ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「め」part2

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フォレストシンガーズ

いろはの「め」

「めだかの学校」

 オーディションに合格したタレントの卵が、インタビューに応じる答えの定番はこれだ。

「友達が応募してしまって、断れなくて受けたんです」

「一緒に受けようよって友達に言われて、どうせ駄目だろうから軽い気持ちで応募したんです。友達は不合格だったんだけど僕だけ合格しちゃって、びっくりしてるんですよ」

 あんなの嘘だよね、と美鈴と湖鈴は言い合ったものだが、彼女たちがその「友達」の立場になってしまった。友達ではなく「姉」。アイドル雑誌にこんな記事があったのが事の発端だったのだ。美少年アイドル募集!! 

「瑛斗がアイドルになったらいいだろうな」
「うん、絶対になれないってことはないんじゃない?」
「そうだよね。瑛斗はあたしたちの弟だけあって可愛いし、合格するかもしれないよね」
「応募してみようか」

 合格するかもしれない、というのは甘い見通しだとわかっていたが、ダメでもともとのつもりで応募したら、書類選考を通ってしまった。

「瑛斗は歌は下手だけどね」
「アイドルは歌なんか上手じゃなくてもいいんだもんね」
「ルックスで勝負だよ。がんばれ」

 うるせぇなぁ、と口では言っていたが、瑛斗本人も決していやではなかったはずだ。

 姉がふたりいる三人きょうだいの末っ子として育った瑛斗は、姉たちの影響でけっこうアイドルの出る歌番組も見ていた。ラヴラヴボーイズやパッション6などなど、美少年アイドルグループに歓声を送る姉たちを、ばっかじゃないの、と笑いつつも、瑛斗も熱心に番組を見ていたものだ。

「……合格……したみたい、優勝した……みたい」
「うっそぉ!!」
「嘘じゃないよっ!! 美鈴ちゃん、瑛斗がアイドルになるんだよ」
「湖鈴ちゃん……なんか夢みたい」

 抱き合って喜んでいる姉たちを、瑛斗はしらーっと見ていた。
 とはいえ、本当にいやだったら断ることも可能だったのだから、流されていた部分もあったにせよ、瑛斗も張り切ってアイドルの世界に飛び込んでいったのである。

 三人の子どもと両親が暮らしていた群馬県の家から、もっとも若い瑛斗がいちばんに独立していった。瑛斗は十六歳、湖鈴が十八歳、美鈴が二十歳。

「ほんとにデビューしちゃったね」
「エイトGOGO!! ……ださすぎない?」
「アイドルってちょっとださいほうがいいみたいよ」

 エイトマンみたいなタイトルの歌だな、と父が言っていたが、美鈴たちはエイトマンなんて知らない。母も少年アイドルは嫌いではないから、心配はしていても瑛斗がデビューするのを喜んでいる。父も、おまえたちが嬉しいんだったらいいんじゃないのかな、のスタンスだった。

 事務所の方針で仮面ライダーみたいな衣装を着せられて、「エイトGOGO!!」という変な歌を下手くそに歌う。下手くそなのは作っているわけでもないから、自然と言えば自然な少年アイドルができあがった。

 弟がアイドル……自分たちがオーディションに応募したにも関わらず、美鈴も湖鈴も呆然としていたりもする。

「湖鈴ちゃん、東京はどうだった?」
「なんだかぼーっとしちゃった」
「どういう意味で?」
「いろいろ」

 春休みに瑛斗のいる東京に遊びにいっていた湖鈴が帰ってきたのだが、詳しくは話してくれない。たしかにぼーっとした顔をしていて、甘いため息をついたりしている。私も行くんだった、と思っていた美鈴は、夏休みになって瑛斗にお願いしてみた。

「そうだね、美鈴ちゃんもおいでよ」
「かまわないの?」
「マネージャーの木田さんも、美鈴ちゃんも来たらよかったのにって言ってたよ。僕は暇じゃないからあまり遊んであげられないけど、美鈴ちゃんは大人なんだから平気だよね」

 ひとりぼっちにされるのは平気だとも思えなかったが、平気だと言っておいた。

 そして当日、美鈴は精一杯のおしゃれをして東京に向かった。アイドル鈴木瑛斗はスターというほどでもないが、新鮮な若い子に目をつける新しもの好きファンにはぼつぼつ人気も出ている。美鈴と瑛斗が一緒にいると、姉と弟ではなく、アイドルと年上の恋人として写真を撮られる恐れもありそうだ。

 もしかして写真を撮られたとしたら、なに、このぱっとしない女は……と言われないように、美鈴も一生懸命おしゃれをしたのだった。

「はじめまして、畠田と申します。瑛斗くんと社長から言付かってますから、私にまかせて下さいね」
「あの……」
「私は瑛斗くんの所属事務所の社員ですから、ご心配なく」

 ところが、美鈴の世話係としてつけられたのは、中年女性だった。こんな知らないおばさんとふたりきりにされるんだったら、ひとりのほうがいいかも。気づまりではあったが逃げるわけにもいかなくて、美鈴は畠田に言われるままにタクシーに乗った。

「ここは……?」
「瑛斗くんから聞いてますよ。美鈴さんの好きなものをお見せしようと思って」
「私の好きなもの?」
「はい、どうぞ」

 ビルの一室に案内されると、畠田が満面の笑みでドアを開ける。そこでは少年たちがダンスのレッスンをしていた。

「うちには以前はパッション6ってグループがいたんです」
「知ってます、大城ジュンさんのいたグループですよね」
「そうそう。彼らが解散して以来、うちにはアイドルグループはいないんですよね。うちのトップは大城ジュンで、現在は俳優として大活躍しています。女の子のアイドルと瑛斗くんとはいますけど、うちでも男の子のアイドルグループを売り出そうということになって、育ててるところなんですよ」

 畠田が説明してくれている間にも、少年たちはダンスに汗を流している。瑛斗ったら、私はアイドルが大好きだって事務所の人に言ったのね。少々恥ずかしくも腹立たしくもあったが、美少年の集団を見ているのはやはり嬉しかった。

「瑛斗の姉さん?」
「……あ!!」

 あらわれた男を見て、美鈴は硬直した。

「そんな化け物を見るみたいに見ないでよ。俺、知ってる?」
「大城……ジュンさん」
「湖鈴ちゃんも美人だったけど、上の姉さんも可愛いんだ。瑛斗の姉だもんな、可愛くて当然だよな」
「ジュンさんったら、いきなりあらわれないで下さいな。美鈴さんが失神しそうになってるじゃありませんか」

 文句を言いながらも、畠田も嬉しそうだ。本当に失神しかけている美鈴に、ジュンが笑いかけた。

「失神したらこの王子のキスで目覚めさせてやるよ」
「ジュンさん、冗談はほどほどにして下さい」
「畠田さんもキスしてほしい? おばさんと寝る趣味はないけど、キスくらいだったらしてあげるよ」
「いい加減にして下さい」

 あーあ、怒られちゃったよ、とジュンが舌を出す。軽い男だ、美鈴はどこか遠いところでそう考えてはいるのだが、均整の取れた長身といささか皮肉っぽい美貌がこんなにも近くにあると、冷静にはなれなかった。

「あ、歌い出しやがった。俺、帰るよ」
「歌い出すと帰りたくなるんですか?」
「あいつら、ちーちーぱっぱのスズメの学校みたいなんだもんな。それとも、メダカの学校。メダカのほうが言えてるかな」

 めーだかーの学校は川の中、そーっと覗いてみてごらん、とジュンが歌う。みんなでお遊戯しているよ、言われてみれば、あのアイドルの卵たちにはそんなところがある。

 けど、ジュンさんも歌はうまくないよね。頭の大部分はぽわーっとしつつ、美鈴はそうも思う。でも、だからってジュンさんのかっこよさはまるっきり損なわれない。
 そっか、湖鈴もこんな経験をしたんだ、きっと。だから家に帰ってきてもずっとぽっとしたままなんだ。気持ちはわかる。私もそうなりそう。

 たったこれだけの経験でも、瑛斗がアイドルになってつくづくよかったと思う。あんたが私たちの弟でほんとによかったよ、姉孝行な子だよね、と瑛斗に言ってやりたくなってきていた。

END








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~ Comment ~

NoTitle

お久しぶりです。
なかなかコメントできずに申し訳ありませんでした。。。

友達と一緒に応募して~~っていうのは私もありますね。
海外使節派遣団の選抜で友達が落ちて、私が合格したという経験はあります。
まあ、採用する側は動機はどうでもよくて、才能があれば選ばれる世界ですからねえ。。。

LandMさんへ

お忙しいところ、コメントありがとうございます。
年末年始はみなさん、ご多忙ですよね。
私も最近さぼってまして、すみません。

海外使節派遣団ですか。
行かれたのですか。
友達と一緒になにかに応募して……私はその経験はありませんが、わりとあるのかもしれませんね。
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