ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「OH MY LITTLE GIRL」

 ←164「どうすりゃいいの」 →2016/花物語/十二月「ランタナの花言葉」
フォレストシンガーズ

「OH MY LITTLE GIRL」

 涼しい目元が誰かに似ている。しかも、誰かと誰かに面差しが似ている。とは思うのだが、誰なのかはピンと来ていなかった。

「フォレストシンガーズのマネージャー?」
「ええ、そうですけど……」
「山田美江子さんだよね」
「ええ」

 こう言って訪ねてきたひとは、フォレストシンガーズがデビューしてから何人も何人もいた。無名だったころはともかく、最近は急にやってきても彼らには会えないから、マネージャーの私を通すというのがある。私だって誰にでもは会わないが、彼女は私を知っていると見えたので反応した。

 子どもといっていいのだろう。行っても中学生くらいの年齢……小学生かもしれない。少女らしく伸びやかな肢体を、流行りのジュニアファッションに包んでいる。すらっとした美少女なのでよく似合っていた。

 弟には男の子しかいないが、夫には姪がいる。義理の姪とはたまに話をしたりもするので、少女のファッションにもまったくの無知ではない。仕事柄少女アイドルとも触れ合うので、彼女の衣装が流行のブランドものらしいのもわかった。金持ちの娘なのか、母親がファッションに関心が高いのか。

「あの……」
「忙しいの?」
「ひとまずは仕事がすんだばかりだから、忙しくはないのよ。あなたはどなた?」
「美江子さんをナンパしたいの」
「いいわよ」

 身分を明かしたくないのか。事情があるのか。誰に似ているのかを明確には思い出せないが、私の知り合いの身内のような気がする。こんな若い女の子に誘拐もされないだろうし……などと言うと、おまえが誘拐犯とまちがえられるぞ、と笑いそうな夫は、今は打ち合わせ中だ。

 名乗ってもくれない少女とふたり、コンサートホールの外に出ていく。ライヴ開始時間まではまだだいぶあるが、ファンの方々が集まってきて下さっていた。

 誰に似てるんだろう。
 
 目元が涼しいのは乾くん? いや、乾くんみたいな優しい目ではない。章くんは切れ長の綺麗な目をしているが、涼しいという感じではない。幸生くんは丸い目、シゲくんは細い目、本橋真次郎は鋭い目。この五人ではないはずだ。

 徳永くんは皮肉な目、金子さんは頭脳明晰そうな目。星さん? もしかして星さんの身内? 大学一年生のときの恋人で、長く長くひきずっていた星さんを想い出す。彼は独身のはずだから、彼の姪だとか? でも、どうして星さんの姪が私を訪ねてくるの?

「デザートハウス、ここがいいな」
「そうね。ね、なんて名前?」
「みーちゃんって呼んで」
「みーちゃんね」

 猫みたいな愛称だ。

 ケーキやスイーツをメインとするカフェの名は「フローラ」。彼女がみーちゃんと呼んでと言ったものだから、変な妄想が起きた。

 この目は猫にも似ている。もしかしたら幸生くん、猫と恋愛状態に陥って、美女猫に子どもを産ませなかった? その子がみーちゃん。お父さんに会いたいの、って私に頼みにきたんじゃない? おかしなことを考えているうちに、みーちゃんはチョコレートケーキとミルクティをオーダーし、私も同じものを、とウェイトレスに告げていた。

「みーちゃんがナンパしたんだったらおごってくれるの?」
「……」
「ごめん。嘘よ。大人なんだから私が出します。安心して食べて」
「割り勘にしようよ。美江子さんにおごってもらういわれはないもん」

 気が強そうなところは私にも似ているが、性格ではなく顔だ。けれど、性格は顔にあらわれる。気の強そうな……こんな顔の女の子、たしかにいた。

「みーちゃんは何年生?」
「小学校の六年生」
「大人っぽいんだね。背が高くてプロポーションいいからかな」
「老けてるっていいたいの?」
「小学生が老けてるわけないじゃないの」
「そんなことないよ。同級生にもおばちゃんみたいな子がいるもん」

 まあたしかに、小学生でも少女ではなく中年っぽい子はいるものだ。が、大人としてそこは同意してはいけない。

「大人っぽいって褒めてるんだよ」
「嘘だぁ。そんなの嬉しくないよ」
「そしたら、なんていえばいいの? みーちゃんはどんな褒め言葉だったら嬉しい?」
「……そうだなぁ。でも、あたしが言ったことを美江子さんがそのまま言ってくれても嬉しくないよ」
「それもそうだ」

 気難しいお嬢さん。けれど、この子だったらあと五年もたてば、わがままで高飛車なのも魅力的な美少女としてもてもてになりそうだ。

「それで、私になにかご用?」
「ううん、別に……」

 チョコレートケーキを食べ、ん、おいしい、と呟く。涼しい目が誰かに似ていて、すっきり通った鼻筋は別の誰かに似ていて、口元も誰かに似ていて……誰だろう。

「美江子さんと話がしてみたかったの」
「フォレストシンガーズのファンだから?」
「ファンじゃないよ。おじさんの歌に興味ない。お母さんが好きみたいでCDかけるから、やめてって言うんだ」
「お母さんがファンでいて下さるのね。サインをもらってきてあげようとか?」
「いらねえよ」

 クールに乱暴に言い捨てて、みーちゃんはミルクティを飲んだ。

「砂糖を入れないとおいしくないね」
「そうかなぁ」
「ダイエットしなくちゃいけないんだけど、甘いの好きだからな」
「みーちゃんにダイエットの必要なんてまるでないじゃない。痩せすぎてるくらいよ」
「いいんだ。痩せてるほうがかっこいいもん」

 小学生がこの思想とは大丈夫だろうか、とも思うが、流行なのだから仕方ないのか。ちょっとだけね、と言いながらみーちゃんはミルクティに砂糖を入れ、やっぱりこっちのほうがいい、と呟いた。

「あたしが生まれた年に、フォレストシンガーズってデビューしたんだってね」
「そうなるかな。十一年だからね」
「その前……ううん、いいか」
「え?」

 その前? そのひとことで、目の前に像を結んだ男性の姿があった。

 フォレストシンガーズがアマチュアだった時代のメンバー。彼の目は涼しいというよりも鋭いほうだが、みーちゃんと似ている。鼻筋は彼が結婚した女性に似ている。彼女も同じ合唱部のメンバーだったので、私も知っているひとだ。

 口元も彼に似ている。そうか、そうだったんだ。みーちゃんの両親が誰なのかわかったけれど、あなたの名前は柳本瑞穂さん? と言っていいものかどうかは判断できなかった。

「……なに言っていのかわかんない」
「私もどう言っていいのかわからないけど、元通りに親しくしてるのよ」
「……ん?」
「みーちゃんのお母さんがもしもその気になられたら、私を訪ねてきて。お母さんにだったら話してもいいのかもしれない。聞きたくもないのかもしれないから、私が勝手な真似はできないよね。みーちゃんが私に会いにきてくれたって……内緒にしたほうがいいのかな」
「お父さんに?」

 認めたわけだ。私の推理はまちがってはいなかった。

「そりゃあね、会いたくないって言ったら嘘になりますよ。俺が働いてる電気屋の息子は、俺の娘と同い年です。あいつの顔を見るたび、瑞穂はどうしてるんだろ、大きくなっただろな、俺に似てたらけっこう美人だよな、なんて考えます。だけど、俺は妻子を捨てて出て行った身勝手な親父だ。娘にも恨まれてるかもしれないんだもんな。連絡なんかできませんよ」

 お酒を飲んだときにふっと、そんなふうに言っていた彼の声がよみがえってきた。

「言ったら駄目」
「わかりました。言わない、約束ね」
「うん」

 みーちゃんにとっての「これから」はとてもとても長いはず。長い長い時間考えて結論を出せばいい。私に協力できることがあればするけれど、お節介は焼かない。

「おまえは世話焼きなんだよ。他人のことはほっとけ」

 そうだよね、真次郎くん、今回ばかりはお節介はやめておくわ。
 真摯な表情で私を見つめるみーちゃん、小笠原英彦のもと妻の旧姓を名乗っているはずの柳本瑞穂。今度はいつ会えるのか謎なのだから、こんなにもヒデくんに似た顔の美少女を、しっかり記憶しておこう。

END








スポンサーサイト



【164「どうすりゃいいの」】へ  【2016/花物語/十二月「ランタナの花言葉」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

ヒデちゃんの子!?
思わず声に出してビックリしました(^^;

なんと、もう小学生…美少女になってたんですね…なんだかシミジミ。ヒデちゃん、あなたの娘はちゃんと育ってるよ(T-T)

最近の小学生は私が子供だった時とは全然違ってお洒落さんで美人さんがいっぱいになってます。足も長いし、身長もすらっとしてて、ネットの普及のためかモノもよく知ってますし、あか抜けてるというか。
私の頃なんて鼻水垂らしてる子いたんですけど、今じゃそんな子いませんもんね…時代を感じる…

しんみりするお話でしたー。でも、あかねさんのお話読むとなんだか落ち着くというか、安心するというか。あかねさんの醸し出す文章の雰囲気っていうか、魅力ですね♪
最近はお忙しいのかな??私も全然更新してないけど(^^;また読みに来ます(^-^)

たおるさんへ

http://quianquian.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/111111-0599.html

いつもありがとうございます。
先月、こんなこともありまして、最近はちっとも書いていません。ストック分を更新はしていますが、元気が戻ってきていないのもあります。

年が明けたら復活するつもりでいますので、見捨てないでやって下さいね。

ヒデの娘。
びっくりして下さるなんて嬉しいです。
そーなんですよ。ヒデは二十代半ばで父になりましたので、もうこんなに大きな娘がいるのです。

小学生もですけど、高校生には美少女が増えていますよね。
私のころなんて女子高校生は太目が当たり前でしたけど、近頃の子は顔が小さくて脚が長くてプロポーション良くて。
そんな中、むしろ昔ながらのタイプはかわいそうなような……。

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【164「どうすりゃいいの」】へ
  • 【2016/花物語/十二月「ランタナの花言葉」】へ