ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSショート200話「生誕200年」

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FSショート(200話)「生誕200年」

フォレストシンガーズ

「生誕200年」

 といえば、乾さんのおばあちゃんは? と章が発言し、真次郎に頭をぼかっとやられている。ばあちゃんは生誕何年になるのだろうか、と隆也は頭の中で指を折ってみた。

「俺、ほんと、計算苦手。苦手すぎて最近はてめえの年も数えられなくなっちまったよ」
「それは老化現象だ」
「俺はまだ十代だから、老化なんてしてないよぉだ。廊下を走るな、木村章」
「意味不明だよ、三沢幸生」

 本当は三十代半ばになっているのに、幸生と章は大学生のころと変わらぬ馬鹿話をやっている。生誕何年というのは通常は、すでに鬼籍に入っている人が、現在生きていれば何歳になるのか、と算出するものだ。隆也の祖母はフォレストシンガーズ関係者の間ではなかなか有名だが、生誕何年と数えるほどの有名人ではない。

 それでも孫なのだから、隆也は考える。

 高校三年生、俺が十七歳の年に逝ってしまったばあちゃん。憎まれっ子世にはばかる、との定説とはマッチしていなくて、女性の平均寿命よりもかなり早く、さな子はみまかった。

 はばかるってのは憚る。さしさわりがある、という意味ではなく、はびこるの意味のほうだ。父と結婚して乾になった母の母親なのだから、さな子は乾姓ではない。にも関わらず乾家に思い切りはびこっていた祖母だった。
 で、さな子は生きていれば何歳だ? 隆也の追憶の中の祖母は、隆也が若かっただけに老人に見えていたが、前期高齢者にすぎない。とはいえ、二十年近く前の前期高齢者は、現代のその年齢の者よりは老けていた。

 そっかぁ、ばあちゃん、生きていたら八十代だな。本物のばあちゃんだな。後期高齢者どころか終期高齢者になっても、末期高齢者になっても、あの世に行っちまってからも毒舌もあの性格も健在だろうな。肉体も健在だったらよかったのにな。

 さな子ばあちゃんが話題に上ると、隆也は追憶の中に行ってしまう。過去に戻ってぼわーんとしている隆也はうっちゃって、真次郎は言った。

「生誕200年だから、1816年生まれだよな。いくらなんでも乾のばあちゃんが19世紀生まれのはずがないだろ。ばあちゃんが聞いてたら殴られるぞ」
「リーダーに殴られたから十分ですよ。1816年ってなに時代?」
「いやろっぱくん、明治だよ。1864年が明治維新だから、江戸時代だな」
「あ、思い出しました」

 手を挙げて、繁之も発言した。

「井伊直弼が……あ、去年だ。井伊直弼は2015年で生誕200年です」
「井伊直弼って誰だっけ?」
「章、おまえはそんなことも知らないのか。幸生、教えてやれ」
「はいはーい、えーっと……誰だっけ?」
「桜田門外の変だろ」
「えええ、へーんなのぉ」

 とぼけているのか、実際に知らないのか、幸生はわかっていながらウケ狙いをする傾向もあるので、繁之は言った。スマホで調べろ。

「うんうん、そうそう、スマホで調べたらいいんだよね」
「1864年生まれの有名人、じゃなくて、1816年生まれの有名人だね。明治維新の年に五十歳っていったら、誰? シゲさんだったら知ってるでしょ」
「うーん、明治維新の立役者はみんな若いからな。1830年代生まれが中心じゃないかな。西郷さんは……1828年生まれだ。すると大久保利通は……1830年。桂小五郎は……1833年か。山内容堂……1827年。やっぱ若いですよね」

 歴史は得意な繁之を中心に、幸生と章はスマホで検索している。真次郎は、俺は記憶に頼ろう、と腕組みをして目を閉じる。しかし、真次郎は決して歴史上の人物には明るくない。他の三人とはちがうことをしたかっただけなので、自らの記憶はまるで頼りにならなかった。

「シャーロット・ブロンテだ!!」

 ノスタルジーに浸っていた隆也が目を開けて小声で叫び、章が首をかしげた。

「誰だっけ?」
「外国人の作家ですよね」
「外国人なのはわかるけど、シャーロットって女だよな。なにを書いた作家だ?」
「嵐が丘?」
「ちがう、嵐が丘はシャーロットの姉のエミリー・ブロンテの著書だよ。シャーロットは「ジェーン・エア」だ」
「それも女の名前だろ? 乾は読んだのか」
「読んだよ」

 孤児として育ったジェーン・エアは、大人になって家庭教師となる。当時の女性の運命、旧態な社会に敢然と立ち向かった「新しい女」とも言われたジェーンが、その家の主人と結婚するまでを描いた物語である。

「そんなひと、有名じゃないでしょ?」
「おまえたちが知らないだけで、文学少年だったら知ってるよ」
「俺たちのファンは文学少年ってよりは……ってよりは……」
「ってよりは、なんだよ、幸生?」

 全員に注視されて、幸生は言った。

「音楽少女でしょ」
「少女ってのはあまりいないだろうけど、少年よりは少女に近いわな。なんたって性別は女だもんな」
「リーダーも失礼ですよね。俺たちのファンはおばさんだって言いたいの?」
「言ってねえだろ」

 思ってるだけ? と真次郎に向かって呟いてから、幸生はなにもない空間に向かって語った。

「なんだって生誕200年かっていうとですね、我々フォレストシンガーズ、及び我々の周囲を取り巻く人々を描いたショートストーリィが、このたび200話になったんです。それにちなんで200に関連したタイトルにしたいと、こういうのが好きなうちのママが考えたんですよね。うちのママってのは、このブログに小説を書いているおばさんです。章をいぢめるだけでは飽き足らず、近頃はシゲさんをも虐待しているというニンピ……あ、この単語、差別的なのかな。章、続きを言って」

 なんで俺が、とぼやきながらも章も言った。

「そのニンビニ……おばさんも、文学少女のなれの果てなんだよね。文学少女ってほどには文学に造詣は深くないけど、幸生や俺よりは知ってるから、シャーロット・ブロンテってのはふさわしいかな。俺はそんな、俺よりも百五十歳以上も年上のおばさん……ってか、骸骨か? そんなのに興味ないんだけど、乾さんはあるみたいだもんね。でしょ、乾さん?」

「俺は物語ってものには興味はあるよ。日本の古典が好きだけど、外国の小説も有名なのは読んでる。うん、シャーロット・ブロンテはいいんじゃないかな。いいだろ、リーダー?」

「そういうのは乾にまかせるよ。シゲもいいか?」
 もちろんです、と繁之が応じ、幸生は言った。

「で、生誕200年で取り上げる人物が決まって、俺たちはなにをすればいいの?」
「う、うーん、うん、そうだ。やっぱり歌だよ。乾、ジェーン・エアの歌ってあるのか?」
「演劇や映画で使った曲はあるだろうな。あるだろうけど、俺たちはソングライターでもあるんだから、オリジナルを作ろうぜ」

 おー、賛成、と幸生も章もうなずく。そうと決まってようやく、俺たちにもやることができた、である。それはいいな、と真次郎も張り切っているが、繁之だけは思う。

 オリジナル曲を作るとなると、「ジェイン・エア」を読まなくちゃ。小説を読まずに作詞も作曲もできないだろ。そうすると、即座に作詞作曲にとりかかるわけではないだろう。そうすると、俺も小説を読んで、詞や曲を書くみんなの応援だったらできる。

 どんな歌ができるのかな、楽しみだな、と、はなから自分は作詞作曲に参加する意思もない、というよりも不可能な繁之は、無責任にもわくわくしていたのであった。

END

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆

フォレストシンガーズショートストーリィも、200話とあいなりました。
これからもFSをよろしく、お引き立てのほど御願い奉り候。
で、ござる。

ちゃんちゃん。









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~ Comment ~

NoTitle

お~~、200話なんですね。
おめでとうございます!!!
(´▽`*)

特にお祝いの言葉以外が用意できていないですが。。。
そこまで続くのも努力の賜物ですね。
素晴らしいことだと思います。
これからも読ませていただきます。

NoTitle

なんと200話。すごい長編になりましたね。
でもまだまだ終わりは無さそう^^
200回と200年を掛けたのですね。
200年前は明治維新なのかあ~。あの時代って本当に躍動感ありますよね。後世に名を遺した人たちがたくさん。
もう一度この時代を勉強し直したい。
(漫画日本史読みたいw)
今の政治家さんたちがこんな感じで後世に名を残すとは考えられないですね。
やはりあの時代、命がけだったからこそのロマンがあるんだろうな~。
FSシリーズ、こういう雑談も面白いんですよね。
この後も頑張ってください^^

LandMさんへ

お祝いをありがとうございます。

継続は力なり。
私にはそれ以外にはなにもありませんので、それだけを支えにがんばろうと思います。
とか言って、好きでやってるのでちっともがんばっていないのですけど、またこれからもどんどん遊びにいらして下さいね。

limeさんへ

いつもありがとうございます。
ショートストーリィも200話となりますと、全部どこかでつながっていますから、たしかに長編ですよね。

少女漫画タッチの歴史漫画ってのもありますでしょ?
前にああいうの、ちょっと読みました。

私は最初に坂本龍馬の妻が主役の時代小説を読み、そこから幕末にはまったのですけど、この時代は本当に後世に名を残した人がたくさんいて、私にとっては戦国よりも幕末のほうがずーっと面白いです。

厳密には「幕末」は黒船来航の1853年から明治維新までみたいですから、来年で明治維新150年ですね。
そういうのも書いてみたいなぁ。

雑談が面白いと言っていただけて嬉しいです。
雑談ならまかしといて!! と幸生も言っております。(^o^)

NoTitle

200話!すごい!おめでとうございますヽ(=´▽`=)ノ
シゲちゃん歴史好きだったんですね。なんか似合いそう(笑)
生まれた年代がすぐ出てくるなんてすごい!私は世界史選択してたんですが何にも覚えてない(
そして、あかねさんに虐待されてたとは(笑)シゲちゃん頑張れ(笑)

海外文学とか知らない単語とか、あかねさんのお話読んでたら勉強になります(@_@)(ってかちゃんと勉強とけって話だ(-_-;)
(ニンビニってどういう意味ですか?調べたらコンビニが出てきてしまうんですが……)

これからも楽しいお話いっぱい書いてくださいね♪
またシゲちゃんのお話読みたいな。ユキちゃんも読みたい!
またあさりにこよう( ̄ー ̄)ニヤリ

たおるさんへ

コメントとお祝いをありがとうございます。
ショートストーリィは前に書いた長めのものからセルフパクリしたりしてるんですけど、数だけはたくさんになりました。

えー、シゲは歴史好きではありますが、スマホで調べて、西郷さんは何年生まれとか言ってます。
私の場合は坂本龍馬と土方歳三の生年、1835年と、明治維新の年だけは覚えていますので、そこからだいたい逆算して、って感じですね。

たおるさんは世界史専攻なのですね。世界となると範囲が広すぎて……私は日本と中国(これまた巨大すぎてつかめませんが)の歴史が好きです。
シゲも歴史好き、城好き。おおお、偶然おなじ趣味!! 
え?

「シゲさんおばさんに虐待されてるよね」
「そぉかぁ? されてないだろ」
と本人は言ってますので、そうです、虐待なんかしてませんよぉ。

「にんぴにん」とひらがなで検索すると、意味は出てきます。
今、漢字で書いてお返事コメントしようとしたら、不正になりました。やはり投稿禁止用語みたいですね。「ひ」にまるの「ぴ」です。ぴ。PI。
び、とぴ、の区別、つきにくいですよねぇ。

シゲの話もユキの話もいっぱいありますし、これからも書きますので、またどんどん遊びにいらして下さいね~。

NoTitle

わあ、200話、おめでとうございます!
すごーい。何がすごいって、メンバーの設定やら性格やらが全くぶれていないところが本当に凄いです。一貫してのこの量。大作ですよ。ね。

私もあかねさんの描くスピードと量が欲しいところです。
今後も描き続けて行ってくださいね^^

けいさんへ

お祝いのお言葉、ありがとうございます。
ぶれていないと言っていただけるととても嬉しいです。

もう長く書いていますから、みんなお友達というか息子というか、性格は把握しているつもりです。性格だけではなく、ストーリィとしてもっと面白いものが書けたらいいんですけど。

けいさんはじーっくり考えて書かれるほうですよね。
私は思いつき、直感型ですから、執筆姿勢はずいぶんちがうのかなと思います。

これからも書ける限りは書きますので、末永くおつきあいくださいませね。
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