ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「れ」part2

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フォレストシンガーズ

いろは物語part2

「歴史のまち」


 晩婚だったので子どもを持てたのも遅かったのだが、うまい具合というかなんというか、奥さんが一度にふたりの子どもを産んでくれた。

「双生児だっておっしゃってましたね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。男の子と女の子の二卵性双生児でした」
「それはそれは……みずきさん、重ね重ねおめでとうございます」
「つきましては、ですね、三沢さんにお願いがあるんです」

 すこし迷っていたので、生まれてからのお願いにした。
 親が経営する靴屋の手伝いをして生計を立てていた私がシナリオライターとして世に出られたのは、フォレストシンガーズのおかげである。

 設定ではフォレストシンガーズは関係なかったのだが、ラジオのシナリオとして応募した「水晶の月」が大賞を受賞し、ドラマにされた。五人の大学生を主役にしたものだから、フォレストシンガーズに似通ったところがあると関係者が言い出したのだった。

 そこで、ドラマではフォレストシンガーズの五人が声優をつとめてくれた。キャラクターの名前もフォレストシンガーズの五人と同名に変更し、ファンのみなさまには好評を博したと聞いた。

 成功への階段を上りはじめていたフォレストシンガーズとほぼ時を同じくして、私もシナリオライターとしてひとり立ちしていった。シナリオだけではなく小説も書くようになり、フォレストシンガーズをモデルにした短編も書かせてもらった。私がシナリオを担当した、フォレストシンガーズの若き日を描いた深夜ドラマも放映された。

 そんな関係なので、フォレストシンガーズはまったくの赤の他人だとは思えない。特に三沢幸生さんとは親しくしてもらっていた。

「おー、それは嬉しいですね。ちょっと照れるけど、俺の名前でいいんですか」
「ええ、三沢さんのお名前をいただきたいんです」

 幸生の「幸」をもらって、男の子には陽幸、女の子には千幸という名前をつけた。
 双生児の育児は相当に大変ではあったが、近頃ようやく落ち着いてきた。小学生になった千幸と陽幸は、年齢相応に生意気で可愛い少年少女に成長した。

「たまにはパパと三人で旅行しようか」
「ママは行かないの?」
「ママもたまにはひとりでのんびりしたいんだってさ」

 自由業なのだから時間の融通はつく私は、育児にはできる限り協力してきた。けれど、私の秘書のような仕事をしてくれ、家事育児も主に担当していた妻の仕事量のほうがはるかに多いはずだから、ママママとばかりは言わなくなった子どもたちから、妻を解放してやるのも大切だ。

「パパと三人なんてやだ。男ばっかりの中にあたしひとりはやだ」
「だったら千幸は行くなよ。僕は行きたい」
「じゃあ、千幸とママで女同士の旅行をしようか」
「うん、そっちがいい」

 娘には嫌われてしまったので、子どもができてはじめての、父と息子、母と娘の別々旅行をすることになった。

 女性たちは香港に行こうか、台湾にしようか、ハワイは? いっそパリにする? と盛り上がっている。陽幸はどこに行きたい? きみが計画を立てなさい、と私が言うと、息子は熟考の末にプランを出してきた。

 いいね、それは。きみは勉強家だね、と私も満足して、息子とふたりでやってきたのは長州だ。山口県の下関や萩は歴史の宝庫でもあり、美味や美しい景色にもあふれている。陽幸は幕末に興味を持っているので、吉田松陰、高杉晋作、日下玄瑞、桂小五郎などのゆかりの地をふたりで歩いた。

「パパは小説を書きたくなった?」
「そうだねぇ。パパも新境地を開かなくちゃいけないかな」
「パパは幕末小説は書いてないの?」
「歴史ものは書いたことないよ」

 小学生には私の著書は早すぎるだろう。千幸も陽幸も読書は好きなようだが、私の小説には子ども向けのものはない。ジュニア向け時代小説など書いてみようかと思いつつ、陽幸と歴史スポットを歩いていた。

「幕末の京都に現代人がタイムスリップするってお話は、たまにあるね」
「テレビでも漫画でも見たことがあるよ」
「江戸にタイムトラベルってのはなかったかな」
「ローマのお風呂にってのだったらあるよね」
「ああ、あったね。長州にはないかな」
「僕は知らないけど、だって、幕末ったら京都だもん」

 幕末に活躍した人物の中での人気ナンバーワンは、坂本龍馬であろう。二番目は新選組の土方歳三だろうか。同じく新選組の沖田総司や斎藤一、長州の桂小五郎、高杉晋作も人気がある。
 薩摩の西郷、大久保は歴女人気が薄いのか。若いほうがいいのは当然で、イケメンだと設定できればなおよい。土方歳三はなかなかハンサムな写真が現存しているからこその人気ともいえる。

 そんな彼らが集結したのは京都だから、息子の言う通り、フィクション作品で現代人がタイムトラベルする先は京都だ。若い女の子が幕末の京に飛ばされてしまい、新選組の面々や土佐、長州の若者と恋に落ちるというストーリィは、げっぷが出そうなほど氾濫している。

 そうそう、岡田以蔵もけっこうな人気だ。吉田稔麿なども好かれている。テレビ、ゲームの影響は大きくて、ドラマや映画で取り上げられた彼らの墓の前には、供物でいっぱいになるという現象も起きるようだ。

 タイムトラベルはありふれすぎているから避けるとして、どんな小説がいいかなぁ。長州の風に吹かれて考える。陽幸は別のことを考えているらしく、少年になりかけている怜悧な顔が引き締まって見えた。

 若い女の子が主人公で、幕末の志士と恋をする。タイムトラベルではなくてもそういうテーマは多い。読者層が若い女の子だからか。若い男の子が幕末娘と恋をするって話はないのか? 幕末の娘は無名だからインパクトに乏しいのか。

 息子と話をしたり、小説について練ったりしながら、川べりに出た。

「阿武川だね」
「いっぱい歩いたあとだから、川って気持ちいいね」
「そうだな。おなかはすかないか?」
「うん、すいたかな。萩でおいしいものといえば、ふぐとかあわびなんでしょ? 僕は肉がいいな」
「夜は肉のコースを予約してあるよ」

 夕飯は宿が出してくれるから、昼は私が考えなくてはならない。おいしいものをあれこれ思い浮かべて、わくわくしているらしい息子は可愛い。

 幼くて可愛い息子もじきに大人になって、私たちのもとからはばたいていくのだろう。もうすこし大きくなったら父の書いた小説を読んでくれるのか。
 今まではあまり意識はしていなかったが、これからはそれも考えて書かねば。

 年若い幕末の少年、有名な人物ではないほうがいい。長州の市井の少年が成長していく物語を書きたい。モデルはむろん私の息子、陽幸だ。川風に吹かれて食事のことを考えている無邪気な横顔に、百五十年も前の時代を生きた少年の面影が重なって見えた一瞬を、この一瞬を切り取って。

END








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~ Comment ~

NoTitle

う~~む。私ももうちょっと歴史小説を読んだ方が良いのだろうな。
もとい、大河ドラマぐらいは見た方が良いような気がして。
なかなか観れていない。
ちょっと余談でしたね。
恋愛小説でも歴史小説が参考になるときもありますからね。

LandMさんへ

こちらもありがとうございます。

大河はここ数年はずっと見てますが、今年はもう面白くないですね。
三谷幸喜氏が好きではない方には無理かと思われます。
真田幸村はあまりよく知らないので、どれが史実でどれが嘘なのかもわからず。
あの策略、謀略、敵ばかりか味方まで欺く世界に辟易してしまいます。

私はやっぱり幕末が好きです。
幕府側びいきです。
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