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FS俳句・短歌・超ショートストーリィ2016/10

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短歌・俳句

 瀬戸内海はずいぶんとのどかだ。英彦が育った高知県の海とは見た目からしてちがいすぎて、眠くなってくる。秋の海もひねもすのたりのたりしていて、海面にシートを広げて昼寝したい気分になった。

「小豆島には酒は?」
「酒はそりゃあありますけど、あまりこちらでは作っていませんね」
「液体といえばオリーブオイルと醤油ですな」
「そうそう」

 香川県と高知県なんて、よその土地の人間から見ればどうちがうの? であろうが、高知出身の英彦には著しく差異があると感じられる。土佐にはうまい酒がこじゃんとあるきに、と土佐弁で話すと、地元の人は関西弁みたいな言葉遣いで応対してくれた。
 
 行ったことのないところに行きたくて、ただいま暮らしている神戸からフェリーに乗って気軽に渡れる小豆島を選んだ。

 子どものころにも小豆島には遊びにきた記憶がない。離婚して放浪していた時期には、故郷のあたりには近寄りたくなかった。
 小笠原英彦、三十四歳にして小豆島初体験だ。

 レンタカーに乗って小さな島をひと回り。時々は車を止めて歩く。温暖な土地なので紅葉にはまだ早く、観光客ともそうは出会わない。車を運転するのも快適で、ひとり歩くのも心地よかった。

 おそらくはこのあたりが小豆島ではいちばん賑やかな場所だろう。港近くの町にたどりつくと、英彦は車から降りて歩き出した。三重塔が印象的な寺になんの気なしに入ってみると、見つけた石碑にこんな文字が刻まれてあった。
 
「咳をしても一人」尾崎放哉

 俳句って五七五ばかりじゃないんだよ、と教えてもらったのを思い出す。教えてくれたのは先輩の乾隆也だろう。彼以外に英彦の周囲には、そういったことに詳しい人はいない。

「尾崎放哉とか山頭火とか、自由律俳句を残した人物もいて……」

 そのときにこの句も教わったような気がする。
 学生時代に俳句を耳にしても、退屈だとしか思わなかった。けれど今は……だけど、今だからまだしも……放浪時代の本当にひとりだったころにこんな句を見ていたら、石碑を蹴飛ばしたくなったかもしれない。

 なんでほがーに俺の気持ちを……と絶句して、鼻の奥がつんとして、鼻を鳴らしてしまったかもしれない。

HIDE/END

somen.jpg

小豆島のそーめんです。












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