ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「ふ」part2

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フォレストシンガーズ

いろはの「ふ」

「ふるさとの話をしよう」

 息子の名前をじいさんにつけさせる親が俺には信じられないのだが、つけられてしまったものは仕方ない。大嫌いな本名を名乗らなくなってからどれくらいになるだろうか。

「エミー? 日本人にもそんな名前があるの?」
「まあね」

 思えば遠くへ来たもんだ……なんて、フォレストシンガーズの本橋さんや乾さんに教わった歌。俺の境遇もそんなふうになってしまった。

 幼稚園のときに知り合って悪友になったファイ。こいつは俺とは正反対の意味で本名が嫌いだから、ファイ、エミーという愛称をつけてふたりともにそう名乗るようになった。中学生ともなると男友達には馬鹿にされたが、女の子たちは言った。

「ファイもエミーも美形だもんね。その顔だったら許す」

 別におまえに許してもらわなくても……ではあったのだが、女の子にはけっこう好評だったから気をよくしていたのもあった。

 勉強大嫌いの悪ガキファイとエミーは、高校を卒業してお決まりのようにフリーターになった。ファイはその間に悪さもしていたようだが、俺は真面目に将来を模索していた、ってのも嘘だけど、このまんまじゃいけないなとは思っていた。

「だったらロックバンドやろうぜ」
「ファイは歌は下手じゃないけど、ロックなんか好きでもなかっただろ」
「好きでもないけど、俺とおまえのこの顔を武器にできるだろうが。おまえが俺の歌は下手じゃないって言うんだから、俺がヴォーカルやるよ。エミーはギターだろ。他のメンバーを探そうぜ」

 どうせこのままじゃお先真っ暗だ。やるだけやってみるか、ということにして、ロック雑誌にメンバー募集の広告を出した。
 応募してきたの数人の中から、キーボードとベースとドラムの奴を選んだのが、なぜか全員顔がいい。そんならビジュアル系にしようかと、「燦劇」を結成した。

 どうしたわけだかインディズで人気が出、音楽プロダクションの社長に認められてメジャーデビューを果たし、俺たちはあっという間に人気者になった。同じ事務所のフォレストシンガーズなんかは追い抜かし、どこまでも突っ走る予定だったのだが。

 予定を壊したのは俺だ。ファイはロックってものがわかっていないのだから、ビジュアル系だってへヴィメタだって同じだろ、みたいな感覚だが、俺はハードロックがやりたかった。化粧をして女の子にきゃあきゃあ騒がれるバンドはじきにいやになった。

 やめたいと言い出したのは俺。五人で相談して燦劇を休止すると決め、しばしさよならライヴなんかもやった。そして俺は、ロスアンジェルスにギター修行にやってきた。

 燦劇のみんなもそれぞれにやっているらしい。ファイは俺に早く帰ってこい、また一緒にやろうと言うけれど、俺は当分帰国するつもりはない。パールあたりは、事務所の事務員の玲奈ちゃんが結婚しちまったからだろ? と思っているらしいが、そんなのは関係ない。

「そうなんだ。エミーは日本では人気のあるギタリストだったのね」
「ギタリストとして人気があったんじゃなくて、燦劇のエミーとして人気があったんだよ」
「サンゲキってどういう意味?」

 アメリカにいると男にもてるでしょ? と言いたがる奴もいるが、俺は男には興味ない。キスやハグをされそうになったら逃げる。女の子には興味があるから、そっちだったら誘われたら乗ってみる。二年ほどロスアンジェルスで暮らして、ようやく日常会話には不自由しなくなってきたところだ。

「もともとの意味では惨劇ってのはむごたらしい劇なんだけど、それをもじってきらめく劇だよ」
「The play which flashes brilliantly」

 不自由しないとは言っても、英語ぺらぺらになったほどでもない。日本語だって得意でもないのだから同じだが、俺の説明がわかったのかわかってないのか、メイシーはふむふむ言っていた。

 日本では親元で暮らしていたので、金を使うことがあまりなかった。ビジュアル系ロッカーが親の家に居候とはかっこ悪いのだが、パソコンがたくさんありすぎて引越しが面倒だったのだ。そのおかげで貯金はたんまりできたから、数年は遊んで暮らせる。

 バイトもしないでそこらをうろついたり、バイクに乗ってちょっと遠くに出かけたり、デレクという名のギターの名手に師事したりして、俺は自由に生きている。作曲とギターと英語の勉強だけはノルマだが、遊べる時間もたっぷりあった。

 ライヴハウスで音楽を聴くのは勉強でもあり、娯楽でもある。デレックに連れられていった店で、中国からの留学生のメイシーと知り合った。

 アメリカと中国のハーフで、しなやかで小柄な身体をした、黒髪に黒い瞳のメイシー。今までこちらでつきあった女の子は大きくてグラマーで、髪や瞳の色が淡い子ばかりだったから、メイシーは新鮮だ。日本人に近くてなつかしいのもあった。

 今夜ははじめてのベッドイン。
 恥じらっているのが可愛いメイシーと抱き合う。恥ずかしそうにされると俺も照れてしまったりして、はじめて女と寝たときを思い出していた。

「日本の話、して」
「中国の話もして」
「いいよ。エミーは日本のどこで生まれたの?」
「東京。メイシーってのは本名? メイシーはどこで生まれたの?」
「上海」

 上海の女は強い、とどこかで聞いたことがあるが、弱いよりはいいだろう。ロスの女だって東京の女だって強い。

「メイシーは本名だけど、漢字で書く中国名もあるのよ。エミーにもあるんでしょ」
「あるよ」
「書いてみよ」

 腹這いになった俺の背中に、メイシーが漢字を綴る。中国には日本にはない漢字もあるから、わかんねえよと降参すると教えてくれた。

「美しい香り? その字は日本にもあるよ。日本だったら美香、ミカだよ」
「私はメイシー。エミーの本名は?」

 銀行の名前見本みたいで、大嫌いな本名だけど、メイシーにだったら教えてやってもいい。俺も彼女の細い背中に書いた。鈴木一夫。

「わかりやすい名前だね。カズオ? いい名前じゃないの」
「そっかな。ありがとう」

 いい名前だね、と言った日本人も大勢いるが、笑われているようで素直に受け取れなかった。日本人の名前にはなじみのないメイシーだからこそかもしれないが、彼女には素直に礼が言えた。

「どこから話そうか」
「んーっとね、子どものころの……」

 ふるさとの話。アメリカ人からすると中国と日本は似たようなもんだろ? であるようで、映画やテレビでもごちゃ混ぜになっていたりする。だけど、上海と東京には似たところもあれば、ちがうところだっていっぱいある。

 互いのふるさとの話をしているうちに、だんだんだんだん親しさが増していけばいい。女の子にこんな気持ちになったのははじめてかも。たとえばそれが錯覚だったとしても、それはそれでいいじゃないか。

END










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