ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSご当地ソング物語「嵯峨野さやさや」

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フォレストシンガーズご当地ソング物語

「嵯峨野さやさや」

1・隆也

「京都嵯峨野の直指庵 旅のノートに恋の文字
 どれも私によく似てる
 嵯峨野 笹の葉さやさやと
 嵯峨野 笹の葉さやさやと」

 京都嵯峨野の茶店のベンチにすわっていると、こんな歌が口元にのぼってきた。

 女々しい歌だな、と章が不満そうに俺を見る。女々しい、か、そうか。「女々しくて」なんていう歌がヒットしたっけ。エアギターだのエアフィギュアスケートだのエア柔道だの、エアがいっとき流行っていたが、彼らはエアバンド、楽器のメンバーたちはすべて、エア演奏だった。

 当然、章はそんなのは認めないと言うだろうが、それはこの際問題外だ。「女々しい」という言葉が俺のどこかにひっかかった。

 雄々しい。
 潔く勇ましく力強くたくましく、勇敢、豪胆、勇壮、勇猛、そういった意味だ。

 対して女々しい。
 意気地がない、なよなよしている、柔弱。双方、本来は男性に使う言葉である。

「雄々しいはいいんだけど、めめしいってのは女性たちには気分の悪い言葉ですよね。めめしい、は女という文字を使わないほうがいいかな。男とは、女とはこういうものである、という時代の名残の言葉ですから、めめしいはいずれ淘汰されていくかもしれませんね」

 大学時代の国語教授の講義を思い出す。章はそこまで考えて言ってはいないのだろうが。
 直指庵には旅人たちが想いを綴るノートがある。アンノン族と呼ばれた女性たちが旅をするのが流行っていた時代には、各地にそんなノートがあった。現代でもあるのかどうかは知らないが、そこに綴る女性たちの文字は、想いは「恋」。

 それを女々しいと呼びたいなら呼べ。

「雨の落柿舎たんぼ道 藪の茶店で書く手紙
 きのう別れたあの人に
 京都嵯峨野の笹が鳴る
 京都嵯峨野の笹が鳴る

 朝の祗王寺苔の道 心がわりをした人を
 責める涙がぬらすのか」

 そして彼女は、手紙にも「恋」を綴る。恋心、怨み、未練、そんなものを綴った手紙をポストには投函せず、細かくちぎって嵯峨野の風に飛ばしてしまう。
 目を閉じて歌っていると、風に乗ってどこかへ飛んでいく紙片が、彼女の心のかけらに見えてきて……。


2・章

 昨日、乾さんが茶店で歌っていた歌を、今日は俺がステージで歌う。俺は三沢幸生ではないので女みたいに綺麗な声は出せないが、男の高い声にだったら自信はあった。いかにも女ごころの歌だけど、女々しくて女々しくて……の男にもこんな奴、いるんだから。俺はその、女々しくて……の男なのだから。

「京都嵯峨野に吹く風は 愛の言葉を笹舟に
 のせて心にしみとおる
 嵯峨野 笹の葉さやさやと
 嵯峨野 笹の葉さやさやと 
 さやさやと」

 激しいビートのロックが好き。そんな俺にこんなメロゥな曲、似合わない? そうでもないんだよ。

「乾さん、むずかしい顔をしてなにを考えてるんですか?」

 歌っている乾さんの横で、女々しいって呟いたせいか、彼はなにやら考え込んでいた。

「でも、いい曲だな。明日、俺がその歌をソロのコーナーで歌っていいですか」
「歌詞ではなく曲が好きか?」
「歌詞はレトロっていうのか、今どきの気の強い女とちがったひと昔前の女の子って感じで悪くないけど、なんたって京都のライヴですしね。曲は……もういっぺん歌って下さい」

 シンプルでさらさらと、さやさやと流れていくようなメロディラインも悪くはなかった。

 乾さんだってミュージシャンではあるのだが、音楽よりも「言葉」に心惹かれる人間なのだろう。俺は純粋に音符が作り出す「音」に惹かれる。けれど、自分で理解できる歌詞ならば「言葉」もまったくの無関係ではないわけで、いっそ歌詞は理解しにくい英語のロックのほうが清々しくてよかったりもする。

 同じミュージシャンでも人間の差ってあるものだね。どっちがいいのか悪いのか、どっちが上か下か、なんてのとは関係なく。

END











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~ Comment ~

NoTitle

歌詞に惹かれる・・・と曲に惹かれる・・って結構違いますよね。
私も両方好きっていうのは今まで一つしかなかったですねえ。
なんとなくリズムが好きとか、そういうのもありますし。
歌詞が面白いなあ。。。というのもありましたね。

LandMさんへ

コメントありがとうございます。

私も、この曲は好きだけど歌詞がいやだ、って歌はありますね。
言葉に思い入れがありますので、「歌詞」にもいつも意識は向きますが、この歌は歌詞が好き!! と思うほどの歌はあまりないような。

逆に、いいこと言ってるんだけど、濃すぎる、熱すぎる、重すぎる、というのはあります。
私は体温が低いので、熱血的なのは苦手なのですよね。

NoTitle

うん、女々しいって言葉はちょっと違和感がありますよね。
意気地がなくて、なよなよしてて、未練がましいって、どっちかというと男に多い。
女の腐ったみたいな奴……って言うのも、なんかね。
あまりいい感じしない~w

曲か歌詞かって言うのは選べないかな。やっぱり両方ガツンと来ないと、好きになれない気がします。
英語の歌詞の歌は、好きなバンドでもあまり好きにならないから、やはり日本語の繊細な歌詞が好きなんだなあ~ってしみじみ思います。
あかねさんは、どっちでしょう。

limeさんへ

いつもコメントありがとうございます。

女々しいとか女の腐ったのとか、私も子どものころから疑問というか、変な言葉だと思っていたのですよ。
男の腐ったのって言葉はないのか? なんてね。
腐ると男のほうがひどいような気もします。

英語の歌詞だとわからなくて、この歌、好きだな、でも、なにを歌ってるんだろ。と、好きな曲であるほど気になりますね。
下らないこと言ってるみたいだけど好き、というのはありますから、歌に限ってはメロディ重視なのかもしれません。

雅夢というフォークデュオの「浮雲」という歌。
これはものすごく身勝手な男の歌で、なに言うてんねん、アホか、ってなものなのですが、曲はとても好きです。
怒りつつ歌詞もじっくり聴いたら、男の強がり、哀愁漂うって感じでもあるのですけどね。

でも、さだまさしの「関白宣言」はやはり大嫌いです。
さだまさしの詩は昔は好きなのもあったけど……以下、省略しておきますね。
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