番外編

FS超ショートストーリィ・四季の歌・全員「四季の髪」

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フォレストシンガーズ

超ショートストーリィ・四季のうた

「四季の髪」

1・春

「あの女の子たちの名前と顔は一致します、リーダー?」
「まったく見分けがつかねえよ」
「……老化現象だなぁ」
「うるせえんだよ。幸生にはわかるのか?」

 若い娘たちがラジオ局の廊下で笑いさざめいている。可愛い子ばかりなのでアイドルなのではないかと、真次郎にも想像はできる。アイドルといえばソロではなくグループなのではないかとも思えるが、彼女たちが何人のなんという名前のグループなのかも真次郎は知らない。幸生は知っていて、なんとか学園何年何組のマイちゃんとユナちゃんと……などと教えてくれたのだが、正直、真次郎にはどうだってよかった。

 春は新学期の季節、新しくデビューするアイドルたちが羽ばたく季節でもあるのか。真次郎としてはお父さん気分になって、ま、おまえたちもがんばれよ、と微笑ましく、彼女たちの大騒ぎを遠くに感じていた。距離としては近いのだが、心情的にひどく遠い感じなのだ。

「えーっ、やっだーっ!!」
「うん、やだ、絶対にやだっ!!」

 やだやだやだやだ、あたしも絶対にやだっ!! と、五、六人の女の子たちがものすごい声を出す。本物の女の子の声のやかましさはおまえ以上だな、当然じゃん、と幸生と囁き合ってから、真次郎は尋ねた。

「なにがやだって?」
「禿げた男はやだ、生理的にヤダ、だそうです」
「……」

 思わず自分の頭に手をやりそうになった真次郎を面白そうに見てから、幸生が手を伸ばして真次郎の頭をつんつんとつついた。


2・夏

 直射日光はお肌の大敵なのである。その昔、子どもは夏の間に思い切り陽に灼けておくと健康になって風邪をひかない、などと言われていたものだが、現在では百八十度ちがう。

「けど、日灼けがどうとかって女みたいだろ」
「男だって肌は大切にしないといけないんだよ」
「いいんだよ、若いんだから」

 忠告してやっているのに、章は日焼け止めも塗らずに海辺に出ていこうとしている。こっちだったらどうだ? 幸生は章に言ってみた。

「直射日光は髪にもよくないんだよ。薄毛になるともてなくなるぞぉ」
「……う」

 うるせえな、と言いつつも、章は帽子をかぶった。


3・秋

 髪は女の命ともいわれる。おしゃれにも髪は大切だ。楽屋の鏡の前に並んですわり、章はとなりにいる隆也の髪に視線をやる。真次郎は父親も兄たちも少々髪が寂しくなってきているとかで、抜け毛を気にする。章の父親は昔は角刈りで、髪の毛が多いのか少ないのかも知らなかった。十五年も会っていない父の髪ははたして?

 そんなことが気になる年頃になったんだな、と章はしみじみしてしまうのだが、乾さんは大丈夫だな。髪の毛、ふさふさだもんな、お父さんも髪は多かったよな、いいなぁ。

「すこし伸びてますね、カットしましょうか」
「ああ、お願いします」

 ごくたまにテレビに出ると、ヘアメイクアップアーティストがついてくれる。隆也の髪を調べていた女性アーティストが鋏を手に、隆也に質問した。

「秋ですねぇ。素敵な俳句ってありません?」
「このシチュエイションに合う俳句ですか」

 ほぉ、乾隆也に俳句の話を振るとは、彼女はフォレストシンガーズファンかな。乾さんの個人的ファンかな、と章は思う。しばし考えてから隆也は口にした。

「わが肩に触れし落葉を栞りけり 加藤敦子」
「風情ありますけど、このシチュエィションに合ってます?」
「秋になるとどうしても、髪が抜けますよね。肩に触れる髪を落ち葉になぞらえて……」
「ふむふむ、なるほど」

 それってやっぱ、抜け毛を気にしてるって意味かな。章は横を向いてくすっと笑った。


4・冬

 雪やこんこ、あられやこんこ、降っても降ってもずんずん積もる

 回らぬ舌で広大が歌う。隆也が高いパートを、繁之が低いパートを担当して、ふたりで広大の歌にハーモニーをつける。広大、おまえは今、ものすごく贅沢な遊びをしてるんだぞ、と父の繁之は内心で思っていた。

 今日はとても天気がよくてあったかいから、テニス日和だね、妻はそう言って、週に一度だけ教えているテニススクール講師の仕事に出かけていった。次男の壮介はベビーシッターにお願いし、長男の広大は繁之がお守りをすると決まっていたところへ、隆也が言ったのだ。

「俺も一緒に遊んでいいか」
「ええ、大歓迎ですよ」

 男三人でドライヴに来て、人気のない公園に車を止め、繁之が広大を肩車して歩き出した。晴れたままに雪がちらついてきて、広大ははしゃいでいる。雪やこんこの歌を歌っていた三歳児が、繁之の頭を指さした。

「パパ、雪のぼうしだ」
「ああ、ほんとだな」
「おじちゃんも……」
「帽子にしたらちっちゃいけど、そうだな」
「乾さん、雪のお帽子っていう歌、作って下さいよ」
「それもいいな」

 幼児と大人の混成コーラスのような、そんな歌が、他には人影の見えない公園に流れる。聴衆を求めたくなって隆也が樹の上を見上げると、小鳥が一羽、小首をかしげて三人を見下ろしていた。

END







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