茜いろの森

□ forestsingers □

FS俳句・短歌・超ショートストーリィ2016/6

2016/6 超ショートストーリィ

 ローカル列車で女ふたり、旅をする、ケーブルテレビの番組ロケで、待望の金沢にやってきた。

「乾さんの故郷なんだよね」
「うん……私、ひとりで行動していい?」
「もちろんいいよ」

 自由時間には共演者の寿々と別れて、千鶴は単独行動になった。幾度か金沢を訪れたけど、誰かとこの場所で時間を共有するならば乾隆也とでないと絶対に許せない。仕事は仕方がないにせよ、かたわらに乾がいないのならば、他の誰かにもいてほしくなかった。

 小雨の中、傘を持っているのは千鶴自身だけれども、隆也が傘をさしかけてくれていると妄想したい。ここは俺のふるさとだからね……千鶴をとっておきの場所に案内してあげるよ。

「とっておきって……ここ?」

 ああ、そうだよ、隆也の優しい声が聞こえる妄想。隆也の腕が肩を抱いてくれている妄想。
 妄想に包まれたままで、千鶴は小さな寺の境内に足を踏み入れた。

「むらさきの、お陽さまの花って書くんだよね? 乾さんに教えてもらった。あじさいの漢字……ここの紫陽花、ほんとに紫だな。思い出した。乾さんに教えてもらった俳句も」

 ひとりごとを言っていても虚しくないのは、ここが乾のふるさとだから。

「紫陽花や 折られて花の 定まらぬ」藤原保吉

 あなたにだったら折られたいのに、乾さんは千鶴を手折ってはくれないけどね、小雨に濡れた紫の花弁に、千鶴は恨み言を呟いてみた。

CHIZURU/19歳の梅雨どきに

murasa.jpg

奈良矢田寺の紫のあじさいです。








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Date:2016/06/25
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Thema:ショート・ストーリー
Janre:小説・文学

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