ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「川の流れのように」

 ←141「ロックオン」 →142「温度差」
フォレストシンガーズ

ソングライティング物語

「川の流れのように」


 対岸にビル群が連なる都会の川。風の強い道を俺はひとりで歩いている。
 
 昨夜はむこうに見えるあのビルの中にあるホールで、フォレストシンガーズのライヴがあった。こんな大都市のあんな大きなホールがソールドアウトしたなんて、噛みしめると感激のあまり涙が出てきそうだ。

 昭和に生まれて、子どものころに平成の世になった。
 三重県の酒屋の息子として生まれた俺は、裕福な家の子でもなかったのに東京の大学にやってもらえた。東京で進学したからこそ、本橋さんや乾さんと知り合えた。ヒデや幸生や章とも出会えた。そのおかげでフォレストシンガーズのシゲになれた。

 ○○大学合唱部男子部には、将来は歌手になりたいと志望している者は大勢いたようだ。口にする、しないの差はあっても、歌のうまい者はたくさんいたのだから、できるものなら、だとか、俺になんかなれないだろうけどな……だとか、漠然と考えている者も何人もいたのだろう。

「俺は卒業したら歌手になるよ」
 当然のように言っていたのは、俺が一年生のときのキャプテン、金子将一さん。彼には紆余曲折もあったようだが、現在では人気のあるシンガーだ。我が母校合唱部の同年代の出身者の中ではトップの有名人でもある。

「徳永さんもシンガーになりたいんだってさ」
 誰かに聞いたのであって、本人は公言はしていなかった徳永渉さんも、現在ではマニアックな人気のあるシンガーだ。

「本橋さんと乾さんも歌手になるつもりだろうな」
「ヒデもなりたいんか?」
「実松もなりたいんだろ。だから東京に来たんだって言ってたじゃないか」

 学校からの帰り道、ヒデと実松と三人で歩きながら、俺は歌手になんかなれっこないよな、この顔だし、合唱部でもベースマンなんだから、主役になるタイプじゃないもんな、と思っていた。ヒデだったらなれるんだろうか。こいつは見た目はかっこいいけど、ソロシンガー小笠原英彦ってピンと来ないな。

 実松は俺と似たような外見だし……歌はまあまあだけど、俺だってまあまあなんだから、おまえと俺には歌手は無理だよ。俺は黙って歩きながら、そんな失礼なことを考えていた。

 なのに、俺はプロの歌手になれた。
 ヒデもフォレストシンガーズで一緒にデビューするはずが、結婚するからと脱退してしまった。実松は大学を卒業する前に歌手志望は断念して、就活してサラリーマンになった。

 本橋真次郎、乾隆也、木村章、三沢幸生、本庄繁之、五人のフォレストシンガーズは本橋さんと乾さんが二十四歳、俺が二十三歳、章と幸生が二十二歳の初秋にデビューして、まるっきり売れないままに歩き続けてきた。

 社長のおかげ、マネージャーの美江子さんのおかげ、応援してくれたみんなの家族のおかげ、ちょっとだけはいてくれたファンのみなさまのおかげ、他にもたくさんたくさんいた、支援してくれたみなさまのおかげ。

 おかげとおかげが積み重なって増殖して、俺たちは徐々に売れていった。俺が川上恭子と結婚してから、すこしずつでもいっそう売れていった。

 美江子さんと本橋さんも結婚し、恭子と俺には長男が誕生し、行方不明になっていたヒデと再会し、フォレストシンガーズの全国ライヴツアーも実施した。ツアーでは合唱部時代の友達も次々に聴きにきてくれた。

 そして今、さらにパワーアップした大都市でのライヴをすませて、俺は満ち足りた気持ちで川辺を歩いている。
 恭子と俺には次男も生まれた。乾さんと幸生と章は独身だが、離婚経験者のヒデにも婚約者ができ、最近はちょくちょく、フォレストシンガーズのアルバムに曲を提供してくれている。

 この川の流れのように。
 時には激しい嵐に遭い、大雨で氾濫しそうになったり、日照りが続いて水が干上がりそうになったり、おかしなものを投げ込まれて水が濁ったり、内外ともにごたつくことはあっても、川はいつだって悠然と流れていく。この川みたいな曲を書きたいな、と思って立ち止まった。

 川風が髪を乱す。頬にも風が吹きつける。立ち止まると腹が減っているのを思い出してきたが、空腹ではなくて創作意欲に身をまかせなくては。

 ばたばたっとシャツがはためく。頭の中に歌が湧いてくる。お、これは……頭に浮かんだメロディをつかまえてやっつけて征服して、だなんて、章と本橋さんが言っていたのを思い出す。そうか、作曲はバトルゲームみたいなものか。
 
 つかまえたような気のするメロディには歌詞もついていて、口ずさんでみた。

「ああ 川の流れのように
ゆるやかに
いくつも時代は過ぎて
ああ 川の流れのように
とめどなく
 空が黄昏に染まるだけ」

 ちがうだろうが、シゲ。あーあ、とため息が漏れた。

結局、俺には一生のうちに二、三曲作るのが関の山なのだろう。ゼロよりは幸せなのだろう。川を眺めていて浮かんでくるのは既成の大ヒット曲なのだから、俺には歌を書く才能はほとんどない。それでもゼロではないのだから、作ったことはなくもないのだから、幸せだと達観しておこう。

END








スポンサーサイト


  • 【141「ロックオン」】へ
  • 【142「温度差」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【141「ロックオン」】へ
  • 【142「温度差」】へ