ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「切手のない贈り物」

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フォレストシンガーズ

「切手のない贈りもの」

1・章

「もうっ、乾さん、嫌いっ!!」
「……ふふ、俺は好きだよ」
「乾さん……本気で言ってる?」
「いいや」

 まーたあのふたりは馬鹿なことをやってる。
 ふざけているわけではないのは俺は知っているが、ふざけているとしか見えない。幸生が乾さんにしなだれかかろうとし、すいっと身をかわされてつんのめる。こんなふざけたシーンが、ファンの女性たちには受けるのだ。

 フォレストシンガーズがデビューしてから十年余り、このふざけた芝居をはじめてステージでやったのはいつだったか。あのころはファンなんてほとんどいなくて、我々の単独ライヴもできなくて、何組ものシンガーたちのひとりとしてのステージだった。

「さっきね、乾さん」
「うん? どうした、幸生?」
「本橋さんに苛められたの。しくしくしく」
「そうかそうか、よしよし」

 アマチュア時代から幸生は乾さんにこういう芝居を仕掛けていたのだが、公共の場でやるな!! 俺は焦った。本橋さんとシゲさんも泡を食っていたが、当の本人ふたりは楽し気に芝居を続け、客席は沸いていた。

 なのだから、これはファンサービスなのだと俺は知っている。明日のライヴのリハーサルで、ユキちゃんと隆也くんのコントって感じの芝居の練習をしているのである。

「だけど、受け狙いってのもしつこくやると飽きられるだろ。アイドルの美少年同士がやってるんだったらともかく、三十すぎたおっさんふたりがさ……」
「章はおっさんなんだろうけど、乾さんと俺はおっさんじゃないんだよ」
「だったらなんだよ?」
「やーね、乾さんったら言わせるの?」

 なにを言ってもそっちにつなげるのが幸生って奴なのだから、俺も諦めた。けど、俺たちはシンガーズなんだから、ファンサービスは歌でやろうぜ。

「私からあなたへ
 この歌をとどけよう
 広い世界にたった一人の
 わたしの好きなあなたへ」


2・幸生

 フォレストシンガーズのおっさんふたり、それは誰かといえば、言わずと知れた名前の頭文字がSのふたりだ。そのふたりはいつだっていやぁな顔をし、年齢的にはおっさんだが、中身はガキな奴、頭文字がAのひとりもいやがるが、おっさんではないふたり、TとYはめげずに芝居を続ける。

 芝居のつもりで学生時代に開始したこの寸劇に、俺はてめえで影響を受けていたりして? このまんまじゃ俺、お婿に行けないな、そしたら乾さん、ユキをお嫁にもらってくれる? あれれ? 婿か嫁かどっちだ?!

 どっちでもいいけど、父と母に届けたいこのフレーズ通り、心やさしく育てられたユキを、あなたのものにして、隆也さん。年老いた……なんて歌ったら、両親は怒るだろうけどさ。

「年老いたあなたへ
 この歌をとどけよう
 心やさしく育ててくれた
 お礼がわりにこの歌を」


3・隆也

 大人の男の恋愛を歌う、それがフォレストシンガーズのコンセプトだ。
 ユキ、隆也さん、とやりとりをする芝居は純粋な余興だから、我々の歌とは直接の関係はない。わかっていても怒る章や、いつになっても馴れようとしない本橋やシゲも知っての通り、あれはファンサービスだ。

 恋愛不毛の時代だともいわれる。
 若い男が草食化し、恋愛は面倒だの汗臭いだの不潔だのと忌避するようになり、非婚化、少子化の一途となり……いや、俺も三十代独身なのだから言えた義理ではないが、俺は恋愛には消極的なつもりもない。肉食ではないが、日本男子らしい米食だ。

 米食恋愛ってなんだ? いやいや、それは言葉の綾だが。

 古い男である俺は思う。女性から告白してもらって恋人同士になるのも男冥利に尽きるのかもしれないが、自身も彼女を憎からず思っているのならば、おまえが告白しろよ、そこの男。

 好きではない相手ならば仕方ないが、好意があるならおまえが告白しろ、それが男ってもんだ。
 こと恋愛からはじまる諸々のできごとに関してだけは、俺は男だの女だのと言いたい。男がそっち方面の本能を磨滅させてどうするんだよ?

 だからね、俺たちが盛り上げるよ。この歌詞を頭に置いて、彼女を口説けよ。

「夢のないあなたへ
 この歌をとどけよう
 愛することの喜びを知る
 魔法じかけのこの歌を」


4・真次郎

 そうそう、我々はシンガーズなのだから、ファンサービスは歌だ。章もたまにはいいことを言う。

「切手のない贈りもの」。切手を貼らなくても、風に乗ってどこまでも届いていくのが歌。はじめてコンサートに来て、俺たちの歌を初に生で聴いてくれるお客さまもいるだろう。
 
「知りあえたあなたに
 この歌をとどけよう
 今後よろしくお願いします
 名刺がわりにこの歌を」


5・繁之

 この歌詞を口にのぼせると、俺はかつての別れを思い出す。

 出会いと別れが人生だ、といわれるのであるらしいが、実際、三十数年生きてくればいくつもの別れを経験している。その中でもっとも痛手だったのは、ヒデかなぁ。

 俺にはひとことの相談もなく、結婚するから、フォレストシンガーズは脱退するから、と本橋さんに告げて去っていったヒデ。
 再会するまでの十年以上、俺はそんなヒデにこだわっていた。

 だけど、もういいよな。ヒデは戻ってきたのだから。最初のうちは俺たちに対して妙な……忸怩たる思いってのか? そんなのを抱いていたらしきヒデも、徐々にもとに戻ってきている。昔のまんまではいられないのは、俺たちも大人になったから、だろうけど、基本的には変わっていない。

 今後の人生にだって、別れはやってくるのだろう。そんなの当然だけど、やっぱ寂しい。そんなときにはこの歌を。

「別れゆくあなたに
 この歌をとどけよう
 寂しい時に歌ってほしい
 遠い空からこの歌を」

 この歌をあなたに。

END









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