ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSご当地ソング物語「筑波山麓男声合唱団」

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フォレストシンガーズ

「筑波山麓男声合唱団」

 イーグルスのドン・ヘンリーと似た声をしているから、彼のニックネームはドンちゃん。体格もどんっとしていて、もじゃもじゃと髭を生やした大柄な男だ。

「スーってベーシストだよな」
「うん。前にはバンドでベースを弾いてた」
「今はやってないのか」
「バンドはやってないけど、練習はしてるよ」
「うまい?」
「うまいよ」

 ほんとはそれほどの実力はないのだろうが、卑下するのは嫌いだから豪語しておいた。
 そのせいか、ドンちゃんのバンドのベーシストがどうしても来られなくなったからと、スー、かわりに頼むよとお願いされた。

 二十歳ぐらいのときに、友達のミミに誘われてロックバンドを結成した。女の子ばかりのつもりのバンドのメンバーは四人は集まったのだが、ヴォーカリストが決まらない。ロックをやっている女はヴォーカルかキーボードというのが大半で、歌える子だったらいくらでもいると思っていたのだが。

「だからこそ、鼻もちならない女もたくさんいるんだよ。だからさ、いっそ、男にしない?」
「うちのバンドに男のヴォーカルを入れるの?」
「いいのがいるの?」
「いいの、見つけたんだ」

 自信満々でミミが連れてきたのが、アキラ。小柄で骨っぽくて綺麗な顔をしていて、背の低い分声はとびきり高くて、歌もとびきりうまかった。

「アキラだったらいいかな」
「うん、あたしも賛成」

 キーボードのマリ、ドラムのローザもあたしも賛成して、アキラが加わり、ギターのミミとベースのあたし、スーの「ジギー」がスタートした。
 けれど、ジギーはほんの一年ほどで解散してしまった。

 誰が悪いのかはわからない。ミミは、男のメンバーを入れたのがまちがいだったと言う。男のヴォーカルだとしても、アキラみたいなできそこないじゃなかったらよかったのに、とローザは言い、あいつ、最低だったよね、とマリも言った。

 たしかに、アキラは音楽的には最高だったけど、人間としては最低に近かったのかもしれない。だらしなくて頼りなくて、メンタルが弱い。うちの女の子たちのほうがアキラよりもずーっと男らしくて強かった。でも、あたしはそんなアキラが嫌いじゃなかったんだけどな。

 中学生のときにはじめてバイトをしたライヴハウスで知り合ったのがミミだから、彼女とは十年来のつきあいになる。ローザやマリとは疎遠になっても、ミミとだけはつきあいが途切れなかった。

「ええ? アキラとつきあってるの?」
「うん。ばったり会って告白されちまったんだ」
「あんな男……やめておいたほうがいいのに」
「大丈夫だよ」

 ミミには止められたけど、アキラと半同棲みたいになって、それはそれで楽しかった。
 ジギーは解散してしまったから、またロックバンドやりたいな、俺は女とはこりごりだ、女にはロックは向かないんだよ、男ばっかのバンドがいいな、と言うアキラと喧嘩になったり。

 その他、つまらない理由で喧嘩ばかりしていたけれど、あたしはアキラが好きだった。駄目男に恋をする駄目女の図って、あたしたちみたいなのだろう。
 なのに、アキラはロックから足を洗ってヴォーカルグループのメンバーになってしまった。フォレストシンガーズというアマチュアグループで、いずれはプロになりたいと言う。

 音楽は音楽なんだからいいじゃないか、とも思えなくて、以前以上に喧嘩が増えて、アキラのアパートを飛び出してそれっきり。あれからあたしはバンドも組まず、ふらふらフリーター暮らしで生きていた。

「うん、やるよ」
「ありがたい、スー、助かったよ」

 代理ベーシストをやったのがきっかけで、ドンちゃんとつきあうようになり、結婚した。
 ロックバンドでプロになれるほどではなく、ロックは趣味なのはドンちゃんもあたしも同じ。結婚してから十年近くがたって、ドンちゃんは市場勤めの肉体労働者、あたしもバイトを転々とするフリーターのまんまだ。

「うわー、ほんとにいい天気だな」
「……スー、どっか行こうか」
「あたし、今日はバイトだよ」
「さぼっちまえよ」

 市場勤めのドンちゃんは、冬だったらまだ真夜中みたいな時間に起き出して仕事に行く。今日は休みだというのに馬鹿早く起きていい天気だと騒ぐから、あたしも目が覚めてしまった。

「自分は休みだからってさ……うん、でも、そうしよう。どっか行こう」
「弁当、作ってやろうか」
「ごはん炊いてないから弁当は作れないよ。コンビニで買おう」

 思い立ったら吉日というではないか。まだ早朝だからちょっと遠出だってできる。天気がよくてさわやかな初夏の朝に、ドンちゃんとあたしはつくばへ行くことにした。

「宇宙センターってのもあるんだよな」
「入場料が高いんじゃないの?」
「筑波大学ってのも興味あるけど、それよりも無料の自然を満喫しようか」

 コンビニでおにぎりやコロッケやから揚げやビールをどっさり買って、筑波山へとゴー。ふたりして登っていくと、カエルの歌が聴こえてきた。

「スー、こんな歌知ってるか?」
 カエルの鳴き声を聴いて、ドンちゃんが歌い出した。

「マウントつくばのフロッグコーラス
コンダクターはガマガエル
ガマはガマでも しろく のガマ

セカンドテナーはアマガエル
ベースはガマガエル
バリトンはトノサマガエル
テナーはカジカ」

 ケロケロケケケ、ケロケロケッ!! とドンちゃんが高い声で歌う。そんなハイトーンヴォイス、出せるんだね。ドンちゃんは身体に見合って声も低いから、ベースのガマガエルなんじゃないの? と笑いながら思い出す。

 この歌、この間、フォレストシンガーズが歌っていたよ。フォレストシンガーズは有名になったよね。ジギーのころには本名も知らなかった、アキラ。木村章。彼がフォレストシンガーズのテナー。
 
 筑波山麓のテナーはカジカで、ケケケケロケロ、ケケケケロケロ、って歌うんだ。フォレストシンガーズでも章が担当していた。ドンちゃんの作り声も面白いけど、章だと裏声にもならずに綺麗な高い声が出ていた。あんたの歌の才能は申し分ないのに、人間性はねぇ、なんて、あたしも他人のことは言えないか。

 世間に埋もれて、いわゆるパート主婦になっているあたしのことなんか、章は忘れただろう。あたしのほうは忘れ切ってしまえないのは、章と時々一方的に会うから。彼が有名人になってしまったから。
 
 三十年以上も生きてきて、彼氏だって何人も何人もいたのに、あの駄目男が忘れられないなんて、皮肉なもんだね。

 気持ちよさそうに歌っているドンちゃんは、あたしには似合いの夫だ。身体が大きくて心もおおらかで、怒りっぽいあたしを大きく包んでくれる。エリートなんかじゃないけれど、ロック好きの男でないと満足できないあたしの理想の男かもしれない。

 その日暮らしといえばいえる生活だって、あたしには似合いだ。十年前に戻って章と結婚するか? と誰かに問われたって、絶対にお断りなのに。

 下らないことを考えるのはやめにして、あたしも歌おう。ちょっぴりハスキーな女声のカエルってなに? 小さいカエルは声が高いんじゃないか? とドンちゃんが言う。そしたら、ミニガエルになって、女声も入った筑波山麓カエルの合唱団でいってみよう。


END









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~ Comment ~

NoTitle

これもまたロックな生き様ですねえ。。。
しかし、自分の歌を上手いと自分で豪語するところはカッコイイですね。
やはり自分で歌っている歌たるもの自分が良いと思わないと駄目ですからね。
自分の唄なんですから、せめて自分は愛してやらないと駄目ですからね。
そこは非常に表れていて良かったです。
音楽に対する思いやりが感じることができました。
(*´ω`*)

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

こういう生き方だと老後が不安ですが、今どきどんな生き方をしていても将来はどうなるかわからないし、好きに生きられたらいいですよねぇ。
凡人にはそれもむずかしいことですから、ある意味、スーはすごい女だな、なんて思っています。

自信満々な人間はスムーズに人生送れる、とも言いますが、私にはできないな。
スーもこの前の爵も、私にはうらやましいです。
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