ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSご当地ソング物語「KOBE」

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フォレストシンガーズ

ご当地ソング物語

「KOBE」


 港町を舞台にしたご当地ソングは、長崎と横浜に集中してしまっているのか。意外に神戸は少ないらしい。英彦のなじみのバーである「Drunken sea gull」は神戸にあり、マスターは歌というものに相当に詳しいのだが、そうやなぁ、神戸の歌はあんまりないな、と言っていた。

 出会ったのは十六年前。
 十年以上前に離れ離れになり、二年前に再会した。再会した場所がこの神戸だった。

 男と女の別れと再会ならば、あのときはどうだった、そのときにはどんな気持ちだった、と語り合うのかもしれない。けれど、英彦と繁之は男同士、ただでさえふたりともに変な羞恥心が強くて、そんなこと、口に出すくらいだったら相手を殴りたい、というか、そのような妙な感情を持つ性格だ。

 なのだから、ふたり、黙って港で船を見ている。
 思いつく歌もあまりないから、そろって同じ歌を心で呟いていた。

「異国へ旅立つ陸と海の間
 鮮やかいろしたテープが飛びかう
 人ごみの中きみの名を叫んで
 きみの姿探したよ
 違う人生歩むことなどできないから」

 ひと昔前ならば、異国に旅立つ恋人を見送る男はこうだったのかもしれない。現代でも船で旅立つひとはいるのかもしれない。神戸港はこのシチュエーションにはぴったりだ。

 ふたりともに、さっきからずっと黙っている。
 シゲ、おまえ、なに考えてるんや? ともヒデは問わない。
 ヒデ、なにか言いたいことでもあるのか? なんて、シゲはおぼろげに考えている。

 そんな仲なのだからこれでいい。
 日が暮れてくるとすこしずつ寒くなってくるから、我慢できなくなったらどちらからともなく歩き出し、ここからはほど近い「Drunken sea gull」へ移動して酒を飲む。相談などはしなくても、ふたりの気持ちはそこのところでは一致していた。

 相談っていえばなぁ、あのとき、結婚するからフォレストシンガーズを脱退する、と本橋さんにおまえが告げたとき、俺はショックだったんだよ。ひとことくらい相談してくれたらいいのに、俺にはなんにも言わないでさ。俺ってそんなに頼りにならない奴だったのか?

 でも、もういいよ、すぎたことだもんな。
 あれからおまえに再会するまで、くよくよくよくよ悩んでいたけど、おまえの顔を見た瞬間にぱーっと晴れた。そんなこと、俺は言わないけど、代わりに恭子がちょっと言ってくれたみたいだな。

 妹の美咲から聞いたよ。
 あいつ、フォレストシンガーズのコンサートに行ったんだってさ。そしたらステージでのトークで、俺を肴にしてたって。妹の美咲が知らない小笠原英彦が見えたって。やめてくれよな。

 だけど、俺もブログでフォレストシンガーズをネタにしてるんだからおあいこか。
 うん、ちょっと冷えてきたな。シゲも寒いか?

「……行こうか」
「ああ、飲みたくなってきたよ」

 まるで黙ったままで会話でもしていたかのごとく、ふたりで歩き出す。振り向くと海を行く帆影が見える。

 船が出てゆく、きみを乗せた船が……
 歌詞はこう続くが、彼女は帰ってくるのだろうか。
 
 ヒデは帰ってきたんだから、それでいいよ。
 うん、まあ、どうでもいいから飲みにいこうや、シゲ。

END








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