ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「ヨコヨコ・サンサン」

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フォレストシンガーズ

ソングライティング物語

「ヨコヨコ・サンサン」

 燦々なのは、三浦と三沢の三と三、スリースリーでは面白くないので、サンサンに燦々の字をあてた。
 三浦俊樹と三沢幸生。三浦は横浜で三沢は横須賀の出身だから、横々コンビでもある。ヨコヨコ? 横入り? 横横道路も横須賀、横浜間をさす。

 大学のゼミで知り合って、俺のほうから近づいて三浦と友達になった。彼は口では迷惑がって、三沢はうるさい、喋るな、俺は聞いてないぞ、などとけんもほろろな態度だったが、実はユキちゃんが好きだったのは知っている。

 ユキちゃんが好きといっても同性愛ではなく、友愛だ。親友というほどでもなくても友達だとは思っていたはず。

 合唱部の女の子との仲を俺が取り持ってやり、アマチュアフォレストシンガーズの練習をふたりで聴きにくるようにはからってやった。相手はひとつ年下のつぐみちゃん。乾さんも三浦にハッパをかけてやり、三浦は帰り道でつぐみちゃんに告白した。

 ふたりがつきあうようになってから、フォレストシンガーズがプロになった。俺には関係ないじゃん、と言いつつも、三浦は我々を気にしていた。
 つぐみと俊樹は交際を続け、結婚し、子どもはいないのでつぐみちゃんも仕事をやっていて、リッチなDINKSだ。DINKSって古い? 俺たちも三十過ぎて、もはや古い男なんだよね。

 時には三浦家にお招きをいただくこともあって、三浦夫婦は俺には数少なくなった一般人の友達だ。三浦がカレーに凝っていたり、つぐみちゃんがインテリアに凝っていたり、結婚記念日のパーティに招待されたり。

「なんか困った顔してる?」
「わかるか。だけど、おまえに話してもなぁ……」
「話せよ」

 今夜は俊樹のほうとふたりで、久しぶりに飲んでいる。つぐみちゃんとふたりのほうがより楽しいかもしれないが、男友達とふたりで飲むのもいいものだ。

「俺が独身だから、話しても意味ないって?」
「それはあるよ。三沢ってオタクだっけ?」
「俺は猫おたくだよ。三浦、猫に興味が出てきたの?」
「猫には興味ないんだけど、最近、はまっちまってさ……」
「なにに?」

 おまえに言っても無意味だとか呟いているが、実は話したいに決まっている。三浦は学生時代から素直ではないので、おまえがくっちゃべってるのなんか聞きたくないんだよっ、と怒るのである。

「実家に防音ルームを作ったんだ」
「実家にはご両親がいるんだっけ?」
「そうだよ。姉も結婚したから、両親が老後の隠居暮らしをしてるんだ」
「そんな年か?」
「親父も定年退職したし、年だよ」

 うちの親父は銀行員で、現在は嘱託として定年後の勤務をしている。我が家の妹たちも結婚して子持ちになり、心残りは長男の幸生が独身ってことだけ……と母が嘆くので、俺はめったと親の家には寄りつかない。三浦はたびたび行っているのだそうだ。

「親孝行だね」
「うん、まあな。それをつぐみが……」
「つぐみちゃんがいやがる?」
「マザコンだって言われそうで、話してないんだよ」
「実家に行くときにはどこに行くって言ってるんだ?」
「パチンコだとか、ちょっとドライヴだとか……」

 男はみんなマザコンだ。うちの場合は本橋さんがもっともマザコンで、だが、妻の美江子さんはおおらかな女性なので夫を責めたりはしない。
 乾さんは別種類のマザコン。
 シゲさんは普通にマザコン。
 章も相当なマザコンだが、絶対に認めない。

 そんな中、俺はマザコンではないほうだが、女の子と話していて、うちのおふくろがさ、と話題に出しただけでも、やだ、マザコン、と言われる。
 なのだから、三浦が妻のつぐみちゃんにマザコンだと言われたくない気持ちもわかるのであるが。

「それを勘ぐって、浮気してるんじゃないかってさ……この間、うちにつぐみのお母さんから電話がかかってきて、俊樹さん、好きな女性がいたりしない? なんて訊かれて参ったよ」
「いないの?」
「いないよ。俺はそう言ってるのに、つぐみの友達にまで疑われてる。俺がそうやってひとりでドライヴに行ったりするなんてあり得ない。絶対浮気だって言われたって」
「してないの?」
「してないよっ!!」

 憤怒のいろで赤くなった顔をして、三浦は俺を睨んだ。

「俺は一般の安月給のサラリーマンだ。浮気だなんて金のいることはできないんだよ」
「金があったらしたいの?」
「いや、あの……おまえも俺と同い年の男だろ。無邪気な質問をするな」
「そうですね、失礼しました」

 浮気ってのはする奴はするが、縁のない奴もいる。したくてもできない奴もいる。シゲさんみたいに……と、シゲさんは関係ないのだった。

「なのに疑うんだ」
「あのさ、なんで正直に実家に行くってるって言わないんだ?」
「だから、マザコンだって言われるから……」
「それだけじゃないだろ。マザコンだって言われるほうが、浮気を疑われるよりはいいじゃないか。えーっと、なにか言いかけてたよな。おたくだとかはまったとか防音ルームだとか……」
「うん」

 暗く沈んだ声を出して、三浦は水割りをすすった。

「もったいぶんなよな。なにか理由があるんだろ」
「趣味だよ。俺は実家に趣味のための部屋を作った。年寄りの親の様子を見がてら、しょっちゅう実家に行くのは趣味のためもあるんだ。趣味だって言ったって女には通じない。どいつもこいつも、浮気を疑いやがる」
「その趣味の話、してないんだろ」
「したくないんだよ」

 怪しい。趣味ってなんだ?
 防音が必要な妻には言えない趣味。音楽か? ヒデさんが言っていたのを思い出した。

「フォレストシンガーズがデビューしたって聞いて、CDを買ったんだよ。だけど、誰かと一緒になんか聴きたくなかった。俺がフォレストシンガーズを聴いてるとは誰にも知られたくなかった。夜中にこっそり、アダルトビデオでも見るみたいに内緒で聴いてたんだよ」

 とすると。

「アダルトビデオ?」
「そんなもん、つぐみとふたりで見るよ」
「ああ、そうなのか、フォレストシンガーズの歌を聴くためじゃないよね」
「俺はフォレストシンガーズなんか聴かないな」

 素直じゃないからそう言っているのであって、フォレストシンガーズもつぐみちゃんとふたりで聴いていると俺は知っている。三浦はFS公式サイトもチェックしているし、ファンクラブにも入っているはずで、フォレストシンガーズの情報には俺以上に詳しい。

「……そしたらなんだ? 猫ビデオ?」
「三沢、おまえは古いんだよ。ビデオじゃないだろ」
「DVD? 防音室で映画とか? 音楽じゃないんだろ? 英会話の勉強?」
「今さら勉強しなくても……」

 そうだ、三浦は英語は話せるんだった。いいなぁ、俺は英語って歌詞でも苦手だよ、と言うと脱線が果てしなくなりそうなので、さらに考えた。

「猫娘のアニメとか? あれ? 三浦、ぎくっとしたじゃん、そうなのか? 俺は最近のアニメには詳しくないんだけど、それか。それだったら奥さんには言いにくいよな。実家に防音室を作って、そこに隠れて猫アニメを見る淫靡なおたく。きゃあ、いやらしい」
「いや、猫アニメじゃないんだけど、近いかな」

 近いんだったらいい。俺はアニメには特に興味はないので、追及する気もない。まあ、それだったら三浦の気持ちもわかる。夫のそんな趣味を理解できる妻は希少だろう。そして、そんな趣味の女とはたいていの男は結婚したがらない。

「男と女は永遠にすれちがい……あ、それ、もらった」
「もらった?」
「歌詞にするんだよ。新曲を考えてるんだ。そのまんまストレートにってわけにもいかないから、ひとひねりしてロマンティックな味をプラスする。男と女の誤解とすれちがいを、演歌ではなくてボサノバにするんだ」
「おまえは結局、俺の悩みをメシのタネにするわけだ」

 だから話したくなかったんだよ、言うんじゃなかった、と三浦は嘆いているが、当然ではないか。そんなつまらん悩みよりも、俺には「歌」が大事。独身者と妻帯者の想いも、こうして永遠にすれちがうものなのである。

END








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