ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS副詞物語「まっぴら」

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フォレストシンガーズ

副詞シリーズ

「まっぴら」

 アメリカ人なのに、マイケル・ジャクソンは英語が下手だ。歌がうまいのは当然だが、なんだ、この発音は? これだったら俺のほうが上手だぜ。

「章ちゃーん、朝ごはんができたわよ。章ちゃん、起きて、起きてってば」
「……マイケル・ジャクソンが……」
「マイケルがどうかした?」
「あれ、おまえだったのか、幸生っ!!」

 覚醒したら目の前に三沢幸生の顔があり、俺は悟った。俺以上に下手な発音の英語でマイケル・ジャクソンが歌っていると、半分は寝ていて考えたのは、幸生の物まねだったのだ。幸生だったらマイケル・ジャクソンそっくりに歌える。ただし、英語の発音は除いて。

「当たり前だよな。マイケル・ジャクソンが英語が下手なわけねえじゃん」
「マイケルは英語は上手だろ。章、なに言ってんだよ」
「いいんだよ。メシができたって?」

 自画自賛が得意なこのお調子者に、たとえ夢の中にいたといえ、本物のマイケルが下手くそな英語で歌ってるのかと思った、とは絶対に言わない。下手な英語の部分は聞き流し、俺の歌ってそんなに最高? と喜ぶ奴なのだから。

 こいつともつきあいが長くなってきて、性格もほぼ把握している。とはいえ、他人のすべてが他人にわかるわけもないので、時として、え? 幸生がこんなことを……と意外に思う言動もあるのだが、そんなのはほんのぽっちりだ。

 稚内から上京してきて大学生になったときに、親が借りてくれたアパートに俺はそのまま住んでいる。大学は一年で中退し、ロックバンドでプロになる予定が崩れ、幸生と再会してフォレストシンガーズに引っ張り込まれ、不本意ながらもロックではない音楽でプロになり。

 とにもかくにもプロのミュージシャンにはなれたのだが、親父は大学を中退した俺を許していない。勘当? ああ、上等だよっ!! ではあるのだが、この部屋を出ていけないのが俺の弱いところなのだ。

 金がないから、引っ越しは面倒だから、さまざまな理由をつけてなじんだ部屋で暮らしている。プロのシンガーズになったって貧乏なのは変わっていないのだから、ゴージャスなマンションになんか移れない。俺にはこの部屋が似合いだ。

 この部屋にいるから、母は安心しているかもしれない。母は時々、小包を送ってくる。手編みの手袋……手編みのセーター、この間なんか出汁昆布を送ってこられて困った。俺が出汁を取る料理なんかするわけもないのに。

「ああ、だったら鍋をしようぜ。俺んち持ってこいよ」

 提案してもらったので乾さんちに昆布を持っていって、鍋の出汁にした。残りは乾さんがもらってくれて、昆布の佃煮などに化けた。

 母親ってのは愚かだよな、なんて侘しい吐息をつきながら、幸生が作った朝飯を食う。幸生は俺よりははるかにマメで、睡眠時間が少なくていい体質らしいから、俺の部屋に泊まると朝飯を作ったりする。乾さんほど料理はうまくないので、幸生の作ったメシなんぞ嬉しくもないが。

「うまい?」
「うまいわけないだろ」
「章ちゃん、朝からご機嫌よくないね。悪い夢でも見たのか」

 図星かもしれない。

 食パンにスライスチーズとハムをはさんだサンドイッチと、インスタントコーヒー。幸生が作ったのは洋風もどきだが、母の朝食は父の好みに合わせてたいていは和食だった。

 二十数年も生きているのだから、母の朝メシしか食ったことがないわけじゃない。ここに泊まった女の子が、いろんな料理を作ってくれた。家事は大嫌いだったスーだって……スーのことなんか思い出すな。いつまでこだわってるんだよ。

「女の作った朝飯ってのはよく食ったけどさ」
「章はもてるもんな」
「おまえだって女に朝飯作ってもらったことはあるだろ」
「母ちゃんとか妹とか?」

 とぼけたいのだったらとぼけさせておこう。

「男が作ったメシってのは、乾さんかおまえのぐらいだな。うちの親父は料理なんかできなかったもんな」
「俺もひとり暮らしになって、やむにやまれず作るようになったんだよ」

 会話までが侘しくて、貧乏神に取りつかれそうな気分になる。なのに幸生は楽しそうに言った。

「いいじゃん。彼女ができなくったって、これからも俺が朝メシ作ってやるからさ。夕飯だって作ってやってもいいよ。章ちゃん、今夜はなにが食べたい?」

 けけけっ、と幸生の奇態な笑い声。まっぴらだっ!! いらねぇよっ!! と怒鳴るのも馬鹿馬鹿しいので、俺はそっぽを向いた。

akira/25歳/END










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~ Comment ~

NoTitle

なかなか親との兼ね合いって難しいですよね。
勘当とはいうものの、そこから生まれる弊害は結構お互いに大きかったりしますからね。
親は親で老後の心配をしないといけないし。
子は子で生活の心配をしないといけない。
それでも生きていくのがそれぞれの親子なんでしょうけど。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

LandMさんは長男でいらっしゃるのかな?
やはり長男って責任を感じるのかな。
山崎まさよしの歌に「僕は長男」ってのがありますね。

章のお父さんは時代遅れの頑固者ですが、老後についてはどう思ってるのかなぁ。
わしは章になんぞ頼らん!!
とか言って、妻に頼っていたりするんですけどね。

NoTitle

照れないで、毎日ユキちゃんに朝食作ってもらえばいいのに~章(笑)

マイケルは本当に英語が下手なのかと思っちゃった(笑)
日本人からしたら、英語の上手い下手ってわかりませんもんね。
でもネイティブで下手は、ありえないかあ。

しかし、日本の私の好きなロックバンドのボーカルは、みんな本当に英語の発音がきれい。そう聞こえるだけなのでしょうか。
ネイティブの英語より好き!(きっと耳障りがいいんでしょうね。)
私は英語の発音が下手で、すごく情けない。舌ったらずなのでしょうね。
ああ、綺麗な発音、勉強したい。

limeさんへ

いつもコメントありがとうございます。

そっか~章、照れてるんですね?
あはは(^o^)

日本人にも日本語の変なひと、いますから、英語国民で発音が変なひともいるんでしょうかね?
欧米人にも音痴はいるそうですが。

日本人で英語の歌をうたうひとは、やはりベテランのほうが発音がいいような気がします。
ボーディズは全員、留学経験者だそうですが、アメリカ人のとある人に言わせると、使用人の英語なんだそうで、ちょっと意味不明ですよね。

先日、イギリス人夫婦と淡路島に行ったり、買い物に行ったりしました。
私は発音以前の問題で、えーっと、猿にさわったらいけないらしい……えーっと、ノータッチモンキー!! とか言って、わかってはもらえましたが、ドントタッチモンキーだったな、とあとで反省しました。

私の無茶苦茶英語の発音は、完全に大阪弁です。
ふにゃー。

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