ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「ね」part2

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フォレストシンガーズ

「寝ぼけまなこ」

 深夜に臨時ニュースが飛び込んできて、帰宅予定だったのに帰れなくなった。
 ラジオ局のアナウンサーである愛理からは、そんなメールが届いていた。

 ならば、ひとりでマンションにいてもつまらない。俺は行きつけのバーに出かけ、深夜ならばこそ他には客がいなかったのもあって、ラジオをAM局に合せてもらって愛理の声も聴いていた。
 そのニュースでマスコミはもちきりではあったのだが、ずっと愛理の声ばかりが流れていたのでもない。それでも、愛理の優しくやわらかな声を聴きながら飲んでいれば満ち足りていられた。

「金子さん、結婚はしないんですか」
「プロポーズしてもしても、OKしてくれないんだよ」
「どうしてなんでしょうね」

 バーのマダムがセクシーな笑みをたたえ、だったら私がなぐさめてあげようか、と尋ねる。愛理の存在のない昔だったらお相手願ったが、こっちも笑ってはぐらかしておいた。

「……愛理」

 合鍵は持っているので、朝になってから愛理のマンションに行ってみた。仕事は終了したようで、愛理はベッドで眠っている。三十代も半ばをすぎたが、愛理は豊満な美人だから、寝顔はあどけなくさえも見えた。

「愛理、腹が減ったよ。起きて朝メシ、食わせて」
「……眠いからいや」
「今日は仕事はないのか?」
「……あとで」

 ぼーっと愛理の寝顔に見とれ、そのうちには俺も彼女の隣にもぐり込み、腹が減ったと言ってみても愛理は起きてくれない。俺は寝るのに飽きたから起き出してシャワーを浴びて寝室に戻ると、朝メシの時間はとうにすぎている。もう昼メシどきだ。

「六時間くらいは寝ただろ? 起きろよ」
「……ねむーい」

 くすぐっても起きないので、ベッドから抱き上げてバスルームに運び込み、着ていたロングTシャツを脱がせたら、愛理はようやく目を開けた。

「あとでごはん、作ってあげるから、出ていって」
「どうして? 俺ももう一回シャワーを浴びたいな」
「朝のすっぴん寝ぼけ顔を見られたくないのよ」
「もはや朝ではないが、素顔は朝から十分見たけどな……わかりました、出ていきます」

 シャンプーのボトルを投げつけられそうになったので、俺は退散した。

 ダイニングルームに入ってテレビをつける。昔のアニメを再放送していたので、退屈せずにすんだ。愛理は俺に、あなたが料理をするとあとが大変、などと言って追い払おうとするので、手伝いはしない。金子将一に家事は似合わない、それは褒め言葉なのだろうか。

 どれほどプロポーズしてもうなずいてくれない。バーのマダムにぼやいたのは本当だ。大学生のときに知り合い、愛理ちゃんは金子くんが好きなんだよ、と他の誰かから聞き、こっちはその気になれないしなぁ、と思って本人にはなにも言わなかった。愛理も告白はしてくれなかった。

 一年年下の愛理よりも先に俺が卒業し、再会したときには愛理がラジオアナウンサー、俺はデビューもできていないシンガーの卵だった。

 知り合ってからもうじきに二十年。あるときから急にぐんぐんと心が愛理へと傾いていき、俺から告白して恋人同士になった。女に関してはいい加減きわめつけだった俺は、今では愛理に貞操を誓っている。なのに結婚してくれないのは、過去への復讐なのだろうか。

「いいなぁ、五十代や六十代でこんなに若々しいの。私もこのサプリ、飲もうかな」
「ん? これ?」

 昔を思い出していたので途中からテレビは見ていなかったが、CM画面になっている。アンチエイジングサプリメントのCMには、俺の知り合いの無名俳優が数人、出ていた。

「うん、これも一種の詐欺だな」
「詐欺なの?」

 マッシュルームオムレツとクロックムッシュ、グリーンスムージーにトマトサラダ。愛理が手早く作ったブランチが食卓に並ぶ。CMはすんでしまっていたが、内容は知っていた。

「還暦だなんて信じられないって言われるの」
「来年、金婚式なんですよ。もちろん孫もいます。誰に言っても、嘘ぉ、ってびっくりされますよ」
「去年、娘が結婚式を挙げたんですね。ハワイ挙式だったから私もドレスにしたら、新婦のお姉さまはこちらにどうぞ、って言われちゃいました」
「今年はマラソンの新記録に挑戦します。七十になってもやるぞっ」

 上から、六十歳、七十五歳、五十七歳の女性、七十一歳の男性のコメントだ。真ん中ふたりは知り合いだから、実際には六十二歳、四十八歳だと知っている。
 あとのふたりも十くらい、多くサバを読んでいるのだろう。あまりにかけ離れた年齢の者を使うと白々しいが、そのくらいだったらよくある話だ。

「愛理は意外に素直だな」
「どう詐欺なの?」
「なんだっていいさ。愛理はいくつ?」
「三十七歳よ。悪かったね」

 悪くなんかない。俺はおまえの寝ぼけまなこも、寝起きのすっぴん顔も毎日見たいんだ。何度もそう言っているのに、結婚となると愛理は意地を張る。早く結婚しないと、金婚式までに寿命がつきるかもしれないのに。

END










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~ Comment ~

NoTitle

おおう、愛理さんはどうして結婚してくれないんでしょう。
結婚しなくても、今の生活が充実してそうですし、結婚がすべてじゃないですしね( ´∀`)bグッ!私も愛理さんみたいに自立した女性になりたいです(>_<)
でも二人はなんだかラブラブ感が伝わってきてほっこりします(^^)

まさかサプリメントのCMって年齢偽ってるんですか(-口-;)
顔の表情が使用前はムスッとしてるのに使用後は笑顔になってたり、お化粧とかライトの関係などもあるとは思ってましたが、年齢自体偽ってるとは!訴えてやるヽ(`Д´)ノプンプン
新聞広告とかにも開運グッツとかいう怪しいのに大きな広告あって、これ誰が買うんだろうって思うんですが、たまにニュースで開運グッツ会社が詐欺かなんかで捕まってるとこ見ると、買う人いるんですね……。という私もパワーストーンとか気になるます(笑)騙さえないよう気をつけよっと(笑)

たおるさんへ

いつもありがとうございます。

この金子将一って奴は、フォレストシンガーズの大学時代の先輩なのですが、自分でも言っている通りで、女に関してはいい加減なのですよ。
愛理と恋をしてから貞潔になったと自分で言ってますが、愛理にしてみれば、こんな男と結婚したら気の休まる暇がない、からなのです。

愛理は恋愛をファンタジーとして楽しみたいから、というのもあるみたいです。

サプリメント系のCMを見ていると、私はいつもそう思います。
本当はどうなんでしょうね?

六十七歳の女性がこの美肌!! びっくり!!
とかやってますが、ほんとは五十代じゃないのぉ? と疑惑のまなこで見ています。実際はどうだかは知りませんので、ここはフィクションですけどね。
(^o^)

NoTitle

気持ちは分かるかな。
すっぴん姿というわけではないですが。
私は普段が出不精であるので、自宅での姿を見られたくないというのがありますね。
外に出るとき、そして、人と会う時は決意を!!
…という感じなので。
自宅の姿を見られたくないと、やっぱり結婚は難しいのかな。。。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

寝起きの寝ぼけ顔はあまり誰かに見られたいものではないですよね。
それが愛しい相手だったら、そんな顔も可愛いっ!! となるのかもしれませんが。

私も出不精ですので、できることなら家にこもってひとりで、ずーっと書いていたいです。カビが生えたりして(^^ゞ
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