ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSご当地ソング物語「カスバの女」

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フォレストシンガーズ

「カスバの女」

 別にひがんではいない。フォレストシンガーズと徳永渉のどちらが知名度が高いか? そんなことはどうでもいいので、奴らが主人公のドラマが作られ、俺は彼らの学生時代に脇役として顔を出すことになったのも、事実に即しているのだからかまわない。

「徳永さんもドラマは見てます?」
「見てるよ」
「気になるんですよね」
「まったく気にならないといえば嘘になるな。ドラマとして純粋に面白いのもあるから見てるよ」
「徳永さんを演じている渡田智光くんってどうですか」
「いいんじゃないのかな」

 喫煙者大歓迎酒場「マギー・メイ」で会った香川厚樹と、ドラマの話になった。香川は大学の後輩で、学生時代から映研にいてショートフィルムなどを作っていたらしい。卒業してからはアニメ畑の映画会社に就職したのだが、独立を目指しているのか、映画も撮っているようだ。

「渡田くんとは親しいんですか」
「親しくはないよ。紹介してもらっただけだ」
「渡田くんはルックスは徳永さんに似てますよね。シゲさんと徳永さんがいちばん、本人に似てるってみんなも言ってますよ」
「そうかな」

 インターネットのファンサイトでは、乾隆也役の石川諭がいちばんの美男、山田美江子役の阿久津ユカがいちばんの美女だとされている。異論はないが、美江子さんはともかく、乾の役をそんな美男にやらせるのはなぜだ? と不可解ではあった。

「渡田くんはそれほど大きな役じゃないから、あんまり評判にならないんだよね。でも、彼は石川くん以上に整った顔をしていない?」
「そりゃあ、ワタルの役なんですから」
「タイガーらしき男子もちらっと出てたね」
「晴海さんらしき女性も出てきていましたね」

 喜多晴海と加藤大河はそう言い合っていた。フォレストシンガーズとちょっとでも関わりのある者は皆、俺が、私が出てこないかな? と期待してテレビを見ているのだろう。一般人は名前を変えてあるし、必ずしも実在の人物ばかりが出てきているのでもないのだが、これはあいつだな、と関係者のひとりである俺も時おりうなずいていた。

 なにも俺の役をやっているからというだけで、渡田と親しくしなくてもいいだろう。フォレストシンガーズは各々を演じる役者と一部は仲良くしている、特に木村とVIVI、三沢と川端は親しいとも聞くが、それは三沢と木村がそんな体質だからだ。VIVIや川端も若いので、つるむのが好きなのだろう。

 そもそもグループを組んで行動したがる奴らとは、俺は性格も体質もちがう。だが、香川にこんな提案をされれば興味が出てきた。

「外人部隊、傭兵部隊っていうんですね。現代ではなく、数十年前の設定です。モロッコの外人部隊に入った二十代と三十代の日本人。その役を徳永さんと渡田くんにお願いしたいと思いまして」
「俺は役者じゃないぜ」
「知ってますが、俳優の仕事はしたくない主義ですか?」
「そんな主義はないが……考えてみるよ」

 ドラマではなく映画だ。タイトルは「カスバの女」。古い古い歌と同名のタイトルであり、内容も古い古い映画のリメイクふう。時代も古い古い。現代恋愛ものなどよりはそそられた。

「涙じゃないのよ 浮気な雨に
  ちょっぴりこの頬 濡らしただけさ
  ここは地の果て アルジェリヤ
  どうせカスバの 夜に咲く
  酒場の女の うす情け」

この歌は大好きだ。大好きなだけに、この女が歌うと耐えがたい。下手というのではないのだが、俺の五感を悪いほうへと刺激する歌なのだった。

「唄ってあげましょ わたしでよけりゃ
  セーヌのたそがれ 瞼の都
  花はマロニエ シャンゼリゼ
  赤い風車の 踊り子の
  今更かえらぬ 身の上を」

 国内でできる分は撮影してしまおうと、古いバーを借りてカメラが回っている。崩れた服装の渡田と俺だけが客で、離れた席にすわっている。もうひとり、ピアノを弾きながら「カスバの女」を歌う女がいる、というシーンだった。我慢できなくなって、俺はピアノに近づいていった。

「きみは演奏して。俺が歌うよ」
「ええ?」
「いいから」

 バーの客としての渡田と俺と、歌い手の女。そのシーンの登場人物は三人だけだが、スタッフや共演者たちが映り込まないところにいる。不満げな女のピアノで、俺が歌った。

「貴方もわたしも 買われた命
  恋してみたとて 一夜の火花
  明日はチュニスか モロッコか
  泣いて手をふる うしろ影
  外人部隊の 白い服」

 カーット!! の声がかかると、渡田が詰めていた息を吐き出したように見えた。

「徳永さん……最高。すげぇ」
「悔しいけど……素敵。私、徳永さんに惚れそうだよ」

 女も言い、監督の香川も言った。

「いやぁ、すげぇ。ほんとですよね。この歌って徳永さんが歌ったほうが格段にいいのはまちがいないんですけど、徳永さんは歌手じゃなくてちんぴら崩れの傭兵ですからね。そんな男がこんなに抜群な歌を聴かせてしまったら、ストーリィが変わってきてしまいますよ」
「だったら徳永さんが私の役をやれば? 私が傭兵志願の女の役ってどう?」
「おいおい、完全に脚本を書き換えろってのか」

 脚本も書いている香川が嘆き、悩まし気に俺を見る。どこにいても俺はやはり歌手なのか。役者もやってみたいと思ったのはまちがいだったのかな? 悔みたくなるような香川の目つきだった。

END









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~ Comment ~

NoTitle

いきなりスターというか、歌の上手い人が現れるのはありますよね。
それによって、脚本を変える・・・。
それもまた大変そうですね。。。


しかし、テレビの人は臨機応変に対応しそうですけどね。
変更して放送するのはよくあることですから。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

アドリブとかハプニングとかいうのもありますね。
脚本を変えるのは大変そうに思えますが、テレビだと臨機応変に変更するんですか?
スポンサーの意向なんかもありますから、柔軟性が大切なのかな。
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