ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「Clap your hands」

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フォレストシンガーズ

「Clap your hands」

 出演者たちが全員同じ控室、ということは女性もいるのだから、礼儀正しくしなくてはならない。まずはノックし、おはようございまーす、とにこやかに挨拶をしてからドアを開けた。

「……う? ん?」

 控室の中には、乾と章と女性歌手がいた。
 本日の歌謡ショー……俺たちの歌は歌謡曲じゃないんだけどな、と言いたいのはやまやまだが、世間の認識では歌謡曲だとされてしまう。ここにいる女性歌手、三木本サユリさんにしても、私は歌謡曲シンガーじゃないわよ、であろうが、売れなくなってしまえば、俺たち新人とまとめられてしまう。そんな世界なのだ。

「どうかしましたか? なにかありました?」

 おそろしく機嫌がよくなさそうな三木本さんと、ふてくされた態度の章。そのふたりの間に立って困っているかのような乾。三人を等分に見て俺は尋ねた。章は知らん顔をし、乾は眉根を寄せて首をかしげ、三木本さんは言った。

「失礼」
 そのひとことだけで、三木本さんは出ていってしまう。彼女と入れ替わるようにして別の出演者が入ってきたので、俺は乾と章を促して外に出た。

 歌謡ショーが行われるのは地方都市の小さなホールだ。ここでは講演会や政治家の決起集会や、地元出身の有名人のトークショーなども開催されると聞く。そんなホールで、演歌もアイドルも三木本さんのような、ひと時代を築いたシティポップスというのか、ニューミュージックというのか、そういう音楽も、我々のやっているソウルバラードを中心とした音楽も、なんでもかんでも「歌謡曲」のショーをやるのだった。

 ホールの裏手に回って、乾と章と向き合った。今日はスケジュールの関係で五人がばらばらにホールに来たので、幸生とシゲはまだ到着していないらしい。三木本さんと乾と章は早く来たようで、時間の余裕があるのを確認してから尋ねた。

「なんだよ。章が三木本さんを怒らせたのか?」
「そうらしいんだよ。俺が楽屋に入っていったときには……」

 人気絶頂のころにはサユミンと呼ばれていた、四十代の美人シンガー。彼女は音楽業界人と結婚して主婦になっているので、仕事はたまにしかしなくても平気であるらしい。そのサユミンが、先ほどと同じくらいに不機嫌な顔をしていて、乾は恐る恐る訊いた。

「あのぉ、章がなにかご無礼をしましたか?」
「木村章くんっていうのよね。あなたたち、フォレストシンガーズっていうのよね。ポッと出のちんぴら新人グループよね」
「はい、まあ、その通りです」
「そんなちんぴらがこの私にね……言いたくないわ。章くんに聞いて」
「章?」

 我々は全員が同じ大学、同じ合唱部出身である。五人ともにそうである我々の中では章だけが若干異質で、一年生だけで大学を中退してロックバンドをやっていた。そのため、章にだけはロックバンド時代のファンがいて、無名のちんぴら新人シンガーのわりにはファンが多い。

 そのせいで天狗になっている部分もあるのかもしれないが、章は時おりトラブルを起こす。女に向かって失礼な台詞を言ってのけることもなくはない奴だから、今回もなにを言ったのやら。
 
「それでさ、章、なにをしたんだ? なにか言ったのか? って俺が訊いたんだけど、章は答えないんだよ。サユミンさんはあの調子だし、章も返事をしない。言いたくありません、としか言わないんだ。章、本橋と俺と三人になっても言えないのか」
「俺は本当のことを言ったんですよ」

 いい年して……? たいした美人じゃないくせに……? 過去の栄光にすがってないで、あんたはおとなしく主婦やってろよ? 脳裏をぱぱっとよぎったフレーズは、俺としても言葉にするわけにはいかないしろものだった。

「あのひとの歌、リーダーだって乾さんだって聴いたことはあるでしょ」
「そりゃあもちろん、大ヒット曲だってあるもんな」
「積極的に聴かなくても、耳に入ってくる曲がありましたもんね」

 昔はテレビの歌番組が流行っていたので、俺も父や母が見ているヒット曲番組につきあわされた。俺がガキのころには演歌や歌謡曲や、アイドル青春ポップスみたいな曲がヒットして、自然に覚えてしまったものだ。

 近頃は昔ほどには歌番組がないので、聴きたくない曲が耳に入ってくることは少なくなった。レストランやカフェや酒場などでは日本の歌はあまり流さない。田舎の大衆食堂で有線放送の演歌がかかっていたり、理髪店やタクシーの車内でFMを聴いたり、程度だ。

 余暇に音楽を聴くとしたら、俺たちは自分の好みのものを聴く。章なんぞはロックばかり聴いているらしいから、最近のヒット曲は意外に知らない。そもそも最近は大ヒット曲そのものが少なくて、日本中の誰もが知っている歌手、曲というものも減ってしまった。

 だからなにが言いたいのかと言えば、テレビに出ないと有名になれないってこともなくなった時代で、「有名」というのもどこからをいうのか、と首をかしげざるを得ない場合もあるわけで。
 サユミンさんの時代はそのあたりの過渡期だったのかもしれないが、彼女ならばメロディを聴けば日本人の大部分が、あ、これ、知ってると言いそうなヒット曲を持っている。聴きたくなくても聴いていた曲があるのだ。

 聴きたくなくても……? 意味深な台詞だな。俺の感覚ではそんなふうだったのだが、俺の触覚にだってひっかかったのだから、乾ならばなおさらだったのだろう。

「なるほど、なんとなくはわかったよ」
「ほんとのことでしょ?」
「本当のことを言われるとかちんと来るってのはあるんだよな。言い方ってのもあるだろ。章、なんて言ったんだ?」
「二度も言いたくないんですよ」

 当事者ふたりともに言いたくないと言うのだから、これはもうどうしようもない。三木本サユリに睨まれると我々は仕事がしづらくなるのか? そこは微妙なラインだった。

「乾にはわかったのか」
「なんとなくって言っただろ。まぁね、おまえも聴けばわかるよ。仕事の準備をしよう」
「おまえには、章が言っても仕方ないって台詞だと思えるのか」
「ニュアンスもあるからな、そこまでは聞いてないと不明なんだし」

 こっちはわかったようなわからないような気分で、ステージに出た。特別に音楽が好きでもない人間は、聴いたことのある歌を好むのだろうか。トップに出たのは往年の演歌歌手で、ヒットした持ち歌を歌って喝采を受けていた。

 そのあとは、若い女の子のアイドルがまあまあ受けた程度で、他はそろって討ち死に。トリを取るサユミンさんの歌が聴きたいがために残っているらしき聴衆のあくびの中で、フォレストシンガーズも出番を終えた。

 ラストは三木本サユリオンステージだ。彼女は特別扱いで、三曲をメドレーで歌う。その間は共演者たちは彼女のうしろに立ってリズムを取る。手拍子は邪魔じゃないかと思える曲調でも、一転大盛り上がりの客席とともに手を叩き続けた。

 共演するのは初だし、ライヴを聴きたいとは思わなかったので、サユミンの生歌を聴くのも初だ。
 声が出ていない。音域が狭すぎる。ファルセットの魔術師と呼ばれるセクシーな高音を誇るシンガーもいるが、彼女のは声が出なくて裏声になっているだけだ。音階も怪しい。肺活量もなさそうでブレスが多すぎる。

 なんだ、これ? これが天下のサユミンか。ひでぇ、ひどすぎる。

 できることなら共演は最初で最後にしてほしいなぁ、彼女のステージがラストでよかったなぁ、こんな歌、先に聴いたら調子が狂うぜ、それにしても、ちんぴらアイドルシンガーだったらともかく、かつてはスターであり、現在も有名人であるサユミンがなぜ? なぜこんなのが流行ったんだ? なぜ、俺たちは売れないんだ? 不思議な世界だなぁ。

 そこまで考えてはっとした。

 そっか、やっぱ章、あんたの歌は下手だと言ったんだな。乾も章にきつく言わなかったのは、本当のことすぎて困ったからなんだ。俺だって思うよ。あんたに比べたら……歌唱力ってやつは俺たちのほうがよほど……それだけでは売れないのは知ってるけど、それもなくてどうして売れる奴がいるんだ?

「みんな、ありがとう」

 途中から聴きたくなくなった歌が終わったようで、サユミンが優雅にお辞儀をした。
 きゃーーっ、サユミンっ!! 素敵っ!! 最高っ!! などの歓声も聞こえる中で、俺は自棄半分で盛大に拍手をした。

END













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NoTitle

章くん何を言ったんだとハラハラしながら読みました(笑)
本当、有名っておかしなものですよね…。確かにいいものもありますが、何が良かったのかと思うようなものでも売れたり。今でいえばりんごとパイナップルのピ◯太郎さんとか(おい

専門家に言わせれば、理由がちゃんとあってその戦略勝ちだったりするんでしょうが…

しかし、本人に言っちゃう章くんはさすがです(笑)
もう言いにくいことは章くんに変わりに言ってもらったら色々スッキリしそうだ(笑)レンタル章くんほしいです(笑)

たおるさんへ

最近さぼりっぱなしのブログに、コメントありがとうございます。
全然訪問もできていなくてすみません。

ハラハラして下さったとのことで、嬉しいです。
○コ太郎さんって話題になっていますね。こういうのは波長が合わないとまるで駄目でしょう? 私はまったく見ていないのですが、どうだろ。
ジャスティン・ビーバーが面白いと言ったんでしたっけ?
有名人が褒めると有名になるってのもありますよね。

レンタル章。
いいですねぇ、それ。
けっこう言いにくいことも言ってくれますよ。
そのかわり、
「ああ、俺はよく知らないんだけど、たおるさんが言ってほしいって言うからさ」とか、しれっと言ってしまいますが。
(^o^)(^o^)
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