ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSソングライティング物語「稚内ブルース」

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フォレストシンガーズ

「稚内ブルース」

「おまえはな……」
「誰に向かって……」
「シンちゃん呼ばわりしてんだよ?」

 先輩たちが幸生に向かって凄んでみせ、俺は腕を伸ばして幸生を捕まえようとする。幸生はきゃーーっ!! と悲鳴を上げて逃げていき、客席が湧く。
 お約束のステージでのコントだ。

 いい年をしたおっさんでも、男同士が仲良くじゃれているのを喜ぶ女が多いらしく、アイドルグループも頻繁にやっている。フォレストシンガーズでやろうとすると幸生が図に乗って、乾さんとユキのラヴラヴシーンだとか言い出すので、俺にとってはこっちのほうがよかった。

 ステージを幸生を追っかけ回して走っているうちに、本橋、乾、シゲの三人が歌い出す。幸生と俺も慌てたそぶりで加わって、ラヴソングのハーモニーになっていく。

 ライヴを終えてアンコールにも応えて楽屋に戻ると、若い男が待っていた。どこかで見たことのある顔だ。彼は他の四人を無視して、乾さんにだけ話しかけた。

「お疲れっす」
「……ようこそ。聴いて下さったんですね。ありがとうございます、みんな、紹介するよ。ハッピィプロジェクトの荻原さん……」
「紹介なんかいいから。他のひとは俺とは関係ないから。ライヴも聴いてませんよ。俺はロック好きだから、ヴォーカルグループなんてだるいもの、聴いてられませんよ」
「ああ、さようですか」

 なんだか常以上に慇懃な気がする。俺も乾さんとのつきあいは長くなったので、彼が荻原を好いてはいないのは察せられた。

 ハッピィプロジェクトから作曲を依頼された。ハッピネスのアルバムに収録する昭和レトロな演歌だ。ただいま考案中、とは乾さんから聞いていた。荻原はその担当者だろう。ハッピネスってのは最近うじゃうじゃいる、ロックバンドとは名ばかりの有象無象ポップバンドだ。

 関係ないと言われたので俺たちも荻原を無視して、ライヴ後のあれこれにとりかかる。本橋さんは美江子さんに呼ばれて出ていき、シゲさんはシャワーを浴びにいき、幸生と俺はなんとなく乾さんと荻原の会話を聞いていた。

「やっぱフォレストシンガーズって古いよね」
「聴いてなかったんじゃないんですか」
「聴きたくなくても聞こえるもんな。そういえば乾さん、知ってる? フォレストシンガーズファンってださいって評判だよね」
「誰が言ってるんですか」
「ネットなんかではよく出てるよ」

 年齢層は高めのフォレストシンガーズファンにも、若い女はいなくもない。ライヴに来る若い女性ファンは服装がださく、美人は皆無。そんなネットの書き込みを見たことは俺にもあった。

「本当だよね。いい年したおばさんが歌の振り付けに合せて踊ってるのは痛いし、彼氏なんかできそうにもなくて楽しみはフォレストシンガーズだけってな寒そうな若い女とか……」
「あなたはそんな話をしにきたんですか。でしたらお引き取り願いましょうか」
「あれぇ? 怒ったの? そんな話をしにきたんじゃないんだよ。仕事の話」
「なんですか。本題に入って下さい」
「雑談しちゃいけないのかよ」
「あなたとは雑談なんかしたくありません」

 短く鋭く幸生が口笛を吹き、俺は幸生の頭を小突いた。零下三十度って感じの乾さんの冷やかな声。荻原は完全に乾さんに嫌われたらしい。

「……いいけどさ、歌、できた?」
「お受けした以上は仕事はやりますよ。しかし、まだ納期までには時間もあるんだから、待っていただくしかありませんね」
「遅いんだなぁ。そんなにもったいつけなくてもいいのに」
「お話はそれだけですか」
「乾さん、そんなに俺を帰らせたいの?」

 おまえが嫌いだからだ、と俺だったら言うだろうが、乾さんはそんなに素直ではない。黙って煙草に火をつけて、荻原がわざとらしい咳をするのをつめたく見ていた。

 ミュージシャンには喫煙者は珍しくもない。うちでは乾さんと幸生が吸うだけで、現在の本橋さんは煙草嫌いのようだが、本人が言うには、本橋さんは中学生のときに煙草を吸っていやになってやめたのだそうだ。シゲさんは煙草なんかどうでもいいと言う。

 そして俺は、若いころには吸っていて、やめたくなったら簡単にやめられた。禁煙に苦労している者にはイヤミだと言われるほどに、中毒症状はなかった。だから今でも気が向けばちょっとだけ吸って、やっぱやーめた、と思うとやめる。煙草なんてそんなものだ。

 なので、うちの楽屋は禁煙ではない。時々嫌煙者が迷い込んできて文句を言うと、相手によっては……今夜も幸生が煙草をくわえ、俺が火をつけてやった。

「今どき煙草なんて野蛮な……ハッピネスの連中は吸いませんよ」
「そのかわり、もっとやばいもんやってたりして……」
「木村さん、やばいものってなんですか? 変なことを言わないで下さい。あ、そうそう、なんだったら木村さんも、ハッピネスの歌、作らない?」

 黙ってしまった乾さんのかわりに喋ってやった俺に、荻原が言った。

「木村さんってロック好きでしょ。古臭いロカビリーみたいの、いいんじゃないかな」
「俺はロックバンドの依頼だったら受けるけどね」
「ロックバンド……ハッピネスはロックバンドだよ」
「嘘つけ」

 ひとことでぶった斬ってやると、意味がわからないらしくて荻原は怪訝そうにし、幸生がくっくと笑った。

「乾、あとでちょっと……」
「話はすんだから行くよ」

 わざとのようなタイミングで外から本橋さんが声をかけ、乾さんは馬鹿丁寧なお辞儀をして出ていった。荻原は俺たちにもの問いたげな目を向け、幸生がウィンクで応じる。わけわかんねえよ、と呟きながら、荻原も出ていった。

「男も十分、意地が悪いよな」
「……嫌いな奴にはそうなるのは、男も女も同じだろ」
「うん、言えてる。そだ、俺もご当地ソングふうの歌を考えてるんだよ。「横須賀たそがれ」っての」
「どこかから頼まれたのか?」
「フォレストシンガーズの歌として書いてるんだ」

 ぱくりじゃないのか、それ? タイトルだけだったらいいんだよ、と言った 幸生も楽屋から出ていき、俺も身支度をすませて出ていった。
 明日もライヴがあるので、今夜は打ち上げはなしで家に帰って寝る予定だ。ご当地ソングか。俺だと稚内……稚内ねぇ。あの土地はしゃれた歌にはなりにくい。演歌だったらあったかな。「氷雪の門」ってのがあったっけ。

 そんなことを考えていたせいか、翌日、五人がそろったときに幸生が言い出した。

「北海道ではまだ訪れていない、かなり大きな市があるよね」
「ああ、あそこな」
「誰だったかが、あそこには行きたくないみたいなことを言って……」
「メンバーひとりのわがままのために、排除される市があっていいのか」

 ぎくぎくっとしている俺を、八つの瞳が凝視した。

「章、次は稚内だ」
「……はい」

 木村章の出身地は稚内。フォレストシンガーズの熱心なファンだったら知っている。ファンクラブ限定メールボックスや、ラジオ番組にもメールが届く。

「フォレストシンガーズって稚内ではライヴをやってないよね」
「日本全国全市制覇ツアーを計画してるんでしょ。どうして稚内に来ないの?」
「稚内でライヴ、やって下さい。稚内にだってライヴホールはあるんですよ」
「まさかまさか、章くんがいやがってるんじゃない? 章くん、どうしてそんなに稚内が嫌いなの?」
「まだお父さんに勘当されてるの? ファンたちで署名運動してあげようか」
「木村章さんのお父さん、章くんを許してあげて下さい」

 大きなお世話である。
 ではあるのだが、そこまでBBSでエスカレートしていったこともあって、俺としてもまずいとは思っていた。これはやっぱり、腹をくくるしかあるまい。

「わかりましたよ。行きましょ」
「龍に取り持たせて、お父さんにも会うか?」
「リーダー、親父のことは放っておいて下さい。その話と稚内ライヴは別。別々別っ!!」

 おー、わかったよ、そうだな、別だな、とか言いながら笑っている先輩たちは面白がっている。幸生なんぞは目がきらめいている。弟の龍だって、そうと知ったらなんと言うだろうか。別は別だが、俺だって完全に切り離しては考えられない。

 乾さんが「金沢のひと」、幸生が「横須賀たそがれ」だったら、俺は「稚内ブルース」だ。稚内といえばエレジーかブルースだ。少なくとも木村章が作る曲なのだから、それだけは確定していた。

END








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~ Comment ~

NoTitle

年齢を重ねても一定の客が取れれば十分。
若い人やネットからは叩かれても、一部のファンを獲得できればそれで十分な音楽もありますからね。それでなくても、多様化している音楽業界ですからね。
音楽関係は喫煙が多いのは・・どうなのだろうか。
今も多いのだろうか。。。
私は吸いませんから、周囲も吸わないように言いますけどね。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
往年の大スター、演歌歌手などは、ものすごい豪邸に住んでますものね。
芸能人って儲かるんだなぁ。

五年ほど前に、まったく有名ではないけど、CDは出しているシンガーさんから話を聞きました。
やはり音楽業界は喫煙者が多いそうですよ。

五年の間に世の中の嫌煙度はぐんとアップしていますが、ミュージシャンはヘルシーなんかでなくていいのです。

私は煙草はなんとも思いません。
嗜好品なのですから、他人に迷惑がかからない程度に、どうぞ楽しんで下さい、それでいいと思うんですけどね。

NoTitle

ベテランともなると、外との色々なお付き合いも増えるのでしょうね。
外野の声はどうでも、FSは我が道を行ってほしいです。

稚内といえばエレジーかブルース。渋いなあ~
地元でライブはやはり色々な思いが重なるのですよね。
わだかまりなくライブが行える日が来ますように。
皆もいるし、きっと大丈夫だよね。

けいさんへ

コメントありがとうございます。
はい、FSは彼ららしい道を驀進してまいります。
↑選挙演説みたい。

章は稚内イコール雪&俺を勘当した頑固親父、ですから、嫌いってわけではないけどものすごく複雑な気分なのです。
故郷にもっともこだわっているのは、章ですよね、きっと。

けいさんが目を止めて下さったのもありますし、稚内ライヴ、書かなくちゃ。
私は稚内には一度だけ行ったことがあるのですが、ライヴホールってあったかなぁ。なかったとしてもあることにします(^o^)
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