ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「あなたへのラヴソング」

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フォレストシンガーズ

ソングライティング物語

「あなたへのラヴソング」

 カフェのテーブルで三沢さんがなにか書いている。フォレストシンガーズの中では三沢幸生と知り合ったのは遅いほうだったのだが、今ではいちばん親しいのはなぜだろう? 気性に僕と似通ったところがあるからか?

「哲司? 俺はあいつにはそばに寄ってほしくないぜ」
「哲司ねぇ……俺とは異人種ですから……」
「ゲイでもバイセクシャルでも、やりたい奴は勝手にやってりゃいいんだよ。俺を巻き込むな」

 そばに寄ってほしくないと言う本橋さんには、わざと寄っていっていやがられる。
 異人種? だったらよけいに知りたくない? とシゲさんを流し目で見ては、ぞぞぞぞーっ!! とさせてやるのも楽しい。

 あんたなんか巻き込まないよ、木村さん、というのが僕の本音だが、本音を吐いて安心させてやるような優しさは持ち合わせていないので、いやがらせでからんでやる。たぶんこの三人は。真性ヘテロセクシャルなのだろう。つまんない奴らだ。

 あとのふたりのうちのひとり、乾さんには僕のほうが恋している。女には優しくて紳士な乾さんは、僕にはけっこう荒々しくてきびしい。優しいばかりの男なんかよりもそういう男のほうが好きだから、よけいに恋してしまうって、乾さん、知らないの? 知っててやってるんだったらあなたも……? なくもなくない?

 男にはもてたくないらしいが、女にはもてる乾さんは、誰かに恋されるのには慣れているのだろう。たまには男に恋されるのも新鮮でいいんじゃない?

「三沢さん、なに書いてんの?」

 残るひとり、三沢幸生はそれほど単純な奴ではないはずだが、書いているものは単純だった。広げたノートを覗いてみると、詩が綴られていた。

「あなたの頬に手を寄せて
 あなたの涙を感じても
 心にまでは触れられない
 あなたの手を僕の胸に
 せめて僕の想いを感じて」

 作詞家三沢幸生は、最近は他人からも歌の依頼をされるらしい。これは僕の恋人が作曲をして、三沢さんが詞を書くというあれだろう。歌うのは相川カズヤ。あいつは僕を軽蔑のまなざしで見たから、いつか仕返ししてやろうと策を練っていた。

「三沢さんってケイさんのこと。嫌いじゃないんだよね」
「嫌いという感情はないよ」
「口説かれるのって実は好き?」
「あれだけはやめてほしいんだけど、本気じゃないんだろ」
「さあ、どうだろうね」

 ケイさんが三沢さんを口説くのは、僕がそそのかしたからだ。見た目には少年っぽさがあるとはいえ、三沢幸生は三十三歳。ケイさんは若い男の子が好きなのだから。

「この詩の「あなた」は女を想定してるの?」
「そりゃそうだよ」
「男が歌うラヴソングの相手はみんな女?」
「男が女になり切って歌うんだったら、相手は男。男のまんまで歌うなら相手は女。うちの持ち歌にも女ごころを歌ってるのもあるし、敢えて曖昧にした歌詞もあるけど、たいていは男から女への想いを詞にしてるんだ。曲にもしてるんだ」

 作曲だったらできる僕は、恋心を曲にするというののほうがわかりやすい。僕は具体的な誰かを思い浮かべて曲を書かないし、抽象的な曲のほうが作りやすいのだが、詞は通常は具体的だ。

「カズヤが歌うってのも想定してる?」
「多少はしてるよ。カズヤの年齢とかは考えるな」
「僕が歌うとしたらゲイの詞にする?」
「んんん……」

 眉間に皺を寄せてらしくもない顔で悩んでいた三沢さんは、突然言った。

「おまえの歌って聞いたことないな。歌えよ」
「やだよ」
「ギタリストになりたいくらいなんだから、歌は好きだろ」
「音楽が好きなんだ。歌は好きじゃないんだよ」

 ごまかされた気分ではあったが、三沢さんがしつこく歌えと言うので置き去りにして店から出た。

 歌と音楽は同じものか? ちがうだろ? だけど、そっか、歌詞ってのはあまりにも具体的に書かないほうがいいんだ。ゲイやバイセクシャルの男が「僕はあなたを愛してる」みたいな歌詞の歌を歌うなり聴くなりしているとき、思い浮かべる恋人は男だったりするのだから。

 作曲家になりたいとは僕は思わなかったが、ギタリストにはなれないんだったら志望を変更しようか。でも、それもさ、僕の恋人が作曲家なだけにやりにくいし。

 顔もいい僕なんだから、カズヤなんかには負けていない美少年なんだから、歌手にだってなれるはず。歌うのは好きじゃないけど、カズヤなんかよりもずっとずーっとうまいはず。採点してくれるカラオケでヒトカラをやったら、相川カズヤのレパートリーで高得点が出たんだから。

 うん、じゃあ、僕も歌を書こう。
 シンガーソングライターになろう。僕が曖昧な歌詞を書いたら、きっとゲイやバイセクシャル人種の琴線に触れるはず。ケイさんに捧げる歌……なんかじゃなくて、マイノリティに捧げるラヴソングを書いて歌ってデビューしよう。

「三沢さん、ヒントを与えてくれてありがとう」

 そんなこと、実現するはずもないけど、僕がデビューして人気が出たら、カズヤへのまたとない報復になるんじゃないのか? 報復も前向きに考えなくちゃ……ううん、虚しくなんかないよ。実現の可能性はゼロではないんだから。

END










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