キャラクターしりとり小説

キャラしりとり16「お裾分け」

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キャラクターしりとり

16「お裾分け」

 勝ち組、負け組という言葉がある。女子大生の勝ち組といえば、学生時代に前途有望な男の子を確保して、彼と婚約に近いところまで行っておくこと。菜々美もそのつもりだったのだが。

「あいつ、したたかなのか気が弱いのかわからないな」
「あいつって愛斗のこと?」
「そう。自分では言えないから俺から菜々美ちゃんに話してって」
「なんの話?」

 いやな胸騒ぎがした。

 高校時代にだって濃厚な恋愛をしている友人はいたが、菜々美と愛斗は可愛い関係だった。仲間たち公認のカップルではあったから、グループの中でも特別扱い。それでも他の友人たちも含めてわいわい楽しくやっていて、彼氏ではない男友達も菜々美には何人もいた。

 そのうちのひとりである尚瑠輝が、気の毒そうでいて面白そうにも見えなくもない表情で言い出したのは、ふたりともに大学四年生のときだ。尚瑠輝は医学部なので卒業まではまだ間があり、順調にいけば医師免許を取って親の医院で働くことになる。就活途中の菜々美や愛斗よりも、ある意味呑気な境遇だった。

 同じ高校を卒業しているものの、菜々美も愛斗も尚瑠輝ほどには成績優秀ではなかったので、ハナっから医学部などは受験しなかった。大学院に進むほどの気力も財力もないのだから、就活以外の道はないのである。

「ナル、愛斗がまた就職試験にすべったの?」
「それはもう諦めたみたいだ」
「就職試験を諦めてどうすんだよ」
「婚活に切り替えたみたいだよ」
「こんかつ?」

 一瞬、コンカツという漢字が頭に浮かばなかった。

「コンカツって……アラサーになったおばさんとか、アラフォーのおじさんとかが結婚したくて焦ってするあれ? なんで二十二歳の愛斗が婚活すんの? 私がいるんだから結婚したいんだったら私にプロポーズすりゃいいじゃん? あ、でも、駄目だ。愛斗が就職できないんだったら結婚もできないよ」
「菜々美は就職は決まったんだっけ?」
「私もまだ。げぇ、フリーター夫婦なんかやだよ。別れなくちゃなんないのかな」
「別れるしかないだろうね」

 なんだってこの男はこんなに楽しそうにしているのかと質問しようかと思っていたら、医者の息子、生まれ落ちたときから恵まれているナルキは言った。

「婚活ってか、結婚相談所に登録したとか、合コンに出てたとかいうんじゃないんだけど、年上の女医に取り入っていたのも婚活の一種だろ。見事成功して、愛斗は十五歳年上の土渕好美医師のお婿になるんだよ」
「そんな話、聞いてないぞ」
「だから今、俺が言ってんじゃん。けどさ、いくらなんでも彼女だった菜々美に俺から言うだけじゃ駄目だよね。いきなり本人から聞いたらショックが大きいだろうから、とりあえず俺はこれだけ喋っておく。そのうちには愛斗もなにかしらリアクションしてくるだろ。最後に寝てやってくれるかな」
「……あ、あんたにそんな……」
「ある意味、うまくやったんだけど、反面は愛斗はかわいそうだよね」

 この楽しげな様子は優越感なのか、ナルキは続けた。

「菜々美はまあ、なんたって若くて可愛い。スリムだし胸もけっこう大きいし、ルックスはいいセン行ってるよ。そんな菜々美とエッチしてたあいつが、あのおばさん専属になるんだもんな。そういう意味ではかわいそうだよ」

 くちびるがわなわなしてきて、菜々美はまともに声が出なくなっていた。

「俺も菜々美は嫌いじゃないんだけど、だからって愛斗のお古なんかいらないよ。ま、抱いてなぐさめてやるくらいだったらいいけど、俺も立場上、医者としか結婚しちゃいけないって親に命令されてるんだ。俺は土渕医師みたいなおばさんじゃなくて、若くてそこそこ可愛い女医をつかまえるつもりだけどね。だから、菜々美、俺に乗り換えようなんて思うなよ」
「だ、誰が……」
「誰があんたなんかと、か? うんうん、よろしい」

 余裕で微笑んだナルキは、元気出せよ、と囁いて片手で菜々美を抱きしめ、頬にキスをし、ついでみたいに片手で胸に触れた。ひっぱたいてやろうとしたときにはすでに遅く、ナルキは菜々美を軽くつきのけて歩き出していた。

 悔しくて悔しくて泣く気にもなれなかったあの夜。意地になって愛斗にはメールも電話もしなかったから、次に彼から連絡があったのは卒業式の朝だった。

「ナルから聞いたんだろ」
「……聞いたよ。おめでとう」
「ありがとう。あとでゆっくり話そう。いつもの店で待ってて」

 メールで別れを告げられるよりは、直接言うほうが誠実なのかもしれない。今さら誠実でもどうでもいいのだが、菜々美はうなずいた。

 いつもの店とは、高校時代から常連になっていたカフェだ。大学生になると当時の仲間たちはあまり行かなくなったので、菜々美と愛斗の居場所のようになっていた。はじめてキスをしたのはこの店の外。はじめてホテルに行ったのも、この店で少しお酒を飲んだ帰り道だった。

「ナナは就職、決まった?」
「内定はもらったんだけど、あんな会社で働きたくない。だから、派遣会社に登録することにしたんだ。そこだったら派遣とはいえ、有名な会社で働けるんだよ。四月一日からM化粧品の営業部に配属されるの」
「それはよかったね」
「愛斗にそんな話、いっぱいしたかったのに……」
「うん、今夜は聞くよ」

 恨み言を口にすると涙があふれそうで、菜々美はくちびるを噛んだ。

「愛斗は就職しないの?」
「しない。専業主夫になるんだ」
「彼女、許してくれるの?」
「彼女が言ったんだもの。僕が就職なんかしたくないって言ったら、私と結婚して主夫になったらいいって」
「そっか。彼女にプロポーズされたんだ」
「当たり前だろ」

 三十七歳のおばさんに愛斗がプロポーズしたのだったら衝撃的すぎるから、まだしも逆でよかった。

「僕が卒業したら一緒に暮らして、同居と同時に籍を入れる予定なんだ。結婚式と新婚旅行は彼女の仕事のスケジュールに合せなくちゃね。来年になりそうだから、彼女の時間があるときに式場を見にいったり、旅行会社に行ったりするつもり。僕はもう暇だから、ネットでいろいろ検索してるんだよ」
「そっか」

 そんな段階にいるのに、菜々美がなにを言っても無駄だ。けれど、このまま黙って引き下がりたくない気分になってきた。

「彼女、私のことは知ってるの?」
「菜々美の話はしたことあるよ。写真を見せたりもしたな。ちゃんと別れなさいよって言われたんだけど、ナナには言いにくくてさ……ナルに頼んじゃった。怒ってる?」
「怒ってるというよりも、虚しいな」
「そうだねぇ」

 いいもん、私は大企業で働くんだから、これからエリートをつかまえるもん、と言ってやろうとしていたら、愛斗が先に口を開いた。

「菜々美、行こう」
「どこに行くの?」
「僕は主夫になるんだから暇はいっぱいある。奥さまは仕事が忙しいから僕をほったらかしにして、その分、小遣いはたっぷりくれるんだよ。今のところは僕は料理教室に通ったり、結婚式や新婚旅行について調べたりするしか用事もないんだ。だけど、お金はある」
「なにが言いたいんだよ」
「行こうよ、今夜は前と同じにできるんだ」

 行こうって、ホテル? 馬鹿にするな!! と怒って席を立つべきだったのに、菜々美はうなずいてしまった。

「昔はいつだって割り勘だったよね。ホテルも割り勘だって言ってナルに笑われたりもしたけど、これからはお金は僕が出すから」
「罪滅ぼしのつもりかよ?」
「っていうより、僕だけ金持ちになるんだから、お裾分け?」

 主婦が浮気をしても夫にはばれないかもしれないが、女の勘は鋭いのだから、主夫が浮気をすれば妻にはすぐにばれるはずだ。菜々美は暗い期待をする。さっさと好美おばさんに露見して、入籍前に捨てられてしまえ。そうなっても私は絶対にあんたなんか拾ってやらないからね。

 そんな期待で愛斗の誘いに乗る。私はまだ愛斗が好き? 好きなのかどうかなんてわからない。私が愛斗といずれは結婚したかったのも、打算だって入っていた。私が愛斗とこれからしようとしていることは……深く重く考えなくてもいいじゃない。なんだっていいんだよ。

 冷静に分析しようとするとわけがわからなくなるので、菜々美は敢えて、軽く軽く考えようとしていた。

かなり久しぶりの「キャラクターしりとり」です。
次はこの医者の息子、ナルキが主人公になります。














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~ Comment ~

NoTitle

ちょwww
三人ともwwww

とりあえずナルキくん性格悪いw
そして愛斗くんもなに考えてんだwww22で早まるなwwwそれでいいのかwww
んでもって菜々美ちゃんもちょっと待てwww
いや、私も就活のときはもう人生終わったと思ってましたけど……。
橋の下にダンボールに包まって寝てるからとか言ってましたけども……。

最近男の人でもこっちが年上だと分かったら「養ってくださいよぉー」とか
餌付けしてくださいよぁー」言ってきてドン引きなんですよ(-_-;)私に母性がないだけかもしれませんが、まったく可愛いと思えない……。
もう若い人はみんなこんな感覚なのかなぁ。おばちゃん時代を感じる(ノД`)
時代に順応しないと結婚出来ないきがしてきましたorz

たおるさんへ

とてもリアリティのあるご感想、ありがとうございます。
私にとってはもっともっと、今どきの若い子の感覚にはついていけませんので、むしろ面白いんですけどね。

そうですかぁ、就活、そんなに大変だったのですね。橋の下に段ボールをねぇ……私たちが若いころって、学校新卒で就職するのは正社員が当然で別の道はあまり考えられなかったのです。
パートは主婦、アルバイトは学生のするものでしたから。

それが今はね……正社員って昔の百倍くらい狭き門みたいですよね。

そのおかげで若い女性は専業主婦願望を抱き、男性も人によると専業主夫になりたがる。気持ちはわかりますが。
裕福な専業主婦が勝ち組なんですよね。私は専業主婦になんか絶対になりたくなかったけどなぁ…………うう。

NoTitle

う~~ん。私の仕事は基本的に足りない専門職なので、
いつでもどこでも働けるので、就活ってやったことがないのですよね。
今までどこの職場でもNOと言われたことはないですからねえ。

結局のところ。
どこまで将来性を持つかの問題なんでしょうけど。
婚活も念入りにするのも大切なのかもしれませんね。
淑女の嗜みとして。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

やはり若い方には就活が大問題みたいで、そちらに意識が向くみたいですね。

先見の明、時代を読む、そういうのも大切かもしれません。
私が昔、やりたいと思っていた仕事なんか、今では人の手でするものではなくなっているようですし。資格、取らなくてよかったかもしれません。

婚活は淑女のたしなみですか。(^o^)
就職するためにがんばるのは昔からですが、結婚するためにがんばる、そんな時代なんですねぇ。
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