僕は「スペースガール戦隊」のころからワオンちゃんのファンです。
 スペースガールズの隊長の紅玉、かっこよくて可愛くて、僕の初恋の女性でした。

 生ワオンちゃんが見られるから、早起きして「THE・猫」を見ています。
 ワオンちゃんを見ると一日中ぽーっとしちゃいます。ワオンちゃん、可愛いね。うちのクラスの女の子たちよりずっと可愛いよ。

 今度、声優さんたちのイベントにも行ってみますね。
 ワオンちゃんと握手できたらうれしいな」

 中学生だと名乗るこの少年は、番組ではなく声優ワオンのファンらしい。彼は私が若くないことには言及していない。他方にはワオンには興味がないような、番組ネタのみのファンレターもあった。

「この間の「猫の駅長」楽しかったわ。
 猫の駅長っていろいろいるんですね。

 私は和歌山に住んでいますので、貴志駅のたまも出てくるのかと楽しみにしていたんだけど、たまは有名すぎるせいか、出さなかったのね。ちょっとがっかり。

 貴志川線を通勤に使っている私は、パートだから朝は遅く、夕方は早く帰ってきます。
 たまちゃんが働いているときには毎日会えるんだよ。いいだろぅ?

 この次はぜひ、たまちゃんの取材に来てね」

 これは和歌山在住の主婦からの書き込み。北海道の小学生からもファックスが届いた。

「猫カフェって行ってみたいなぁ。
 うちの近くに猫カフェがあるんだけど、お父さんもお母さんも猫ぎらいだからつれていってくれないの。

 旭川の猫カフェ「まっくろくろすけ」に取材に来て下さい。
 テレビに出るってきいたらお母さんも行きたがるかもしれないから」

 ファックスに添えられた猫の絵は、なかなかに達者だった。

 その他、おかあさんがねこアレルギーだから猫はだめなの。どうしたらアレルギーがなおりますか? との質問やら、実家が猫屋敷で困ってます、という悩みやら、私にはどうしようもないものもあった。

「いいなぁ、俺もそんな仕事、したいよ」
「フォレストシンガーズは昔、やったことがないの?」
「リポーターはあるけど、猫の仕事ってないな。田舎道を歩いていて猫に遭遇したことだったらあるよ」

 世には猫好きシンガーさんも多々いるが、フォレストシンガーズの三沢幸生も人後に落ちない。大学時代の友人、三沢くんとバーで話していた。

「おふくろの話をするとマザコンだって思われるかもしれないけど……」
「男ってたいていマザコンだよ」
「だよね。うん、聞いてくれる?」

 口うるさくてやかましい母だけど、尊敬しているところもあるんだよ、と三沢くんは語った。

「ガキのころにはよく猫を拾ってきたんだ。俺だけじゃなくてふたりいる妹も、時々拾ってくる。あのころは捨て猫が多かったんだよね。そんなときには母は困った顔はするんだけど、見捨てないんだ。どうにかして貰い手を探してくる。おふくろは押しの強い図々しい女だから、どうにかしちまうんだよ」

 電話でだったら話したこともある、三沢母の愛らしい声を思い出した。あのひとも声優ができそうだ。

「新聞に載っていたんだよ。子どもが猫や犬を拾ってきたら、親は叱らないでやってほしい。もとのところに捨ててきなさいなんて言わないで褒めてやって。小さな生き物をいつくしむ心を大切にしてやって、って。捨て犬ってあまりいないから、主に猫だよね。猫の引き取り手は必ずいるから、ってのはほんとかなぁ、だけど、ああ、うちのおふくろはその点だけはいい母だったなって思ったんだよ」
「その点だけじゃないでしょうに」

 日本の男はたいていマザコンで、その上に照れ屋。三沢くんは臆面もない性格ではあるが、両親や妹たちを悪く言いたがるのは日本人気質なのだろう。

「この次はハワイに取材に行くの。ハワイに捨て猫や迷い猫をいっぱい集めたキャットセンターみたいのがあるんだって」
「ああ、聞いたことはあるよ。そこに行くの? いいな、俺も行きたいな」
「そういうのが日本にもできたらいいね。猫好きは多いんだから、村おこしとかにもなりそうだよね」
「ワオンちゃん、将来やれば?」
「やりたいな」

 誰かと結婚するかどうかはわからないが、まだつきあってもいない男の顔が頭に浮かんだ。将来、彼と一緒に田舎にキャットセンターを作るなんて、素敵な夢だ。

「三沢くんと共同で主催者になるのもいいね」
「それもいいな。章は猫に興味ないから……」
「あ……そうなんだ」

 つきあってもいない男というのは、三沢くんの仲間であるフォレストシンガーズの木村章。むこうも私も意識はしているのはまちがいなくて、三沢くんも木村さんから聞いてはいるのだろう。さりげなく話題に出てくる。

 そんな事実ははじめて聞いたが、そもそも興味がないから、木村章は猫の話をしないのだろう。私が猫番組のリポーターをしているのも知らないのかもしれない。
 木村章ともしも結婚しても、私の夢はかなわない。

 ここにいる三沢くんとだったら、その夢の実現の可能性は高いのに……私は三沢くんには過去も現在も、そして未来も恋はしていない。この先も恋はしない。恋していない相手と結婚はしたくないし、三沢くんもお断りだと言うだろう。

 ならば、結婚じゃなくて共同出資者のセンで考えるほうが、私の将来としては現実的なのだろうか。


END










スポンサーサイト


  • 【FS「切手のない贈り物」】へ
  • 【FSのクリスマス「もろびとこぞりて」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【FS「切手のない贈り物」】へ
  • 【FSのクリスマス「もろびとこぞりて」】へ