ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS副詞物語「さやさや」

 ←深めの創作者バトン →ガラスの靴62
フォレストシンガーズ

副詞物語

「さやさや」

1・幸生

なんだって? フォレストシンガーズ? なんだ、そりゃ、お笑いグループか。
 世間の反応がそんなふうだった時代から時が流れて、我々もちょっとは成功しつつあるかなぁ、かなぁ。

 そのころには七夕といえば、仕事で行事をやるものだった。いい年した独身男の集団が、プライベートで七夕をやるなんてあり得ないはず。ガキのころだったら家族で短冊を書いて、父が笹につるしてくれたりしたものだが、十代にもなれば遠ざかっていった。

「おにいちゃんとてるみがおとなしくなりますように」
「まさみとてるみがぎゃあぎゃあうるさくなくなりますように」
「にいちゃんとねえちゃんがしずかになりますように」

 あれは小学生のときか、幸生、雅美、輝美の三人きょうだいがそろってそんな願い事を書いたと、親たちは長く笑い話にしていた。

 それからはるかに時がすぎ、お喋り少年はお喋りな大人になった。歌をなりわいとしているのだから、俺はこの口が最大の武器だ。おとなしくなんかなっちまったら歌手になれなかったんだよ、雅美。静かにしてたらラジオがこわれたと思われるよ、輝美。

 妹たちに話しかけたりもしつつ、俺は川原にいる。
 笹の葉が揺れて、今夜は七夕。さやさやと風が吹き、高原は上天気だから、天の川も見えている。俺たち、いつの間にこんなに遠くまで来たんだろ。


2・繁之

 本橋さんと美江子さんの夫婦と、独身三人組の乾さん、幸生、章。それから恭子と俺の夫婦。そしてそして俺たちの息子たち、広大と壮介。

 夏の高原で野外ライヴがおこなわれ、フォレストシンガーズも出演させてもらった。七月六日の夜がライヴだったので、もう一泊しようか。ちょうど七夕だし、空気のいい高原で広大や壮介にも七夕体験をさせてやろうぜ、と言ってくれたのは本橋さんだ。

 恭子も賛成したので、今日は朝からいろんな準備をしていた。大き目の笹の木を持ってきて、短冊もそろえて。天の川も見て、ごちそうも食べて。子どもがいるのだから夕食は早めに切り上げて、そろそろ願い事を書こうか。

「へぇぇ、広大って天才じゃない?」
「天才は言い過ぎでしょうけど、秀才くらいではあるかなって」
「そうだよね。かしこいよ、広大は」

 なんの話をしているのかは知らないが、恭子のは親ばかだとしても、美江子さんが褒めてくれると親父としてはたいそう嬉しい。
 
「好きなことにはのめり込むタチみたいですね」
「だから、好きなことを書いてある本だったら読めるんだね」
「そうみたいですよ」

 息子の話をしている恭子も嬉しそうだ。美江子さんにとっては広大も壮介も甥に近い存在だと思ってくれているようで、義理で相槌を打ってくれているのではないと思える。
 あっちでは乾さんが壮介を抱き上げて、笹の葉を見せてやってくれている。恭子はひとりっ子、俺には独身の姉がひとりだけしかいなくて、いとこもいない息子たちだが、おじさんとおばさんは何人もいて幸せだ。


3・真次郎

 けっこう重たい笹の木を持ち上げていると、乾が壮介を抱き上げて笹と同じくらいの高さにした。
 幸生と章は広大の相手をしていて、美江子はシゲや恭子さんと話している。ふたりの子どもたちを中心に、今夜は七夕パーティである。

 息子かぁ、いいなぁ、俺にはシゲがうらやましい気持ちはおおいにある。美江子と結婚してから、俺たちには子どもができないのだから。
 けれど、不妊治療だとかいう処置をするつもりはないと、夫婦の意志は一致していた。

 美江子は家事育児に専念したい女ではない。
 俺は職業柄、家事や育児に協力できないことのほうが多い。
 なのだから、子どもはいなくてもいい。それでもやはり、子どもを持つ夫婦はうらやましい。美江子も納得はしているのだが、うらやましそうに見えなくもない。

 子どもがほしい気持ちはなくもないが、フォレストシンガーズのリーダーとしての毎日も、美江子とふたりだけのプライベートな生活も充実しているのだから、それはそれでいい人生だ。

 童心に返って俺も短冊に願いごとを書こうか。壮介にしきりに話しかけている乾隆也が、美江子に負けないほどにいい女と結婚できますように、なんて書いたら、乾はどんな顔をするだろうか。


4・隆也

「笹の葉だよ。さわると手が切れるかもしれないから、そっとね」
「ささ……ほいくえんでね……」
「保育園でも見たか」

 ふっくらした頬、小さな小さな手、俺の腕の中の可愛い重み。子どもってのは他人をも和ませてくれる。壮介はまだ日本語もまともに喋れないので、よけいなのかもしれない。
 俺の場合は我が子よりも先に、その子を産んでくれる女性を探さなくては。焦る必要もないだろうから、本当に愛し愛されるひとを見つけるさ。

「そうだね、喋れないうちのほうが可愛いね。その点、あんたはそのくらいのころからよく喋って、可愛くなかったよ」
「そりゃあさ、ばあちゃんの孫だからな」
「焦る必要はないって、あんた、いくつ? 男だって年を取ると子どもができにくくなるらしいじゃないか」
「子どものためだけに結婚したいんじゃないよ」
「そしたらなんのため?」

 うるさいばあさんを心の奥に閉じ込めて、壮介を肩車する。壮介はきゃあっと悲鳴を上げて俺の首にしがみつく。みんなが壮介を見上げて笑っている。壮介、いいね、と彼のママも笑っている。

 お星さまきらきら、空から見てる。
 歌のまんまの景色が俺を取り巻いていた。


5・章

 さて、広大が短冊に書いた文字は?
 壮介のほうは文字を解するほどの年齢ではないが、恭子さんに言わせると広大は秀才なのだそうだから、きちんと字が書ける。俺もこのくらいの年だったら字くらい書けたよ。五歳で天才だったら二十歳すぎたらただのひとになるんだから、秀才の五歳は大人になったら凡人だろ。

 そうは言わずに、広大が書いた短冊を受け取った。そばにいた幸生がどれどれと覗きこんでくる。俺はその文言を読んで唸った。

「広大ってシゲさんの子じゃなくて、本橋さんの子どもなんじゃないのか?」
「こらこら、聞き捨てならないことを言うもんじゃないんだよ、章ちゃん。ジョークにもなりゃしないだろ」
「ジョークにならないって、そんな疑惑があるのか?」
「いや、疑惑なんかないんだ。影響を受けてるだけだろ」

「いやいや、息子はやっぱり父親に似るもんだよ」
「広大は見た目はシゲさんにそっくりだったじゃん」
「赤ん坊のころはそっくりだったけど、このごろはシゲさんよりはだいぶすっきりしてきただろ」
「うーむ、シゲさんよりはリーダーのほうがむさくるしい度は少ないかな」
「するとすると……」

 ひそひそこそこそやっていると、おまえら、なにを馬鹿なことを言ってるんだ、の声と同時に、頭と頭をごっつんこさせられた。

「いてぇ……」
「なんだかなつかしい痛みだな。昔はよくリーダーにやられたんだ。しかし、今の声は……」
「乾さん、あなたも本橋さんの影響を受けて粗暴に……」
「なんだって? 広大はなにを書いたって?」

 俺の手から短冊を取り上げて、乾さんが読み上げた。

「ウルトラマンになりたい……なるほど」
「でしょう?」
「馬鹿野郎。なにが疑惑だ」

 宇宙、怪獣、特撮、ヒーローもの、そういうののおたくである我らがリーダーは、我が子がいないものだから広大を自分の好みに染め上げて洗脳しようとしている。それは疑惑ではなく明らかな事実だが、だからって広大が本橋さんの子って……我ながらアホな台詞だった。

 聞いていたのが乾さんだからこれくらいですんだが、本橋さんやシゲさんや美江子さんや恭子さんに聞かれたら……恭子さんに聞かれるのがいちばん怖かったりして。

 さやさやと風の音に吹かれて、笹の葉がさらさらと歌う。幸生と俺がアホなことを言っていようとどうしようと、子どもたちもまじえた七夕の夜はただただ、平和にすぎていく。

END







スポンサーサイト



【深めの創作者バトン】へ  【ガラスの靴62】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【深めの創作者バトン】へ
  • 【ガラスの靴62】へ