ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS一日の物語「夜明け」

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フォレストシンガーズ

一日の物語

「夜明け」


 コンテストで発見した金の卵たち。金の卵などと言うと三沢幸生あたりに、社長、古っ!! と笑われそうだが、山崎敦夫は古い人間なのだから言い回しが古いのもやむを得ない。

 本橋真次郎、乾隆也が二十四歳。本庄繁之が二十三歳。三沢幸生、木村章が二十二歳。新人歌手としてデビューするには決して若くもない彼らは、大学合唱部の先輩後輩だ。彼らの合唱部は先輩後輩のけじめにはきびしかったのだそうで、本橋が多少いばって彼らを統率していき、乾と本庄が上手に補佐し、木村と三沢は従順に先輩に従っているのも山崎には好ましく映った。

 その関係は建前というやつで、内幕はその限りでもない。そんなのは当然であるから、内側ではいくらかの軋轢や葛藤もあるのが若者らしくていいと、山崎は思っていた。

 背が高くて筋肉質で、若いに似合わぬ貫録もあり、リーダーは彼にしかつとまらないと山崎も確信している本橋。
 理屈っぽくて頭が切れて、それだけに扱いにくいが一目置ける部分もある皮肉屋の乾。

 朴訥でぼーっとしていて、時には大丈夫か? と訊きたくなるのだが、どうやら大丈夫らしい本庄。
 調子がよくて子どもっぽくて、親子ほども年齢のちがう山崎にも最初から怖気づきもせずに接してきて、社長ってお説教好きですよね、乾さんみたい、と言ってのけた三沢。
 扱いにくいといえば乾とは種類が異なるが、こっちのほうが意外と単純なのかもしれないと思った、ひねくれ者気質の木村。

 そして、マネージャー志望だと言うので修行させるつもりで雇った、本橋や乾と同年の山田美江子。理知的な美人であるだけに気も強そうで、彼女の使い方にも山崎は頭を悩ませていた。

「へぇ、フォレストシンガーズっていうの? 男の子五人のヴォーカルグループね。ゴスペル? フォーク系? ドゥワッブとか?」
「特にジャンルは決めてないみたいだけど、本橋はジャズやソウル、乾はフォーク、木村はロックで三沢はポップス志向らしいよ」
「ふーん、どんなのでも歌えるのも強みかしらね」
「はじめはそれでもいいだろ。デビュー曲は乾が作詞して本橋が作曲した、ラヴバラードだ」
「歌も作れるのね。いいわね」

 昔からのつきあいで、現在では同志のようでもある杉内ニーナ。彼女がいなかったら山崎は音楽事務所を独立させられなかったかもしれない。そのニーナと、フォレストシンガーズについて話した。

「ソウル系のバラードね」
「いいだろ」
「いいわね。荒削りなところもあるけど、うまいじゃない」
「歌は最高だよ」

「ルックスも悪くはないでしょ」
「垢抜けたらそれなりにかっこよくなるかな。ならないのもいそうかな」
「あら、本庄くんだって上手にこしらえたらかっこよくなるわよ」
「私はなにも本庄だとは言ってないだろ」
「顔が言ってたの」

 デモ段階のデビュー曲を流し、デスクには写真を並べている。かっこよくならない奴もいるかな、と言いながらの山崎の視線が本庄に漂っていたのをニーナには見透かされていた。

「あなたがここにいるだけで」。ニーナが言う通りのソウルテイストな甘いラヴバラードだ。太くて低くてブラックな味わいもある声の本橋がリードヴォーカルを取ると、これは売れる、と思う。その反面、地味すぎるかな、インパクト不足かな、とも思っていた。

「奇をてらわずに売れるかな」
「ぽっと出の新人だものね。ここがセールスポイントです、ってものがないとねぇ」
「歌だよ」
「歌は当然でしょうが」
「当然でもないだろ。歌の下手な歌手もよくいるじゃないか」

「あっちゃんはそういうシンガーはハナっからお断りなんだろうけど、歌よりもルックス、他に売りがあれば歌はどうでもいいって方針の事務所もあるでしょ。そういう若い子が売れたりもするのよ。私が言うまでもないじゃない」
「そうだけどな……」

 こんな議論をしていても結論が出るはずもない。山崎はニーナの煙草に火をつけてやり、おのれも煙草をくわえた。

 オフィス・ヤマザキはニーナのために作った事務所だ。ニーナはまあまあ売れている。テレビにひっぱりだこというようなスターではないが、コンスタントにCDが売れてライヴにもお客が入る。実力本位で選んだ地味ではあるが輝いていると自負しているシンガーが、他にも数名いる。

 小さな規模の事務所なのだから、ニーナひとりを擁していれば十分だともいえるが、ここらでもう一発、と思うのもまちがってはいまい。

「若いですなぁ」
「……ん?」
「いや、本橋くんたちがね」

 売れるか売れないかは時の運、運に賭けようとニーナとも話し合ってデビューさせたフォレストシンガーズだ。去年の初秋にデビューシングルをリリースしてから約半年。案に反してなのか案の定なのか、彼らはまったく、ひとっかけらも話題にはなっていなかった。

 事務員の村上に言われて、山崎は外を見る。事務所の窓にかかったブラインドの一部を押し上げて覗いてみると、裏手で五人が雪合戦をしていた。

 東京では三月に雪が降る。時として積雪もあり、雪に慣れぬ大都会では交通が麻痺することもある。昨日も夜半から雪が降り積もり、冬枯れの東京を白く染めた。寒いは交通渋滞はするは、電車が止まったりもするは、雪なんてろくでもないと山崎は思っていたが。

 今朝は息子の数馬が雪だるまを作っていた。子どもには雪は嬉しいものだと思っていたが、子どもでもない二十代の若者たちもこうしてはしゃいでいる。

 明けない夜はないというのだから、フォレストシンガーズは長い目で見守ろう。彼らにとっての長い長い夜明け前はまだまだ続くかもしれないが、「夜明け前が一番暗い」ともいうではないか。フォレストシンガーズの黎明はいつかはきっと、必ず、私がそう信じないでなんとする。

「私も参加してこようかな。村上さんもどうです?」
「いやぁ、私は……社長、張り切りすぎないで下さいね」
「私は村上さんよりは若いですよ」
「そりゃそうですが……」

 零細企業のオフィス・ヤマザキでは、定年の年齢は決めていない。村上が自ら言い出すまではいてもらうつもりだ。彼が引退を決めるまでには、フォレストシンガーズの夜が明けるといいなぁ。山崎はそう考えながら、久しぶりの雪合戦をしようと外に出ていった。

END








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~ Comment ~

NoTitle

こんばんは!
社長が雪合戦に参加してくれる事務所っていいですね^^
色々と人のことを考えていて忙しそうですが、なんだかアットホームな感じです♪

夢月亭清修さんへ

コメントありがとうございます。

強欲だとか説教おじさんだとか、社長、古っ、とか言われて若者に虐げられていますので、とけこもうと必死なのですよ。
この社長のおかげでフォレストシンガーズはプロになれましたので、感謝はしているのですが。
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