ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「そ」part2

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フォレストシンガーズいろは物語2

いろはの「そ」

「空色の画用紙」

 愛称に合せてパールいろに染めた長い髪を束ねて、磯畑耕史郎は外に出た。耕史郎が髪をこんな色にしてからだと、十年近くになるのだろうか。

 高校生のときにロック雑誌で見た「バンドのメンバー募集」。あの記事が彼の運命を変えた。
 メンバーを募集していたのは、ファイとエミーと名乗る長身の美青年たち。彼らは高卒フリーターで、他にやることがないからロックやろうぜ、なのであったらしい。

 少なくともファイにはさほどにロックへの情熱は感じられなかったが、たいそうルックスはよかった。エミーにしても相当かっこよかったし、あとふたり、トピーとルビーも綺麗な顔をしていた。

 五人とも顔がいいんだからビジュアル系にしよう、との相談がまとまって、五人のバンド名は「燦劇」と決まった。ファイがヴォーカル、エミーがギター、トピーがベース、ルビーがドラム、耕史郎はパールとなってキーボード担当になった。

「ファイはサファイア、エミーはエメラルドの省略形なんだ。トピーはトパーズ。あとのふたりはそのまんまでルビーとパールだよ。俺たち、宝石をコンセプトにしている燦劇でーす」

 校則では染髪は禁止だったので高校時代には我慢して、卒業してから髪を染めた。燦劇の活動もそれから本格的に開始して、間もなく人気沸騰するようになった。

 インディズ時代から女の子たちに熱狂的に支持されていた燦劇に目をつけたのが、オフィスヤマザキの社長だった。山崎社長に誘われてパールたちはプロになった。オフィス・ヤマザキには杉内ニーナ、フォレストシンガーズという先輩たちがいたのだが、燦劇はじきに彼らを飛び越えてスターになった。

「だけどね。潮時だったのかな」

 風におくれ毛をなぶらせながら、パールはひとりで歩く。燦劇が人気絶頂のころに、エミーが言い出したのだ。

「俺はビジュアル系っていやなんだ。ハードロックがやりたいんだよ」

 そのひとことで燦劇は休止することになり、エミーはロスアンジェルスに行ってしまった。トピーとルビーはよそのバンドとコラボしたり、尊敬するミュージシャンに師事したくてがんばったりしている。ファイは本拠を半分は神戸にして、当地のバンドとセッションしたりしている。

「ああ、いい気持ちだ」

 マンションから一時間ばかり歩くと、広い公園がある。ラジオの仕事がメインになっているパールは、昨日から休みだった。今日、明日も休日で予定もないから、部屋にばかりいてはいけないと散歩に出てきたのだ。平日午前中の公園には人影もなく、パールはそばのコンビニでおにぎりを買い、中に入っていった。

「いーいお天気だなぁ」

 燦劇の持ち歌の作詞はファイが、作曲はエミーがおこなっていたのだが、近頃はパールも作曲をしている。彼女のミキが作詞をするというので、その詞に曲をつけたかったからもあった。

 昨夜は作曲をしていたから睡眠不足気味だ。もっと寝ていようかと思ったのだが、空腹になってきたのもあって外に出てきた。空は真っ青に晴れて空気が澄んで感じられる。燦劇はビジュアル系だったので、こんな健康的な世界とは無縁だったが、パールのソロだったら真っ青な空や心地よい風をテーマにするのもいいだろう。

 ベンチに腰かけておにぎりを食べていると、子どもが数人公園に入ってきた。引率しているのは若い女性がふたり、トレーナーとジーンズにエプロンをかけた、保育士さんだろうと思えた。

「おねえちゃん?」
「ううん、お兄ちゃんだよ」
「アメリカ人?」
「日本人だよ」

 寄ってきた男の子と女の子が、パールを不思議そうに見て尋ねる。保育士も駆け寄ってきて子どもたちを引き離す。すみませーん、と詫びて子どもたちを抱いて走っていった彼女たちは、燦劇のパールなんて知らないのだろうか。

 ビジュアル系ロックバンドはファンの熱狂度も激しいが、嫌う人には思い切り嫌われる。あんなのロックじゃないとか、音楽じゃないとか、あいつらはあれでも男か、とか。
 ステージでは濃いメイクをしているので、素顔でいるとファンにもわからないというのもある。燦劇は休止してからだいぶたつのだから、忘れられかけているのもあるだろう。

 ラジオに出ているから、熱心なファンは今でもついてくれている。
 でも、プライベートタイムには磯畑耕史郎に戻ってのびのびできるのもいいものだ。

「可愛いね」

 二十代も残り少なくなってきたのだから、俺もそろそろ子どもがほしいな、と、遊んでいる保育園児たちを見てパールは思う。そろそろミキちゃんにプロポーズしようかな。

 十代からつきあっている、メイクアップアーティストの恋人だ。高校生のときにミキが告白してくれて。それからずっと恋人同士でいる。パールはミキを二、三度裏切ったことがあるが、本命は彼女だということだけは守ってきた。ミキのほうはパール一筋……のはず、おそらくは。

 空を見上げていると、青い画用紙に見えてきた。
 ロッカーらしくもないけれど、パールは空いろの画用紙に未来図を描いてみる。

 ママとパパになったミキちゃんと俺。あそこで遊んでいる子どもたちのような、幼児がふたり、男の子と女の子がいる。ミキちゃんも俺もルックスはいいんだから、小柄な可愛い子たちに育つだろう。男の子だって小さくてもいいんだよ。可愛いってのは最強だからね。

「それってほんとにシゲさんの子なの?」
「……きみはなにを言い出すんだ」
「いや、彼女が子どもを産んだからって、自分の子だとは決まってないんじゃないかなって思って……」
「信頼関係だろ」

 事務所の先輩であるフォレストシンガーズの、本庄繁之の妻、恭子とはパールも仲良しだ。恭子が夫以外の男の子どもを産むはずがないとわかっていながら、素朴な疑問を口にして怒られた相手は、フォレストシンガーズとは親しい酒巻國友だった。

「そうと信じて、妻と子のためにがんばるのが男なんだよね。うん、俺も一人前の男になろうかな」

 この思想は古いのか? ほんと、俺ってロッカーらしくないなぁ、とパールは自分に苦笑する。けれど、空色の画用紙に描いてみた、ミキと耕史郎の未来予想図はあまりにも魅力的で、早いところ実現させたくなってきた。

END








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~ Comment ~

NoTitle

今だにロックとビジュアルの違いが分からん。。。
(-_-メ)

同じ音楽だぜ!!
・・・じゃ、いけないのだろうか。
まあ、方向性の問題なんでしょうけど。
プロを極めるのであれば、それぞれの音楽を知っておかないといけない。
・・・というのはあるのでしょうね。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

ロックという大きな一ジャンルの中に、ヴィジュアル系があるんじゃないのでしょうか。
別にジャンルにこだわる必要はないようなものですが、この音楽の種類は? なんて考えるのも楽しいものですよね。

NoTitle

パールくん3回も浮気を!?Σ(°д°)
一回だけしか知らなかった…
男の人はずっと子供が本当に自分の子かと疑いながら育てるそうですね。実際旦那の子じゃないことを黙ってる奥さんもちらほらいるとか。
ちょっと前にもDNA検査で自分の子じゃないって分かって公表した芸能人がいましたね…。子供のこと考えたらすごい被害です…
パールくんはもしそんなことなっても黙ってるのかな??

たおるさんへ

いつもコメントありがとうございます。

こういう仕事の男の子ってもてるのもあって、浮気くらいしてるよなぁ、という、私の偏見も入っています。

自分の子どもだと信じて育ててきた子が、ある日なにかのきっかけで、実はそうではなかった、と判明する。
そういう話がフィクションでもありますよね。
私もちょっと書いてみましたが、そういうときの男性の衝撃ははかり知れないだろうと思います。

たまに自分の子ではないのがまちがいない子どもを、愛情たっぷりに育てている男性もいるみたいですけどね。
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