番外編

FS超ショートストーリィ・四季の歌・繁之「夏の坂」

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FS超ショートストーリィ・四季のうた

「夏の坂」


 脂汗を流してつらそうな章の背中から、荷物を下ろしてやった本橋さんを思い出す。俺は本橋さんのそばに寄って、その荷物を持とうとした。

「いいよ。俺が持つ」
「俺のほうが本橋さんよりも力がありますよ。余力もありますから持ちますよ」
「なめんなよ、シゲ、俺だって大丈夫だ」

 うるわしいね、と幸生が笑い、俺のは隆也さん、持って、と甘える。章はもごもごと本橋さんに礼を言っているような、悔しそうな顔をしているような。

 バラエティ番組のロケで登山をしていたときのことが、鮮やかに思い出される。
 若かったあのころはフォレストシンガーズはまったく売れていなくて、シンガーズ扱いもしてもらっていなかったから、あのたぐいの仕事が多かった。

 近頃の章には体力もついてきたようだが、二十代半ばくらいまではひ弱で、そんなときには真っ先に音を上げた。

「大丈夫か、章? 貧血なんか起こしてないか?」
「だ、だい……じょうぶです。重いのがなくなったら歩けますよ。だけど、情けないな、俺」
「気分が悪くなったら、俺がおまえを背負ってやるよ」

 ユキちゃんは隆也さんが背負ってね、とふざける幸生に、本橋さんが猿臂を伸ばそうとする。幸生はきゃっきゃっと猿みたいに笑って逃げていく。章はほっと息をつき、元気だね、と言いながら幸生の背中を見ていた。

「もう一息、がんばろう」
「はい、シゲさん」

 走っていく本橋さんと幸生の背中を追いかけて、あとの三人も歩いていく。乾さんが言った。

「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」

 徳川家康の言葉だそうな、その台詞をも思い出した。
 あれは「遠き道」であって「坂」ではないけれど、道よりも上り坂はさらに過酷だ。我々は長い坂を五人で登ってきた。だから、乾さんはソロライヴのコンセプトを「坂のある町」と設定したのだろうか。

 好きだからというだけで、俺は「城のある町」だが、さすがに乾さんだなぁ。
 ああして五人で坂を上っていたあの日から時が過ぎ、俺たちは各自のソロライヴができるようになった。俺のソロなんてお客さまが入ってくれるのかな、との心配はさておいて。

 これからだって俺たちは坂を上る。五人でいたらへっちゃらさ。なのだから、ひとりでやらなくてはならないソロライヴは不安なのだが、みんなが応援してくれる。それだって俺の背中の荷物の重さを軽減してくれるはずなのだから。

END










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~ Comment ~

NoTitle

微笑ましいなあ~^^
章は小柄だから一番体力がないのかしら。
ユキちゃんは子ザルのように元気(笑)
乾君に甘える言葉がいちいちかわいい。

しかし、シゲさんのソロライブかあ・・・。
うん、ちょっと心配かも(失礼なw)
パンフレット売り場にみんなが売り子として立ってたら、おもしろいな^^

limeさんへ

いつもありがとうございます。
章は二十代半ばくらいまでは、中身は子どもだったみたいです。
身体の弱い子ども。
本当に大人になってからは、だいぶ丈夫になったのですが、メンタルはやや弱いほうですね。

ユキ、可愛いって言ってもらえて嬉しいです。
可愛いと言ってくれるlimeさん、大好き、だそうですよ(^o^)

シゲのソロライヴは無事に終了し……という書き方はおかしいですが、私の中では無事に終了しました。
お客の入りは他の四人と較べるとちょっと少な目でしたが、本人は大満足しております。

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