ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSファンシリーズ「ひとり」

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フォレストシンガーズ・ファンシリーズ

「ひとり」

 
 観光シーズンでもない山の中のペンションは閑散としている。こんなところでひとりぼっちなんて、帰りたいと思わなくもないけれど。

「あら、久瑠美、もう帰ってきたの?」
「帰ってきたんだったら家でごろごろしてるなんてもったいない。休暇は返上して会社にいけば?」

 母や姉に言われて仕事に行けば。
「え? 久瑠美、どうしたの? 彼氏と旅行じゃなかったの?」
「ふられたのぉ?」
 同僚には好奇心と、いい気味だというまなざしを向けられるに決まっている。

 家に帰って両親や姉や祖父母と会うのもいやだ、会社に行くのもいやだ。どうしてさっさと帰ってきたのかを、いろんなひとに説明するのはいやだ。だから意地でも、予定通りにペンションに泊まるつもりだった。

 お客が少ないので、食堂も閑散としている。寒い時期の高原なんて外に出てもすることもなく、ずっとペンションにいると掃除の邪魔者扱いされてどうしようもないのだが、それでも私は帰らない。かたくなになった気分のままで、もそもそと夕食をつついていた。

「ああ、いいですよ、こっちで食べたほうが後片付けも楽でしょ」
「他のお客さん、いらっしゃるんですね。そちらの方さえよろしかったら……」
「いやぁ、あっちではイベントをやってるせいで、どこもかしこも満員でしてね」
「こちらで泊まらせてもらって助かりましたよ」

 男性の声が数人分聞こえて、食堂にどやどやと彼らが入ってきた。大きいのや小さいのや、五人の男性だ。全員が二十代だろうか。あっちとはどこだか知らないが、イベントをやっているようなところがあるのか。彼らは私を認めてにこっとして、てんでに頭を下げた。

「腹減ったよ」
「シゲさんなんかもう、ぶっ倒れそうじゃないの?」
「それに近いな。寒かったのもあるし、あったかい料理がなによりだよ」
「お、うまそう」
「お手数かけます。すみませんね、急すぎて」

 テーブルを囲んだ五人のところへ、料理が運ばれてくる。彼らはそのイベントとやらのスタッフなのだろうか。こっちはこんなに寂しくてお客もいないのに、イベントのせいであっちはホテルも満員。はみだした彼らがこっちへ回されたということか。

 賑やかに話をしながら食事をはじめた五人を、私はちらちらと見ていた。
 背が高くてがっしりしていて、黒いセーターを着た男性は、リーダーと呼ばれている。
 ダンガリーのシャツを着たさらにがっしりした中背の男性は、シゲさん。

 小柄で可愛らしい感じで、最年少、二十歳の私と同じくらい? に見える、黄色のセーターの男性は幸生。
 ちょっととがった雰囲気があって、幸生さんと同じく小柄で年齢も同じくらいのような、綺麗な顔をしたピンクのシャツの男性が章。

 もうひとり、すらりと背が高くて、他の四人とはちょっと感じのちがったひとは、乾、乾さんと呼ばれている。もしかしたら乾さんだけはスタッフじゃなくて新人歌手だとか? 他のひととは異なったあかぬけた香りがする。白い厚手のシャツとグレイのパンツのファッションもしゃれていた。

 芸能人なんて会ったことないしなぁ、ほんとにそうだったらちょっと楽しいな。だけど、こんなところに芸能人が来るわけないし。ああ、でも、よそがいっぱいでこっちに回されたという事情だったら、売れない芸能人なんだったらあるかもね。

 食事をする手が止まって、私はそんなことばかり考えている。彼らはシチューやパンやハンバーグの食事を賑やかに食べて、おかわりもしていた。

「久瑠美さんはおかわりは? あら、ちっとも食べてないんですね」
「おかわりはいいです」

 今までは私だけしかお客がいなかったせいで、ペンションの奥さんとは個人的な話もしていた。女の子がひとりっきりで? のわけも、彼女は薄々は察しているだろう。細かい質問はせずに楽しい話しだけをして、久瑠美さんと呼んでくれるようになっていた。

「えーっと、久瑠美さんっておっしゃるんですか」
「え? はい」

 こら、幸生、おまえはまた、と章さんに言われながらも、幸生さんが私のテーブルに近づいてきた。

「どことなくは似てるけど、別人だな。すみません」
「くるみっていうお知り合いがいるんですか」
「いるってか、大学のときにいたんです。くるみちゃんって名前には反応してしまうんですよ」
「そうなんですか……」

 常套手段だろうが、と章さんが小声で言い、くるみちゃん? ああ、と乾さんが呟き、なんだよなんだよ、とリーダーさんが突っ込んでいる。ごめんね、と微笑んで、幸生さんは私のテーブルから離れていった。

 何者なんだろう、あのひとたちは。ひと足先に食堂から出て部屋に帰ってからも、私は考え続けていた。服を着たまま、あかりをつけたままでベッドに横たわって天井を見ていたら、歌が聴こえてきた。

「雪の降る夜は 楽しいペチカ ペチカ燃えろよ
  お話しましょ むかしむかしの 燃えろよぺチカ

 雪の降る夜は 楽しいペチカ ペチカ燃えろよ
  おもては寒い 栗や栗やと 呼びますペチカ

 雪の降る夜は 楽しいペチカ ペチカ燃えろよ
  じき春きます いまに柳も 萌えましょペチカ」
 
 なんて綺麗なハーモニー。その歌に誘われて、私は部屋から出ていった。
 小さなペンションだから、客室は少ない。昭和のころにはペンションというものが大流行したのだそうだが、徐々にすたれてきて、廃業したところもあると奥さんが言っていた。うちの母も、若いころにお父さんとペンションに泊まったよね、と言っていた。

 ここは奥さんの料理がおいしいから、細々と続いてはいるけれど、シーズンオフには今夜のように閑散としている。寂しいわね、と奥さんは言っていた。
 そんなペンションの、応接室というのだろうか。歌はそっちのほうから聴こえてきていた。

「雪の降る夜は 楽しいペチカ ペチカ燃えろよ
  誰だか来ます お客さまでしょ うれしいペチカ

 雪の降る夜は 楽しいペチカ ペチカ燃えろよ
  お話しましょ 火の粉ぱちぱち はねろよペチカ」

 そおっと部屋を覗くと、幸生さんと目が合った。慌てて顔を引っ込めようとしたのだが、入っておいで、と手招きしてくれている。私はおずおず部屋に足を踏み入れた。

「こんばんは、久瑠美ちゃん、よかったら俺たちの歌を聴いていって」
「コーヒーや紅茶だと眠れなくなるかもしれないから、ココアを作りましょうか。みなさんはブランディ入りがいいでしょうかね」
「お願いしまーす」

 静かに聴いていた奥さんが出ていくと、私は言った。

「えっと、いいんですか」
「もちろん。いいんですかじゃなくて、聴いてもらえると嬉しいですよ」
「あのぉ、えっと、乾さんって歌手?」
「乾さんだけ? そしたら俺たちは?」
「バックコーラスのひとたちとか……イベントのスタッフとか」
「そっか、そう見えるか」

 会話の相手は幸生さんで、乾さんは苦笑いしている。こちらも苦笑いの章さんが言った。

「そう見えるのも無理はないかな。俺は木村章」
「本庄繁之です」
「乾隆也です。よろしくお願いします」
「で、俺はリーダーをつとめさせてもらっています、本橋真次郎です。幸生、行くぞ」
「はいはーい。あ、俺は三沢幸生。ではでは」

 なにを行くのかと思ったら、こうだった。

「五人合せてフォレストシンガーズ。でゅびでゅびどうわーーー」
「……わ、すごい」

 すごいと思わず言ってしまったのは、自己紹介が素晴らしいハーモニーの歌になっていたからだ。フォレストシンガーズって知らなかったが、五人グループの歌手だったのか。

「去年の秋にデビューして、一年以上はたったんだけど、売れてないんだよね」
「久瑠美ちゃんが知らないのも当然だって感じだけど、乾だけが歌手に見えた?」
「ごめんなさい」
「あやまらなくてもいいよ。乾は……うん、ま、そんなもんだろ」

 苦笑いしっぱなしの本橋さんが言い、乾さんも言った。

「よろしければあなたのお名前も聞かせていただけますか。久瑠美ちゃんだけでもいいんだけどね」
「……ん、じゃ、久瑠美ちゃんって呼んで下さい」
「かしこまりました。さて、リクエストはおありでしょうか」
「えとえと、フォレストシンガーズの歌を聴かせてほしいです」

 デビュー曲を歌ってくれた。

「やわらかな髪を揺らすあなたが
 僕の胸に頬を埋めて囁く
 顔を上げて目を閉じたあなたに
 そっと口づけ

 あなたがここにいるだけで
 僕は他のなんにもほしくない
 愛しているよ
 あなたが僕を愛してくれている以上に
 僕はあなたをこんなにも愛してる」

 聴いていると知らず知らず、涙が出てくる。くしゅっと鼻をすすった私に、幸生さんがハンカチを貸してくれた。

「つらいことでもあった? 俺に話してごらんよ」
「……幸生、そうやってまた……」
「章はうるせえんだ。黙れ。俺は久瑠美ちゃんに訊いてるんだから」
「幸生、無理強いはいけないぞ」
「乾さん、無理強いはしませんから」

 このひとたちって同い年ではなさそうだ。見た目はシゲさんが最年長っぽいが、実際は乾さんと本橋さんが年上なのだろう。彼らの口のききかたでわかる。そんなことも考えてから、私は言った。

「ほんとはね、彼が……私の彼氏が……今ごろしか休暇が取れないから、久瑠美も休みを合わせて旅行しようって言ってくれたんです。あんまり人のいないところがいいな、ふたりっきりでのんぴりゆっくりしたいなって、彼氏はいつも忙しいから、そのつもりでこのペンションを予約したの」

 だからこそ、奥さんは察している。彼氏の名前でふたりで予約したのに、来たのは私ひとりだったのだから。

「なのにね、喧嘩しちゃったんだ。私が悪かったのかな。俺は行かない、行きたいんだったらひとりで行けって言われて……お金がもったいないから行くよ、って言い返して……もうおしまいなのかな。意地っ張りの私なんか嫌われちゃったのかな。今の歌、あなたがここにいるだけで? 私だってそう思ってたのに……」

 駄目だ、涙があふれてくる。幸生さんが私の背中をとんとん叩いてくれ、乾さんが涙をぬぐってくれる。いつの間にか入ってきていつの間にか出ていったのか、奥さんが持ってきてくれたココアをシゲさんが勧めてくれ、章さんはギターを弾いてくれた。

「恋人同士の喧嘩ってのはさ……乾、言えよ」
「俺たちが軽率になんだかんだ言うよりも、歌おうか。章、久瑠美ちゃんの元気が出そうな曲、弾いてくれ」
「ハードロックでもいいですか」
「ロックは合わないだろ」

 それから彼らは、たくさんたくさん歌ってくれた。遅くまで歌を聴いて、私はセンチになって泣いてばかりいた。疲れて眠ってしまったらしくて、ふと気がつくとベッドにいた。服のまんまで眠ってしまったようで、軽くしていた化粧は剥げてしまっている。誰かが私を部屋まで運んでくれたの? 思い当ると頬がかあっと熱くなった。

「うわ、ちょっと外気に当たろう」
 ひとりごとを言って窓を開けると、車が留まっているのが見えた。その車に向かって歩いていく、昨夜の五人の姿も見える。まともな言葉にもならない声で叫んだら、五人が一斉に振り向いた。

「久瑠美ちゃん、昨日はありがとう!!」
「こちらこそっ、ありがとうございますっ!! おかげさまで元気が出ました」
「それはなによりだよ。俺たちも歌をたくさん聴いてもらえて嬉しかった」
「お客さまがいてくれると、単に練習しているよりもずっとずーっと楽しいからね」
「今日はきっといいことあるよ」
「じゃあね!!」

 みんなしてにこにこと手を振ってくれる。私も手を振って、車に乗り込んだ五人に最後に叫んだ。

「ファンになりますからねーっ!! CD、買いますからねっ!!」
「おーっ、期待してますよっ!!」

 幸生さんの声が響いて、車が走り去っていく。車の方向からこちらにやってくる男性は? もしかしたら……? 幸生さんが言った通り、今日はいいことがあるのだろうか。フォレストシンガーズは私の福の神?


END







 
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