別小説

ガラスの靴59

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「ガラスの靴」

     59・不満


 婚活をして必死になって相手を探す男女もいるが、なんの苦労もなく結婚した男女だっている。僕もそのひとりで、ここにいる科夢もそういう男の子のひとりだ。
 もうひとり、ここにいる巻田誠一くんはどうなのだろう? 婚活はしていないものの、必死で若い女の子にアタックして結婚してもらったのだそうだから、苦労はしたのだと思う。

 かたや、カムはアイドルのオーディションを受けにいき、テレビ局の女性に目をつけられて襲われて、その後に言葉たくみに取り入って彼女との結婚に持ち込んだ。
 昔だったら男女がさかさまだろ、と言われそうな結婚だが、僕だって昔ながらの風習からすれば男女さかさまの専業主夫なのだから、カムとトーコさんが幸せだったらそれでいいのだ。

「で、カムくんはドレスを着たの?」
「トーコちゃんがドレスは許してくれなかったから、フリルのついたシャツにしたんだ。ほんとは全身に花でもつけたかったんだけど、それだったら花嫁が目立たないからって却下されたんだよ」
「やっぱり」

 以前に会ったときには、カムはトーコさんとの結婚式で主役になりたいと言っていた。僕のほうがトーコさんよりも若くて綺麗なのに、花嫁さんばかりずるいと怒っていた。
 おしゃれは好きだけど、そこまでの目立ちたい願望はない僕にはカムは不思議だったのだが、そんな男もいてもいい。

 スマホに入っているカム&トーコの結婚式の写真を見せてもらっていると、のこのことやってきたのが巻田くん。僕はよほどでないと人を嫌いにならない性質だから、アンヌさんを僕にくれ、とほざいた巻田くんも嫌いにはなっていない。アンヌが断ってくれて安心しただけだ。

「よぉ、美少年がおそろいで」
「よぉ、太目のおじさん」

 むこうがイヤミっぽく言うので、僕も意地悪く応じてやった。
 
 音楽事務所の社員である巻田くんも、奥さんがテレビ局の社員であるカムも、奥さんがロックバンドのヴォーカリストである僕も、テレビ局とは無関係ではない。関係者しか入れないテレビ局の中のカフェにいると、パルフェに会えると聞いてカムと一緒にやってきた。

 パルフェとはフランスの女の子たちのアイドルグループで、来日している彼女たちがこのテレビ局に来るとは、アンヌが教えてくれた。
 
「わぁ、パルフェ。僕、けっこうファンなんだ。サインもらえないかな」
「あたしは行かないけど、そだ、トーコの働いてる局だな。カムもパルフェのファンだとか言ってたよ」
「だったら……」
「いいんじゃないか?」

 そこで久しぶりにカムに連絡すると、僕も会いたい、行こうよ、と言ってくれたのだった。巻田くんはパルフェに会いたかったわけでもなく、単に通りがかっただけらしい。
 
「ふーん、パルフェねぇ。あの子たちはうちの水那と変わらない年なんだよな」
「水那って巻田さんの妹?」
「いや、女房だ」
「巻田さんって結婚してるんだ。僕も結婚してるんだよ」
「ああ、そうなのか。笙くんもカムくんも結婚早いね。カムくんの奥さんも年上?」
「うん、十一年上」

 そのカムの奥さんのおかげで、関係者以外立ち入り禁止のカフェに入れたのだと話してから、カムが巻田くんに質問した。

「巻田さんの奥さんは若いんだね。どんなひと?」
「どんなひとって……僕は若い女が好きだったんだよ。きみらなんか自分が若いから、相手は年上でもいいんだろ。僕は若いころから年上になんか興味なかったけど、年上のいい女に憧れる坊やってありがちだよな。昔の僕だったら……」

 コーヒーに角砂糖を三つも入れて、巻田くんはまずそうに飲んだ。

「そんな年上の女と血迷って結婚したら後悔するぞって言っただろうけど、女は若さだけじゃないってつくづく思うよ。アンヌさんくらいがいいよなぁ。彼女は僕よりは若いし、背が高くて美人だし、収入もいいし。笙くんがうらやましいよ」
「だから、巻田さんの奥さんってどんなひとなの?」

 いやそうな顔をして、巻田くんは一気に言った。

「ブスだよ。ブスで寸胴で、アルバイトしかしたことがないから稼げない。家事だってやってはいるけどうまくない。メシもまずいし、掃除も行き届かない。結婚前にはすこし太ってても可愛いと思ったんだよ。若かったらそれだけですごく価値があると思ったんだ。僕の目は雲ってたんだね」
「すると、奥さんって巻田さんより下だと思える?」
「当たり前だろ。アンヌさんには、割れ鍋に綴じ蓋だとか言われたけど、僕のほうがよっぽど上だよ。少なくとも僕は稼げる。働いて収入を得ている」

 ふーん、と考え込んでいるカムに、今度は巻田くんが質問した。

「きみも主夫なのか?」
「主夫でもよかったんだけど、トーコちゃんは子どもを産みたくないらしいんだよね。そうしたら主夫はいらない。バイトくらいしろって言われたんで、ダンススタジオの仕事を紹介してもらったんだ。トーコちゃんの紹介だから、芸能人もレッスンに来るスタジオだよ」

 アイドルのオーディションを受けにいったときは、トーコさんが審査員側だった。トーコちゃんは僕を自分のものにしようと、オーディションを不合格にしたんだとカムは言う。
 しかし、もうカムはトーコさんの夫だ。自分のものになってからだったら、アイドルっぽい仕事をするのもいいのではないかと、トーコさんは考え直した。

「それでね、半分はバイトで、半分はレッスンもつけてもらってるんだ。僕はダンスはわりとうまいんだけど、歌が下手なんだよね。アイドルなんて歌が下手でもいいから、人数の多いグループのひとりぐらいだったらできなくもないかなって。もとアルバイト主夫のアイドルってユニークでしょ」
「ふーん」

 不満そうな巻田くんをちろっと見て、カムが言った。

「だけど、なんだかね……巻田さんがうらやましいよ」
「僕のなにがうらやましいんだ?」
「だって、僕はいつだって……」

 アイスティをひと口飲み、カムはもの憂い口調で続けた。

「トーコちゃんって三十代だけど、ほんとのほんとに二十五くらいにしか見えないんだよ。おしゃれで美人ですらーっとしてて、カムくんの奥さんってモデル? ほんのすこし年上なだけでしょ、ってみんなに言われるんだ。仕事もできて、子どもはいらないって言ったら、上司に安心されたって。トーコに休まれたらうちの職場は回っていかないんだから、産休なんか取られると困るってさ」
「自慢かよ」

 ひたすらに巻田くんは不満そうで、僕としても、なんでそれで巻田くんがうらやましいんだろ、と頭をかしげていた。

「僕ってアイドルになれるって言われるほどなんだから、イケメンっていうか……僕も年よりももっと若く見えるほうで、十代に見られたりもするんだから、美少年だよね」
「……」

 小声でぼそっと巻田くんが言ったのは、頭が悪いからだ、と聞こえたが、ひがみであろう。

「そんな僕は今までは、いつだってどこでだってみんなにもてはやされたんだよ。なのに、トーコちゃんと結婚したら、僕はトーコちゃんの添え物みたいだ。結婚式だって、トーコちゃんのペットみたいってか引き立て役ってか。つまんなかったよ」
「ふーん、そういう考え方もあるんだな」
「やっぱ僕、アイドルになりたいな」

 それで、なんで僕がうらやましい? と、巻田くんも僕と同じ疑問を口にしたが、カムは答えない。答えると失礼だからか。
 若いだけがとりえで、不細工で収入もなくて特になにもできない奥さんだったら、夫が優位に立てるからって? そんな考え方をする男もいるだろうが、僕にはそんな思想はない。

 うちの奥さんも年上だけど、巻田くんの言う通り、美人で稼ぎもいい我が家の大黒柱なのだから、息子の胡弓も僕も、アンヌのおかげでぬくぬく暮らせている。僕は妻を愛し、尊敬し、感謝している。
 うんうん、僕にはアンヌが一番だよ、と思っていると、カフェの入り口あたりがざわめいた。パルフェの女の子たちが入ってきたらしく、金髪が見えていた。

「トーコちゃんには内緒だけど、しばらくは我慢して将来は……」
「パルフェの女の子みたいな若い子と浮気して離婚するって?」
「それだったら同じじゃないか。いや、そうでもないのかな。アイドルなんて一過性なんだから、あの子たちも年を取ったらぶくぶく太ったおばさんになるのか。若さってはかないよな」

 おのれにも言い聞かせているような巻田くんの声は、もはやカムには聴こえていない。中腰になってパルフェの女の子たちに見とれている。僕もカムと同じ姿勢になり、意識がパルフェに集中してしまったから、巻田くんの繰り言なんか聞いてはいなかった。

つづく







 
 
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