ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「あ」part2

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フォレストシンガーズ

いろはの「あ」part2

「あさきゆめみし」

「ありがちすぎて話すのもこっ恥ずかしいんですけどね……ファンのみんなは知ってくれてるかな。俺、大学を中退してロックバンドをやってたんですよ。十九歳のときだった。ヴォーカルの俺以外の四人は女の子。そういう形のバンドはちょっとだけ珍しかったんじゃないかな」

 ああ、知ってるよ、とラジオを聴いている爵はひとりでうなずく。話しているのはフォレストシンガーズの木村章だ。フォレストシンガーズというのは男五人のヴォーカルグループだから、純ハードロック志向の爵はまったく興味もないのだが、彼らが全員、大学の後輩だと知ってからは黙殺もできなくなった。

 黙殺とはいっても、ただのアマチュアロッカーであり、ただの喫茶店アルバイトの林原爵がどう思おうと、彼らは痛痒を感じないだろうが。

「本橋、乾、本庄、三沢、木村……合唱部だったんだな。合唱部っていえば金子や服部が……本橋って俺より四つも下か。知らないのが当然だな」

 去年、デビュー間もないというフォレストシンガーズを知ったときに、爵はそんな感想を持った。本橋と乾が二十五歳。ということは、四つ年上の俺は二十九か。自らの年齢を改めて意識した。

「もちろん燃えてましたよ。表面はクールなふりをしてるんです。ロッカーが熱くなるのはステージだけでいいってかっこつけてね。でも、内心ではプロになりたい、成功したい、売れたい、金がほしい、なんて、かっかしてるんだ。俺たちはライヴハウスで歌えてる。ギャラなんてなきに等しいけど、まったくの無名でもない。ファンもいる。そんなのをよりどころにしていたな」

 店に流れているFMラジオ。爵の好きな曲はめったにかからないから、いつもは右から左に流している。客もいなくて暇なので、ラジオを聴く以外にはすることがなくなっていたら、木村章の声が聞こえてきたのだった。

 ロックバンド……爵もやっている。中学生のときにはじめてのバンドを組んで、メンバーが変わったり、解散したり、爵がよそのバンドに移ったり、また解散しては新しいグループを結成したりしながら、十五年も続けてきた。

「だけど、そのバンドはものにならなかった。内輪もめで空中分解って、よくある話ですよ。俺がロックスターになりたいと思っていたのも、ロックやってる奴だったらありがちすぎて涙の出そうな話。今、ラジオを聴いてる人の中にもいっぱいいそうですよね」

 いっぱいいるよな、俺もそうさ、ありがちで悪かったな、爵はラジオに向かって毒づく。
 中学生、高校生、大学生までの年頃ならば、周囲もあたたかな目で見守ってくれるかもしれない。親はケチをつけるかもしれないが、大目には見てくれるだろう。

「爵、まだそんなことやってんの? 受験勉強は?」

 高校三年のときの母の声がよみがえる。受験勉強はあまりしなかったから、たいした大学には行けなかった。けれど、爵の入学した大学は芸術方面では人材を輩出していたので、俺もロックでスターになるんだと決め込んでいた。

「爵くんってロッカー志望? ま、いっか」
「ま、いっかってなんだよ?」
「キミと結婚するわけでもないんだから、いっかってこと」

 大学生のときにつきあっていた女の声もよみがえる。彼女はローカル局とはいえ、テレビの女子アナになっていて、爵との交際は黒歴史とやらにしてしまっているのではないだろうか。あるいは、本気で忘れたか。

「林原くん、就職はしないのか」
「しません、俺はロックで生きていきますから」
「現役のときに就活しておかないと、後悔するよ」
「しません」

 だったら好きにするしかないね、と憫笑を浮かべたのは、大学の就職担当事務官だった。

「フリーターなの?」
「追いかけてる夢があるからさ」
「ふーん……でも、爵ってかっこいいから許す」
「おまえに許してもらわなくてもいいけど、身体を許すって意味か」
「それも許してあげるよ」

 二十代はじめのころに、遊びで寝た女がどれもこれもごっちゃになって、よみがえってくる。

「まだアルバイト? そんなことでは……」
「歌手になりたいって? そんなの無理よ。義兄さんも義姉さんも心配してるわよ」
「きちんと就職しなさい」

 親がうるさいので独立してひとり暮らしをするようになった部屋に、お節介を焼きに来た叔父夫婦もいた。

 そんなすべては蹴飛ばして、爵は昔と変わらぬ暮らしをしている。遊び相手ならば途切れ目もなくいるし、親と顔を合わせるとうるさいが、適当に逃げるすべも身についた。
 しかし、俺、もうじき三十か……やばいかも、と考えかけた爵は、おのれの不安感をはじき飛ばして歌った。

「十五のとき 通りのウィンドゥに飾ってあったギターを見たとき
 稲妻が俺の身体駆け抜け
 すべての夢が走り出し
 貧しさも恋のつらさも受け止めた
 まっすぐに」

 ラジオを消して歌いながら、爵はグラスを洗った。今日は朝から客も少なくて、グラスは全部綺麗に洗って磨いてあるのだが、もう一度。

「俺たちに残された時間
 あともう残り少ない
 わかちあえるのは愛だけ、拒まないで」

 なんて言って、女を口説く男の歌だよな、と爵は苦笑する。
 もうじきに三十になるったって、残り少なくなんかない。俺は木村章のようには夢を捨てない。フォレストシンガーズなんて売れもしないままに消えてしまうだろうけど、そのころまでには俺が、ミュージックシーンに躍り出るさ!!


END






 

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~ Comment ~

NoTitle

ロックに生きるというのもやってみたい衝動には・・・・
私は駆られないですけど。
生活は堅実に。
趣味は趣味で。
そこは切り分けれて生きていますけどね。
ある意味、こういうロックな生き方には尊敬の念が出ますね。

LandMさんへ

コメントありがとうございます。
地震は大丈夫でしたか?
大阪もけっこう揺れましたけど、鳥取に近い県はけっこうどころではなかったのではないでしょうか。

さてさて。
ロックな生き方はなかなかできませんし、この爵みたいな人は軽蔑されがちですが、軽蔑するひとって実はちょっとうらやましいのかな、なんてね。

NoTitle

追記。
ご心配ありがとうございます。
相当揺れましたが、とりあえず、家族安全。家安全。職場安全。
何事もなく過ごせました。
気遣い誠感謝です。

やっぱり岡山は比較的安全な地域だな・・・と感じました。


LandMさんへ

お返事ありがとうございます。

大阪は揺れてるな、程度で。
兵庫県だと食器棚の中身ががちゃがちゃしていたのだそうで。
もひとつ近いそちらはどうかと心配していたのですが。

何事もなくてなによりでした。
日常生活は安全なのがいちばんですよねぇ。
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