ショートストーリィ(しりとり小説)

144「友達だったから」

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しりとり小説144


「友達だったから」

 幼いころにはご近所さんだったから、祐子と春斗と恵麻はいつも三人で遊んでいた。祐子と春斗には血縁関係はなかったのだが、当時は同居していていとこ同士のようなもの。祐子と恵麻は幼稚園から一緒で気が合った。

 ふたつ年下の春斗に、あんたはちっちゃいからできないでしょ、遊んでやらなーい、などと意地悪を言ったこともあり、春斗がべそをかくのを見て女の子ふたりは笑っていたりもした。

「あれはイジメだったのかな」
「イジメってほどでもなくない? 私だって小さいころには、友達に仲間外れにされたよ。春斗も気にしてないみたいだし、子ども同士だったらよくあることよ」
「祐子ちゃんは春斗くんと一緒に暮らしてるの?」
「一緒には暮らしてないけどね」

 結婚して春斗を産んだ彼の母親は、なにかしらの事情があって夫と離婚し、春斗を連れて家を出た。祐子の母も近い時期に夫を亡くし、それならば、ということで子どもたちもまじえて四人で同居していたらしい。幼いころにはそこまでは知らなかったが、中学生くらいになるとわかるようになった。

 夫のいない女友達同士が同居しているのは都合がいいけれど、子どもたちは男の子と女の子、いつまでもこんなふうにしていてはいけないと、母たちが話し合い、祐子が中学生になった年から別々に暮らすようになった。それでも四人は親戚のように、集まって食事をしたりはしていた。

 そのころに恵麻は父親の仕事の関係で引っ越していき、偶然にも祐子と同じ高校に入学して再会した。大学は別だったからしばらくは会うこともなかったのだが、三十五歳になった春、またまた偶然にも再会した。縁があるんだね、と笑い合って、祐子は恵麻と友達関係も復活したつもりになっていた。

わずかに崩れた雰囲気があるが、恵麻は相当な美人だ。子どものころから恵麻は可愛くて、エマちゃん、ユウコちゃん、名前と顔が比例してるね、などと大人たちが言っていたものだった。

「いいなぁ、祐子ちゃんには旦那も子どももいて。私は見ての通りのひとり者だよ」
「ひとりでこんなマンションを買ったんでしょ? 収入がいいんでしょ? 私なんかは子どももまだ小さいのにパートで働かないと食べていけないんだよ。恵麻ちゃんがうらやましいわ」
「お互い、ないものねだりかな」

 再会したばかりのころには表面的な話しかしなかったのだが、徐々に祐子は恵麻と会わずにいた時期の話を聞かされるようになっていった。

「長いことつきあってた彼氏がいたのよ。実は彼が手切れ金がわりに、このマンションを買ってくれたの」
「手切れ金?」
「彼は結婚していたのよ。私はそうと知らずに、彼と結婚するつもりでいたの。妊娠してしまって、っていうか、彼が煮えきらないからできちゃった結婚に持ち込むつもりでたくらんだんだけど、私の妊娠が発覚して、彼が既婚者だってことも発覚したわけ」

 不倫はありがちだが、別れるときにマンションを買わせたというのはよくある話ではないだろう。

「だって、私、だまされてたんだもの。彼はお金は持っていたの。私が三十で、彼は四十五だったかな。そんな年上の男、お金をもってなかったらつきあわないよ」
「そうかもしれないね」

 本当は彼が既婚者だということも薄々は感づいていたのだが、知っていたと言うと立場が不利になる。恵麻はあくまでも被害者面をして、訴えると息巻いたのだそうだ。

「結婚詐欺じゃない、それって? 奥さんも気の弱い女で、私が強気に出たらあやまってきたの。悪いのはみんな夫です。慰謝料を払いますから訴えないでって。彼、社会的地位もあったからね。それでマンションを買わせたのよ」
「へぇぇ」

 凄腕だね、こわっ、とは思ったが、祐子はそこまでは言わなかった。

 途切れ途切れにしかつきあってこなかった旧友だから、幼いときとは性格も変わったのだろう。現在の恵麻は派遣で販売業をしているのだそうで、家賃がいらないから暮らしは苦しくもないけれど、結婚したいなぁ、とぼやいていた。

「旦那さんの友達、紹介してよ」
「うちの旦那ももう四十だから、友達ってみんな結婚してるのよ」

 そう言って逃げるしかない。のらりくらりとかわしつつも友達づきあいをしていたら、恵麻はとんでもないことを言い出した。

「春斗くんは独身なんだよね」
「そうよ。彼女がいたんだけど、最近ふられたらしいわ。春斗も結婚したいらしいけど、母ひとり子ひとりだから、最近の若い女性には敬遠されるみたい」
「そうだよね。うん、私も同居はしたくないけど、立候補してあげよう。春斗くんがここで暮らせばいいんだよ」
「は?」
「会わせてよ、春斗くんに」

 まさかっ!! と叫びたかった。祐子から見れば春斗は実の弟のようなものだ。こんな女が春斗の妻になるなどとは想像もしたくない。

「冗談はやめようね。春斗は私たちより年下よ」
「たったのふたつでしょうが。そんなの年下って言わないの。ねえねえ、私が春斗くんと結婚してあげるから、ケータイの番号かアドレス教えて」
「そんなの、本人に無断で教えられないよ」
「堅いこと言わなくても、まんざら知らない仲でもないんだからさ」

 個人情報が重視される時代に、迂闊にそんなものは教えられない、と今回ものらりくらりと逃げて、祐子は春斗にメールをした。

「前にもちょっと話した恵麻ちゃんが、なんとキミを狙ってるのよ。こうなったら言うけど、恵麻ちゃんはえげつない女になり果ててるんだから、絶対に近づいたらいけないよ」

 などなどと、事細かに恵麻から聞いた事実を書き連ねた、警告メールを送った。春斗からの返事は、俺は年上の女には興味ないね、とのそっけないものだった。

 あんな女とは私もつきあうのはやめるべきか、と祐子も悩んだのだが、子持ちのパート主婦ともなると友達も減って、時には同世代の女同士でお喋りしたくなる。職場での知り合いには言えない話もしたくなる。恵麻とは幼いころの思い出を共有しているのもあり、基本的には話をしていて楽しい相手なのだった。

 しばらくは距離を置いていたものの、誘われると食事くらいはしたくなる。夫が子どもたちを連れて夫の実家に行った夜、祐子は恵麻と食事をした。

「祐子ちゃん、あんなこと言ったけど、ちゃんと春斗くんに話してくれたんだね」
「え? なんのこと?」
「春斗くんが電話してきてくれたのよ」
「……春斗から?」

 メールに恵麻の電話番号を添えて春斗に送ったのは、この番号からもしもかかってきたら着信拒否しなさいよ、との意味だったのに、春斗は本当に恵麻に電話をしたのだろうか。

「デートの約束、しちゃった。うまく行くような予感がするの。私は狙った獲物ははずさないからね。祐子ちゃん、私のお手並みを見ててね」
「……え、ええ」

 やめてっ!! とも言えずに、祐子はくちびるを噛むしかなかった。

 しかし、春斗だって世間知らずの子どもではない。好奇心を起こして恵麻とデートする気になったのかもしれないが、祐子の警告は心に留めているはずだ。実際に恵麻と会ったら結婚するつもりになるはずがない。祐子は自分に言い聞かせていた。

「祐子ちゃん、ひどいな」
「……春斗?」

 なのに、春斗から電話がかかってきた。

「女って怖いね。祐子ちゃんはそんな女じゃないと思ってたけど、友達を中傷するとは見損なってたよ。俺は恵麻さんと結婚を前提につきあうことにしたから」
「ちょっと待ってよ。私が春斗にメールした内容は本人に確認したの?」
「三度目にデートしたときに、祐子ちゃんから聞いたってメールを見せた。恵麻さんは泣いてたよ。友達だと思っていたのに……ひどすぎるってね。恵麻さんも俺も、祐子ちゃんとは絶縁するつもりだから、それで電話したんだ」

「待ってってば。春斗はだまされてるのよ」
「……最低の女だな。そんな女だとは知らなかったよ。祐子ちゃんの旦那には告げ口はしないから、それだけは安心して」
「春斗……」
「じゃ」

 通話の切れた携帯電話を、祐子はただ見つめる。頭が混乱してしまって、なにがなんだかわからない。私がゆえもない恵麻の中傷をしたことになったの? すこし落ち着くと、春斗の電話はそういう意味だったのだろうと思えてきた。

「そんなの……ええ? だけど、私は恵麻の台詞を鵜呑みにしたんだけど、もしかして……」

 こうなってしまうとまったくわからない。恵麻が祐子に話したほうこそが嘘だったとか? あれは真実だけど、凄腕恵麻にかかったら、春斗をだますなんて赤子の手をひねるようなものだとか? 
 どっちなのかもわからない。

 もはや真実を知る日は、祐子には永遠に訪れないのかもしれなかった。

次は「ら」です。







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