ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS副詞物語「三々五々」

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フォレストシンガーズ

副詞物語

「三々五々」

 降りしきる雪の中、積雪を踏みしめて歩く。金沢の乾と稚内の章は雪には慣れているのだが、章が遅れがちになっていたのは、機嫌が悪いからだろう。

 デビューしてから四度目の冬、俺は二十八歳になり、フォレストシンガーズの中ではもっともつきあいの短い章の気性も体質ほとんどわかるようになった。稚内生まれのくせに寒さに弱く、男のくせに貧血症で、気が弱いくせに強がりで。

 顔がいいせいもあり、意外にそんな男の世話を焼いてやりたい母性本能のせいもあるようで、章は女にもてる。本橋くんって頼りになるわ、真次郎は男っぼくて好きよ、と言ってもらえる俺とは正反対の意味で、章みたいな男がタイプだという女もけっこういるものらしい。

 それでも、とにもかくにも五人で、スキー場にあるホテルにやってきた。本日の宿泊客メインは、都会の私立中学校の修学旅行生だ。

「贅沢な学校なんですよね」
「このホテル、グレードが高いですものね。僕らの中学の修学旅行なんて、極力安くあげようと必死って感じの旅館でしたよ」
「うちは安くはないですけど、榎園中学校の修学旅行ったらね……」

 幸生は子どもにもてる、章は若い女にもてる、シゲは老人受けがいい。俺は……まあ、若い女にもてるほうだと思うが、乾はあらゆる年代の女にもてる。少年少女にももてる。小広間程度の部屋をあてがってもらって荷物を整理していると、仲居さんが乾に話しかけてきた。

「信州スキー旅行は全体の半分以下の生徒さんで、半分以上はシンガポールに行ったんですって。自分たちの希望で好きなほうを選べるらしいんですよ」
「そうなんですね」
「ブルジョアなのよねぇ。親はお金持ちなんでしょうね。ひがんでるのかもしれないけど、旅館の仲居なんて、って見下げられてる気がするわ」
「相手は子どもなんですから、大人を見下げるような言動を取ったら叱ってやればいいんですよ」
「お客さまを叱ったりしたら、私が上の者に叱られますよ」

 ブルジョアだかなんだか知らないが、働く者を見下げるようなガキは親や教師の教育が悪いのだ。

仲居さんの進言のせいもあって先入観を持ちつつ、風呂場に行く。修学旅行生たちのリクレーションの時間は夕食後だそうで、我々が歌ったりみんなで歌ったりするのだそうだ。老人会の旅行も戸惑うが、中学生って……なるようになるか。

「中学生は入浴はすんだんだよな」
「他のお客はいないらしいから、俺たちで独占できますね」
「章はいるか?」
「いますよぉ」
「寝るなよ、溺れるぞ」

 などと言い合って、湯の中で手足を伸ばす。寒い中を歩いてきたのだから身体が冷え切っていて、あたたかな湯は極楽極楽であった。

「熱燗がほしいよな」
「本橋、仕事前に酒は駄目だぞ」
「わかってるよ。言ってみただけだろ。な、シゲ、あとで熱燗をやろう」
「ええ、楽しみにしてますよ」
「俺はビールのほうがいいなぁ」
「俺はコーラがいいよ」

 ワインクーラーなんかもいいよな、と乾も言い、酒の話をしていると、窓の外に黒い頭が見えた。

「女の子が覗いてる……」
「ええ? 覗き女? 中学生か?」

 いつだったか、温泉場で仕事をしたときに、あの日は同行していたマネージャーの山田美江子の入浴を覗いた奴がいた。とらえてみれば女の子だったのだが、今回もそうなのか? 最近の女の子の間では風呂場覗きが流行っているのだろうか。

「女の子じゃないよぉ……」
「女湯は覗けないみたいだけど、男湯はいいんだって」
「いいよな。おっさんが風呂入ってるの覗いたって、面白くもないもんな」
 
 ひょこひょこっと出てきたのは、少年が三人だった。

「なんだよ、修学旅行の生徒たち? きみらが俺たちを覗いてたの? 俺たちはおっさんじゃなくて二十代なんだけど、それでも覗いても楽しくないだろ? 楽しくないのになにやってんの?」

 尋ねた幸生に、だって、暇だもん、と答えが返ってくる。夕食前の自由時間はたしかに暇だろう。ホテルの中を散歩していたら男たちの声が聞こえてきたのだと、少年たちは言う。ホテルとは名ばかりの温泉宿だから、建物のつくりはほぼ和風だ。

「フォレストシンガーズっておじさんたち……お兄さんたちなんだよね。テレビに出てる?」
「そんなところにいたら寒いだろ、よかったら入ってこいよ」

 誘ったのは乾で、少年たちは風呂場のドアのほうに回ってきた。
 彼らの入浴時間はすぎているので、裸になってはいけないのだと堅いことを言って、少年たちは着衣のままで扉の外にいた。

「テレビには出たことはなくもないけど、特にどの番組ってこともないな」
「だよね、見たことないもんな」
「どんな歌を歌うの?」

 フォレストシンガーズは大人の男のラヴソングを歌うというのが路線だが、今夜は中学生が相手なのだから、真面目な合唱曲を披露する予定になっていた。

「そんならさ、オリジナルを歌ってよ」
「俺らにはまだ早いとか言うけど、俺、十五だよ。初体験だってすませたよ」
「え? ほんと? いつ? 誰と?」

 初体験を済ませたと言った少年に、あとのふたりが食いつく。済みの少年はえへへと笑って、内緒などと言っている。近頃のガキは早いな、と俺が単純にも思っていると、乾が言った。

「この年頃は見栄を張りたがる傾向もあるんだよな。いやいや、きみが嘘を言ってるとは言わないよ。中学生がそんなことをしてはいけない、とも頭ごなしには言う気はない。ただし……章、言え」
「へ? 俺? 避妊だけは怠るなって?」
「その通り」

 よく章が乾に言われていることだ。シゲはともかく……とちょっと失礼なことを考えつつ、いやいや、幸生も俺も気をつけなくちゃ、と俺自身にも言い聞かせていると、済みの少年が言った。

「そういう反応するんだ。芸能人ってやっぱ自分も遊んでるから?」
「きみのその経験は遊びなのか?」
「え……えと……乾さん……そんな怖い顔……ええっと……わかんないよ」

 済み少年はたじたじし、なぜか章までうなだれている。なぜか、ではなく、遊び経験がもっとも多い……否、その経験をもっとも我々に知られているからこそ、章はうなだれているのだろう。しかし、シゲはともかく、幸生だって俺だってその経験は少なくはないのである。

「遊びで女の子とどうこうなんて、かっこいいことではないんだよ」
「ん、えと、はい」

 えらくしおらしくなった済み少年がうなずき、あとのふたりもこっくりした。まったく乾って奴は教師体質だが、本物の教師は建前でしかものが言えないのかもしれないから、女の子とどうこう、なんて助言はできないのかもしれない。

「というようなこともね、俺たちはオリジナルでは歌ってるんだよ」
「そうそう、きみたちもCD買ってね」

 ちゃっかり幸生も言い、よろしくな、と俺も言った。

 風呂から上がって軽く食事をする。満腹すると歌いにくいし、あとで酒も飲みたいから今は軽くだ。シゲは俺以上だろうが、俺としても食事はまるで物足りなかった。

「みなさん、よろしくお願いします」
「はい、行きます」

 支配人だと聞いていた中年男性の合図で、俺たちはスタンバイする。

 大広間を覗くと、三々五々集まってきた中学生たちが、座布団にすわったところだった。彼らの前には日本茶と和菓子も置かれている。デザートなのだろうか。あの三人組は……と見てみると、あっちにひとり、こっちにひとり、むこうにもひとり、ちゃんといた。

「さて、行くぞ」
「おーっ!!」

 掛け声をかけた俺に、幸生が黄色い声で応える。章がうなずき、乾は親指を立てる。シゲも言った。さあ、張り切っていきましょう!!

 
END








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