ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS一日の物語「朝」

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フォレストシンガーズ

「朝」


 目が覚めた瞬間、自分がどこでどうやって寝ていたのかわからないときがある。それほどに熟睡していたからか、昨夜はなんだか幸せだったなぁ、そんなにいい夢、見たっけ? ここは俺の部屋なんだから、幸せだったのは夢だよな、なんの夢だったかな? そう思いながら起き上る。

 ほわーっとあくびをして伸びをしてから、降ろした手に優しい手が触れた。
 おはよう、と女性の声。可愛い声。夢……じゃなかったっ!!

「恭子……さん」
「よく眠れた? ごめんね。私は早起きして朝ごはんを作るつもりだったんだけど、変な時間に寝たから目が覚めなくて。シゲさんが起きたからやっと起きたの」
「いいんだよ、そんなの。おはよう。恭子さんこそよく眠れた?」

 うなずいて、軽い布団を首元まで引っ張り上げる仕草が可愛い。恭子さんは色っぽいタイプではなく、テニス選手だけに強そうで元気そうなのが特徴なのだが、こんな仕草をすると色気も漂ってどきっとした。

「ごはん、作るね。和食がいいんでしょ」
「うん。手伝おうか」
「いいよ。シゲさんは料理は得意じゃないって言ってたじゃない」

 手早く着替えをして、顔を洗いにいったのか。恭子さんが寝室から出ていく。大学に入るために上京してきたときから住んでいるアパートだから部屋は狭くて、寝室とバストイレと小さなキッチンしかない。恭子さんと結婚したら、広いマンションに移る予定だった。

 変な時間に寝たというのは、朝方に起きて本橋さんと乾さんのラジオを聴いていたからだ。フォレストシンガーズの五人が三つに分かれて、週に一度ずつ担当する「FSの朝までミュージック」。俺はあぶれたので、局が川上恭子さんをパートナーにとつけてくれた。

 本橋さんと乾さん、幸生と章がペアになるのが普通だから、俺はあぶれることが多い。今回ばかりはあぶれて幸運だった。おかげで仕事のパートナーが、人生のパートナーにもなってくれる。

 プロポーズというほどでもないが、結婚したいとは告げた。そしてはじめて、俺の部屋で恭子さんとともに朝を迎えた。恭子って呼んで、と彼女は言ってくれるが、慣れないので照れてしまう。俺の部屋に女性が泊まるのもはじめてだが、そう言うべきなのか。言わないほうがいいのか。

 彼氏がもてないのって、女性は嬉しいものだろうか。
 もてない男なんていやよ、と言うひとも、もてないほうが浮気の心配がなくていいじゃないの、と言うひとも、ミュージシャンはもてて当たり前だから、浮気は許すの、私にだけ本気だったらいいんだよ、と言うひとも、俺の周囲の女性はさまざまだ。

「もてないもてないって言うけど、それほどでもないんでしょ。シゲさんだって歌手なんだもの。もてるって基準が高いだけじゃない?」
「いやぁ、乾さんほどにもてる男は珍しいかもしれないけど、俺ほどもてない奴も……そうでもないのかな」

 そんな会話を恭子さんとかわしたことならある。
 もてないとの自己申告は正直にしているのだから、何度も言わなくてもいいだろう。だけどほんとに俺、今まではもてなかったなぁ。二十六歳にして、歌手という派手な職業にも関わらず、女性と自分の部屋で一夜をすごすのが初体験という事実がそれを物語っているではないか。

 ホテルでだったらあるけど、女性の部屋で一夜をすごした経験もない。そもそも、女性とそういうことをしたのは……思い出すと悔恨の情でうつむきたくなるようなあれこっきりなんて、思い出したくないっ!!

 いいんだ、それでもいいんだ。何人もの女性とそういうことをしたらえらいわけでもない。もてないのは魅力が乏しいからなのだろうが、恭子さんにだけもてたらいいんだ。
 結婚するって決まったんだから、負け惜しみじゃないよ。

 小さいキッチンからいい匂いと物音が届いてくる。米をとぐ音、ガスの火をつける音、なにかをまな板で刻んでいる音、小気味よいリズム。目玉焼きの香り。

 ごはんを炊くんだったらもうすこし時間がかかるかな。ここで待たれていると恭子さんは気が急くんだったら、俺は走りにいってこようかな。だけど、ここで幸せを噛みしめていたいな。俺は派手でも華やかでもなくていい。大好きな恭子さんと平凡で楽しい家庭を築ければそれでいい。

 キッチンからの物音と香りは、幸せな家庭の象徴なんじゃないだろうか。味噌汁の香りもしてきて、子どものころの朝を思い出す。独身のころには母の味噌汁が恋しくなったりもしたけれど、もうすこしすれば妻の味噌汁が飲める。俺にとってはその想像は最上級の幸せだった。

END








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~ Comment ~

NoTitle

モテない・・・というのも安心要素なような気がしますけどね~~。
モテると火遊びも過ぎるような気がしますけど。
まあ、モテる・・・というのも優越感に浸れるのかな。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
男性は一般的に、いつでもどこでも誰にでももてたいものかと思っていました。テレビに出ている芸人さんなんかでも、相手がおばちゃんでもおばあちゃんでも、相方よりも俺のほうが好かれてる、とか言って喜んでますでしょ?
あれは社交辞令もあるのかな。

してみると、LandMさんはもてるんですね。
俺はもてたくない、と言う男性はもてる人、と私は勝手に思っています。(^o^)

NoTitle

ふふ。シゲさんの新婚時代のエピソードですね。
なんか、男性なのに、奥ゆかしい^^
さん付けになるのはシゲさんならわかる^^

そんなシゲさんを捕まえた恭子さん、見る目ありましたね。
いや、走りに行かなくても良いでしょう。ぷぷ。
この日一日、いえ、これからずっとお幸せに~^^

けいさんへ

いつもありがとうございます。

見る目があるって言っていただけて、恭子、嬉しい。
シゲさんってばすぐに走りにいきたがるんですよ。
恭子も一緒に行こうって言われて、ごはんよりジョギングに行っちゃったりして。

はーい、恭子、幸せになりま~す!!

と、ノーテンキ恭子からのお礼でした。
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