ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「そんなアキラにだまされて」

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フォレストシンガーズ

「そんなアキラにだまされて」

1・章


 新曲ができたそうで、ライヴの三沢幸生コーナーで披露すると本人が言う。乾さんは金沢のひと、幸生は横須賀物語か? 俺も稚内ブルースを思案中なのもあって、幸生の曲には興味があった。

「横須賀の歌を作ろうと苦吟していましてね。苦吟とはいっても、短歌でも俳句でもなくてポップソングですよ。短歌は乾さんの分野ですから、ユキちゃんは手を出しません。もしかしてするーっと乾さんよりもいい短歌を詠んでしまったとしたら、大好きな先輩に嫌われますから」

 いつものごとくに脱線トークをして客席を笑わせて人心をつかみ、幸生はまずはハモニカでイントロを奏でた。そして、おもむろにギターを抱え直してマイクに向かう。

 んんん? なんだ、なんだこの歌は?


2・繁之

「横須賀で出会ったあなた
 稚内で生まれたあなた
 稚内って寒いのね
 寒すぎて、あなたは背が伸びなかったの

 でも、いいのよ、いいの
 私も小さいんだから
 小さいあなたを疎んだりしないわ

 好き、好き、好き
 キス、キス、キス

 好きだよ、好きよ
 愛してる、ええ、私も
 言い合って抱き合って
 キスキスキス

 なのにあなたは……
 身体が小さいだけではなくて
 心も小さいのね、あなた

 そんなあなたに恋をして
 愛してる、の言葉にだまされた私は……」

 ふむ、女言葉の歌か。このメロディはボサノバだろう。俺はメロディに聞き入っていたので、歌詞が頭に入ってくるのが遅れた。横須賀で出会った稚内生まれのあなたは背が低いのか。寒いところで育つと背が伸びないってこともあるのかもしれない。

「寒くてちぢこまってたから、章は背が伸びなかったんだろ」
「幸生は寒いところでは育ってないのに、背が伸びなかったんじゃないか」
「俺はおまえの子守りをずっとやってたから、気苦労ばかりで背が伸びなかったんだよ」
「十八で出会ったときから、おまえはちびだったじゃないか」
「おまえよりは高いもん」

 フォレストシンガーズを結成して以来、そのたぐいの幸生と章の会話は聞き飽きるほど聞いた。なるほど、そうなんだ。


3・真次郎

 ライヴでは五人各々が各自の持ち味を全面に押し出した個人コーナーを作る。その間には他の四人は一息つけるのだが、幸生が作曲もした新曲だというので、みんなで幸生オンステージを注目していた。

 章はひとり、別の場所にいて、シゲと乾と俺がバックステージに固まって幸生のトークと歌を聴いている。しっとりした曲調に乗ったこの歌詞は、コメディタッチなのか? 俺は首をひねり、シゲはふむふむとなるほどがり、しばらくは静かに聴いていた。

「好きだから許せる私と
 好きだからって許せないあなたと

 横須賀の女と
 稚内の男と

 そんなあなたに恋した私が馬鹿だった。
 さよなら、A……K……I……R……A
私のほうからふってあげるわ
 お望み通りでしょ、A……K……I……R……A」

 A、K、I、R、Aを情緒たっぷりに間をあけて歌う幸生の声は、本物の女のようだ。しかし、え?

「おい、これ……」
「あれ? 本橋さん……」
「しっ、黙って聴けよ」

 このフレーズでシゲと俺は気づいたのだが、乾ははなっから知っていたのか。幸生の新曲を初に聞いたのは四人ともに同様だったはずだが、この三人ならば乾のみが敏感なのは当然だろう。
 シゲは困惑顔になり、黙れと言った乾がこらえかねたように、くっくと笑っていた。


4・隆也

 当然、客席も気づいている。ひどーい、と呟く声や、笑っている声も俺たちの耳に届いてくる。章はどう感じているのか知らないが、本橋は苦笑い。シゲは困った顔をしている。

 おまえらしいよな、幸生。
 これをCDにするつもりか? それとも、ライヴだけの余興だろうか。
 ファンのみなさんは喜んでくれているみたいだけど、熱烈アキラファンだと怒ってらっしゃるんじゃないのか?

 いや、シャレのわかるひとが大多数だろうから、怒ってはいないのだろうか。
 それが証拠に客席はいいほうにヒートアップしてきていた。

「次は俺だよ。やりにくいな」
 ぼそっと呟いてみると、本橋が親指を立てる。リーダーも怒ってはいないようだ。

「どうもありがとうございましたーっ!!」

 大盛り上がりに盛り上がり、受けまくっている客席にキス、キス、キス、キスキスキスを投げてから、幸生が叫んだ。

「では、もう一曲いってみようーっ!!」


5・幸生

「おまえが好きだと 耳元で言った
 そんなアキラにだまされ
 渚にたたずむ

 踊りが上手で ウブなふりをした
 そんなアキラが得意な
 エイト・ビートのダンス

 泣いたりしたら いけないかもね
 ディスコティックは 夜通し熱い
 だから一言下さい
 恋の行方はメランコリー
 だからお前はステキさ
 愛が消えてく 横須賀に

 小粋なリードで私を誘った
 あんな男が今さら
 許せるでしょうか
 
 二人の仲は 永遠だもの
 ジュークボックス鳴り続けてる
 だから彼氏に伝えて
 口づけだけを 待っている
 胸の鼓動が激しい
 サイケな夏を 横須賀で」

 横須賀の歌をやります、とファンのみなさまには最初にことわった。しめくくりの一語は「横須賀」なのだから、この歌も横須賀ソングだ。だから、これでいいのだ。

END








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~ Comment ~

NoTitle

曲の歌詞は自分の実体験を乗せることもありますよね。
そういうことが若者に共感して、若い歌手がヒットする。
若さと若さが同調して、余計にヒットする。
同年齢だからこそ分かる同調っていうのもありますよね。
たまには本心を歌詞にするのは良いですよね。
実名は駄目ですけど。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

そんなアキラにだまされて……駄目ですかぁ?
(^^ゞ

歌を書くひとの主義や体調やそのときどきの気分によって、フィクションだったりドキュメントだったりするんでしょうね。
聴き手は、これ、彼の実体験かな? なんて想像したりして。
失恋したの? 暗いなぁ、なんて、ファンが心配したりもするんですよね。

あかねさんへ!!

おばんです!
明日からの阪神たい兎の試合を心行くまで楽しみたいと思います。明日の高山のヒットが出るか打点を挙げられるかにより阪神勝利が決まると思います。上本は誰にに干されたのでしょうかね^^。自分が負っている成績がよくありません。2軍が勢一っパイの成績です。仕方がありません。

本道の補選は勝つことを逃して情け無く思います。京都で勝ちましたから1-1ですがそれで満足しては自公の傲慢はとまりません。やがて自衛隊が死傷者であふれるでしょう。渇)

荒野鷹虎さんへ

コメントありがとうございます。

大阪の梅田駅には、もうだいぶ前から、明日からの対ウサギさんとの試合のポスターが貼ってありました。
きっと満員になるのでしょうね。

私は今年はなぜか阪神の試合にあまり熱くならないので、楽といえば楽なんですけど、そろそろ岩田投手に勝たせてあげたいな。

NoTitle

思わず笑っちゃいました。
ファンにはとっても楽しい余興だったでしょうが、章の心中お察ししますww

でもまるで女の子みたいな声で歌われちゃあ、怒るに怒れないかなw
ステージ上で喧嘩するわけにもいかないし。

本当は仲のいい5人の戯れがかわいいです^^
ステージで初めて聴くって言うのは、斬新でいいですよねw

NoTitle

うぷぷ。楽しくてかわいい。
ステージ上のみんなの表情が見えるようです。

こんなことをやってのけてしまうのも、気心の知れた仲間だから。
これは歌っているときの視線と表情がライブ向けかな。

なんだかんだ言ってメンバーのじゃれ合うところがステージで見られるのはファンにとっては嬉しいところですかね^^

limeさんへ

笑っていただけて嬉しいです。
いつもありがとうございます。

大好きな歌手の新曲をライヴに行ってはじめて聴く。
ファンの醍醐味かもしれませんね。
ライヴに行ってこそ見られたり、聴けたりするっていうのも、ファンにはこたえられませんよね。

とあるシンガーが、歌詞を間違えたからお詫びに……ここだけ、内緒ね、なんて言ってたことを。他のライヴでもやっていたと知ったときには、ちょっと白けましたが。

フォレストシンガーズはこうやってお遊びをしてるわけですが、現実だとサザンの曲は勝手には使えないでしょうねぇ。

けいさんへ

いつもありがとうございます。

おっしゃる通りで、好きなバンドやシンガーのプライベートな顔が見られる……というのは、ファンは嬉しいものですよね。
リアルだとそれはライヴでの演出だったりするわけですが、フォレストシンガーズはほんとにやってます。

章がこのときになにを考えていたか。
ただいま、この「アキラ」シリーズの続編も書いております。
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