ショートストーリィ(しりとり小説)

140「子の心」

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しりとり小説140

「子の心」

「勉強は適当でいいのよ。適当な女子大に進学して、そこそこいい会社に勤めて、いい男をつかまえるのが一番。家事なんてやってるうちにできるようになるんだから、見た目を磨きなさい。女は見た目で勝負よ」

 母の教えを守って、満代は中学生くらいから女磨きに精を出してきた。素材がよかったのもあって、高学歴高収入のルックスもよいエリート男性をつかまえ、娘もふたり生まれた。

 美男美女の両親から生まれた娘なのだから、長女も次女も赤ん坊のころから美少女の片鱗があった。へちゃむくれの女の子があまりに華麗な名前をつけられているのも痛いものがあるが、満代の娘たちにだったらふさわしい。長女は美琴、次女は夢南、ミコト、ユメナと響きも字面も美しい、将来の美女に似つかわしい名を与えた。

 幼稚園のころから、満代は娘たちのおしゃれに力を注いだ。長くした髪をりぼんやバレッタやカチューシャなどで飾る。満代は手先が器用なので、編み込みにしたりふわふわカールさせたりして、自分も楽しんでいた。

 夫だって娘たちを溺愛していたし、幸いにも収入は潤沢だったので、高価なブランドものジュニアファッションを購入しても文句は言わない。

「私もこんなの買っちゃった」
「……便乗ばっかりしてるな」
「だって、娘たちがどんなにかっこいいスタイルをしていても、一緒にいる母親がださいと馬鹿にされるのよ。あなただって奥さんが可愛いほうがいいでしょ」
「そりゃそうだけどね」

 いつだって、夫も満足げだった。
 小学生ともなると、娘たちのおしゃれも本格的になった。女は肌と髪が命。どれほど綺麗な顔をしていても太ってしまうとどうしようもないので、子どものときから注意すべきだ。ダイエットも怠りなく、サプリメントも万全に。

「体育の時間の前にはこれを塗りなさいね。忘れたら駄目よ。小学生のときから肌に気をつけて、日焼けしないようにしなくちゃ。紫外線は美しさの敵なんだからね」

 口をすっぱくして言い聞かせ、娘たちも素直に従っていた。
 かつて満代の母も言ったように、勉強はそこそこでいい。どれだけ時代が変わっても、女はいい男をつかまえて結婚するのが第一命題だ。満代はそうと信じていた。

「そんな育て方をしたとは、信じられませんね」
「そうでしょう? 私も娘たちがこうなったとは信じられませんわ」
「反対はなさらなかったんですか?」
「反対なんかしたって聞かなかったんですもの」

 あれから二十年、娘たちは満代が夢見た女性像とはまるでかけ離れた女性に育った。正反対というのでもない。満代の発想にはまるでなかった女だ。

「中学生になった春だったかしら。美琴が言ったんですよ」

 お母さん、私、相撲部に入ったから。
 相撲部? そんな部活に女の子が入れるの? 入れるよ。私、男子にも勝つんだから。

 どちらかといえば華奢だが、背の高い美琴は腕力があるとは知っていた。相撲って……あり得ない、と満代は言いたかったのだが、中学一年生の間だけだったらやらせるしかないか、反抗期なんだから、下手に反対しすぎると意地になりそうだ。

 女の子が相撲をやるとは、それだって満代には発想外だったのだが、柔道、レスリング、ボクシングなどの格闘技にも女子は進出している。相撲は国技であるにも関わらず、いや、国技だからこそなのか男性の牙城だったようなのだが、あのころから女子相撲がシリアスに語られるようになってきていたのだった。

 相撲なのだから当然、体重が必要だ。小学校のころから母親にダイエットをさせられた反動か、美琴はよく食べてよく運動するのが楽しくてたまらなかったようで、めきめきむくむく大きくなっていった。結局中学三年間、美琴は相撲部で活躍していた。

 高校は女子相撲部が新設されて間もない学校に推薦入学し、全国でも美琴の名が鳴り響くようになっていく。相撲選手なのだから大きいとはいえ、美人で強い美琴に憧れる女の子も増えていって、いまや女子相撲もけっこう隆盛になっている。美琴は女子相撲界の第一人者であり、だからこそ母親の満代もインタビューなど受けているのであった。

「妹さんのほうは……」
「夢南も中学生になったら、私もスポーツをやると言い出したんです。テニスとかサッカーとかは陽に灼けるからやめなさいって言ったんですよ。そのころにはもう美琴のほうは諦めていましたから、せめて夢南には私の理想通りの美少女に育ってほしかったのにね……」

 室内競技だよ、と言うから安心していたら、その競技とはなんとなんと、重量挙げだった。

「親の心子知らずって言いますけど、子の心も親にはわかりませんわ」
「でも、お姉さんは女子相撲界のスターで、妹さんは女子重量挙げの金メダリストでしょ。素晴らしいではありませんか」
「……まあね。今さら私がなにを言ってもね……」

 色白のもち肌で美人ではあるが、相撲選手なのだから当然肥満体で、目鼻立ちも定かではなくなってしまった美琴は、百七十センチで百キロほどあるだろうか。父親も美琴には腕相撲さえかなわない。
 一方、筋肉隆々の夢南は、百六十五センチで八十キロ程度か。よく見れば美人ではあるが、重量挙げの選手ねぇ……と考えると、満代の口からはため息だけがこぼれる。

 それでもふたりともに中身はまっとうなスポーツウーマンに育ったのだ。子育て失敗とはいえないだろう。しかし。

 世の中が変わって女が強くなると、反比例して男は弱くなる傾向にある。だからといって男のプライドは消え失せたりしないようで、俺よりも強い女? うっ、遠慮します、の男が大部分であるらしい。この分では私は孫は持てないのかしら。

 ううん、そんなはずはない。満代は祈りをささげる。どうかこんなにも強くてたくましい娘たちと結婚してくれる男があらわれますように。

次は「ろ」です。








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~ Comment ~

NoTitle

なるほど。こういう話できましたか(笑)
反抗期と重なったのか。
あるいはどういう作用でスポーツの家系になったのか。
潜在的にママにもスポーツの才能があったのかな?
育て方の過程は間違っているけど、到達点は間違っていない。

NoTitle

相撲と重量上げ(笑)
読んでいて笑ってしまいました(笑)てっきりモデルさんとかになるのかと思ったんですが、またよりにもよって相撲と重量上げ(笑)

私の子供のころはブランドものなんて子供が持つとか考えられなかったし、美容なんてまったく頭になくて、外を走り回っていたんですが、最近はみんな綺麗にしてますよね。
しかし、親の思いはどこへやら(笑)
まぁ子供本人の思いは尊重されたようでよかったです(^^)
きっと強い女性でも素敵な方が現れますよ!そして私にも素敵な人が現れてほしい!(切実(笑)

あ、捧げ物が出来上がったのでよかったらもらってやってくださいませませーm(__)m
http://ll050023.blog.fc2.com/blog-entry-194.html
何かありましたらまたご連絡くださいー。

NoTitle

おお、満代でなくても親が反対しそうな競技が2種目もw
お相手を探すのも日本だと大変かもしれませんね。
ぜひ二人には国際結婚してもらいたいです。笑

LandMさんへ

いつもコメントありがとうございます。

こんな育て方をしたら、鼻持ちならない女になるかもしれなかったのに、スポーツウーマンとして大成したんだからよかったね、って満代に言ってやって下さい。

でも、娘を持つ母心としては満代の気持ちはちょっとわかります(^-^;

たおるさんへ

いつもありがとうございます。

なんだかんだとケチばっかりつけてますが、満代おばさんはとことん娘の邪魔をしたりはしなかったのですね。

子どものころには母親のおもちゃにされていたフシありの娘たちが、成長してからは自らのしたいことをしたんですから、まあ、よかったんじゃないでしょうか。

父ちゃんはもっとがっくりしていそうですが。

うちの近くの小学校は制服はないのですが、決まった帽子があります。おしゃれな服装の高学年の女の子が、黄色い帽子とランドセル、違和感ありますよ。

美江子のイラスト、ありがとうございまーす!!
フォレストシンガーズのみんなでお礼ハモをやりつつ、紹介させていただきました。
いつかまた気が向かれたらぜひ、描いて下さいね。

夢月亭清修さんへ

コメントありがとうございます。

我が娘にはやってほしくないスポーツ、というアンケートを親から取ったら、ベスト10に入りそうな競技ですよね。
マラソンも、身体には悪そう……なんて言ったら、オリンピックに出たりプロになったりするほどのスポーツはみんな同じかもしれませんが。

国際結婚、ソレ、いいいですね。
ごっつい外国人男性だったらいいかもしれません。
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