茜いろの森

□ 番外編 □

FS超ショートストーリィ・四季の歌・繁之「秋の鍋」

FS超ショートストーリィ・四季のうた

「秋の鍋」

 こんなうまいものを、章はどうして嫌いなのだろう。きのこになんか味はないと章は言うが、滋味とでもいうのだろうか。カロリーはないらしいが微量栄養素があるのだと美江子さんだって言っていた。腹いっぱい食っても太らないなんて、女性には最高に嬉しい食いものなのではないか。美江子さんもきのこ鍋を食しては、おいしいね、と言っていた。

 なのに章の奴は、毒きのこじゃないの? などと暴言を吐き、美江子さんにたしなめられて機嫌を損ねて席を立ってしまった。わがままな奴だ。

「シゲさん、おかわりいかが?」
「はい、いただきます……わっ、大盛り!!」
「こんなに食べられない?」
「いいえ。喜んで食べます」

 その場を繕おうとしているのではなく、本当にうまいからだ。きのこ鍋で満腹するようなやわい胃腸ではないのだから、これだったらいくらでも食える。世話をしてくれている女性がお椀に鍋の中身をてんこ盛りにしてくれた。

 アマチュアフォレストシンガーズがいただけた、貴重な歌える仕事だ。脱退してしまったヒデだったら、きのこ鍋だってどんどん食べるだろう。うん、土佐のきのこのほうがうまいな、とこっそり言うかもしれないが、章のように、地元の人の気持ちを逆なでするようなわがままは言わない。

 土佐の食い物と、この土地の名物と、どっちが……なんて、食材談義でもはじめて座を盛り上げるかもしれない。ヒデ、俺はやっぱり章よりもおまえとやりたかったな。フォレストシンガーズをオリジナルメンバーのままで続けていきたかったな。

 なにを言ってんだよ、シゲ。おまえもわがままだろ。
 人には人の事情がある。ヒデは結婚するからとフォレストシンガーズをやめ、かわりに幸生が章を連れてきたからこそ、グループを続けていけてるんじゃないか。

 誰かが嫌いだなんて、誰かのほうがいいだなんて、大人の男が言うことではない。考えるだけでもよくない。
 自分に言い聞かせながらも食っている俺の耳元で、乾さんがそっと囁いた。

「シゲ、ありがとう」
「……へ?」
「おまえのおかげで和んでるからさ」

 いや……いやいや、俺は自然にまかせて食ってるだけですから。

SHIGE/23歳/END









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Date:2016/10/17
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Thema:ショート・ストーリー
Janre:小説・文学

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