ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS副詞物語「おのずから」

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フォレストシンガーズ

副詞シリーズ

「おのずから」


 翻って考えるに、俺はどうなのだろう。
 
 職業を問われれば歌手ですと答える。たいして売れてはいないが、フォレストシンガーズの乾隆也はシンガーと名乗ってもさしつかえない立場だ。歌手であると同時にソングライターでもある。俺の書いた詞や曲がフォレストシンガーズの持ち歌になってCD化されているのだから、シンガーソングライターであるのもまちがいではない。

「やっぱりみずきさんは俺たちのこと、小説やシナリオの題材として見る面もあるんですよね」
「多少はありますよ」

 このたび、みずき霧笛氏がラジオ局に応募したラジオドラマが大賞を受賞した。その局には我々の大学合唱部の先輩である沢田愛理さんが勤務していて、彼女が提案したのだそうだ。

「この水晶の月ってドラマは、大学生たちの群像劇ですよね。大学の寮に集まった一年生たちが、いがみ合ったりしながらも音楽を通して結束を固めていく。ちょっと頼りないけど彼らを支える寮長や先輩もいる。私の大学の後輩で、フォレストシンガーズって歌のグループがいるんですよ。私はこのドラマのシナリオを読ませてもらって、彼らを想い出しました。どうでしょう? フォレストシンガーズに声の出演を依頼するのは?」

 沢田さんの提案が検討され、我々及びもうひとりの先輩、金子将一氏が声優としてのキャストと決まった。
 本職の声優さんも出演するのだが、金子さんもフォレストシンガーズも本格的に声優をやるなんて初体験で戸惑った。その上に。

 当初は別の名前だった登場人物たちが、本橋真次郎だの金子将一だの木村章だの乾隆也だの、沢田愛理だのなんだのと、実名に変更されたのだ。
 名前はそのまんま、ただし、性格がまるっきり異なる。そんなキャラクターを演じるのは至難の業ではあったが、すこぶる楽しくもあった。役者志向の強い幸生などはおおいに楽しんでいた。

 そんな縁で知り合ったみずき霧笛氏は、中年男性である。
 シナリオライター志望ではあったのだが、それだけでは生計を立てていけない。既婚でもあることから、親の代からの靴屋さんを兼ねていた。このたび、ラジオドラマ大賞受賞をきっかけにシナリオと小説で一本立ちできるようになって靴屋さんは廃業したらしい。

 もとよりラジオドラマはさほどに聴取率が望めるものでもなく、フォレストシンガーズ自体も人気があるほうではないのだが、脚本がよかったのだろう。我々がラジオでDJをやらせてもらっているのもあって、ラジオ業界ではちょっとだけ名が売れてきたかな。

 それよりもなによりも、みずきさんには実力がある。実力があるにも関わらず、運やプラスアルファが足りなくて世の中に認められていない人材。みずきさんはそのひとりだった。
 今夜はみずきさんとふたり、世間話などしながら飲んでいる。俺がふと思いついて発言すると、みずきさんにも問い返された。

「乾さんは?」
「俺ですか」
「乾さんは歌を作るでしょ。私を題材にしてもしようがないでしょうけど、こうして向き合っていたり、親しくなったりした人物を観察して、歌詞や曲に取り入れたりしないんですか」
「ああ、そうか。俺のやっていることも、みずきさんとは形こそちがえ、創作ではあるんですよね」

 すると? と感じたのを察したように、みずきさんが言った。

「妻にも言われますよ。彼女をじっと見ていたりすると、私をモデルにしてなにか書こうと考えてない? いやだからね、なんて」
「書くんですか」
「あからさまには書きませんが」
「参考にする、と」
「それはありますね」
「で、乾さんは?」

 彼女はいるんですよね、乾さんのコイバナ、聞きたいですなぁ、冗談まじりにみずきさんに言われたことはある。フォレストシンガーズの仲間たちにも紹介していない彼女について、人をそんな視線で見るのも仕事のうちみたいな男には話したくないが。

 そういえば、菜月が言っていた。

 勝手に引き出しを探って俺の若書きの詩を見つけ出し、私の手は大きいのに、小さな手だなんて書いてる、これって誰のこと? などと尋ねたがった。
 ベットで菜月を抱いているときには、その感覚がメロディになって浮かぶこともある。詩はダイレクトに言葉で訴えるのだが、曲だったらどうなのだろう。菜月とのベッドシーンを曲にすれば、みづきさんあたりだと鋭敏だからぴんと来るのだろうか。うちの仲間たちは?

「お、これって……おー、エロいですね」
「エロ? んん? そういう曲か? そう言われれば……」
「言われてみればそうかも……そうなんですね」
「乾さん、お相手はどなた?」

 真っ先に章が感づき、鈍感本橋も鈍感シゲも、言われてみれば、と気づき、幸生は突っ込んだ質問をしたがるような気がする。俺たちはミュージシャンなのだから、詞でも曲でも伝わる気がする。ミュージシャンではないひとは? みずきさんに菜月とのベッドシーンを題材にした曲を聴いてもらったらどう受け取るのか、関心はあった。

「だけど、聴いてくれるファンのひとだって……詩にしても曲にしても、作り出して世に問えば、あとは聞き手の感覚にゆだねるものだと言いますよね」
「小説も同じですよ。脚本だともう一段階、二段階手が加わりますから、またちがってくるんですけどね」
「歌もそうですね。編曲もしますし、歌い手によっても変わりますし」
「乾さん、うまくごまかしましたね」
「は……」

 ばれていたか、ってなものだ。
 
 形があるようでないような、詞や曲や物語、そういったものを創る人間は、対人間であればおのずから彼や彼女の内面を探っている。幸生だったら小鳥や猫までも探っていそうに思える。
 そんな者同士、腹の探り合いなんかもしながらも、創作話を肴に酒を飲む。このひとときもメロディや、あるいは物語にできそうな、そんなひととき。

TAKAYA/28歳/END








 
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~ Comment ~

NoTitle

確かに職業は大事ですけど。
それがすべてはないですよね。
私も職業だけがすべてじゃないですけど、
それが私の一部であることは否定できない。。。

普通のサラリーマンはともかく。
歌手とかは自分の一部になるようなものですからね。
芸能人のも大変ですよね。自分も売らないといけないですから。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
職業が大事、そんなふうに読めました?

まぁ、主人公は歌が命の男性ですし、かたわれも作家ですし、歌えなくなったら、歌が書けなくなったら、創作できなくなったら生きている甲斐がないと言いそうな男性ですね。
私もその傾向ありますから、書くものにもあらわれるのかもしれません。

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